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日曜日の朝だというのに、目覚めは最悪だった。
バウニャンに裂かれた首に手を当てる。
ちゃんと、皮膚がある。
「あー」
軽く声を出してみる。
大丈夫、元に戻っている。
声も出せるし、呼吸もできる。
枕元のスマホに手を伸ばす。
着信はない。皆、今頃目を覚ましているのだろうか。
ショックだった。
殺されたことよりも、見知ったバウニャンが変異した驚きと恐怖。
思えば、皆も同様に衝撃を受けているのかもしれない。
それを言葉に出してしまえば、消えようのない事実となる。それを恐れているのか。
けど、事実だ。
だから、夢が覚め、朝が来た。
スマホに手を伸ばし、皆に集合の連絡を取る。
食欲はないけれど、まずは朝食を食べよう。
※
ファストフードのチェーン店に、僕らは集まった。
一様に表情は暗い。
あの後、皆はどうなったんだろう。
「あなたが殺された後……私達の戦力では負けるのは目に見えていたから脱出を試みたけど」
「どうやっても扉が開かなくてよ。結局追い詰められて殺されちまった。その……」
アルコが言いよどむ。
「バウニャンに?」
「そうだな……バウニャンに、だ」
凶暴化したバウニャンは、結局僕ら三人を皆殺しにしたようだ。
あの可愛らしい生き物がどうして恐ろしい魔物に変貌したんだろう。
「ペナルティ、でしょうね」
思いつめた様子で成宮さんが呟く。
「回復を繰り返して戦闘をこなすなんて、やっぱりズルなのよ。相応の罰則が用意されて然るべきだわ」
「なんだよ、アタシの考えが悪かったってのか?」
「そうじゃないわ。けれど、甘かったって言ってるの」
「なんだよ、全会一致で賛同してたんじゃねーのかよ!」
「私も甘かったって言ってるの!」
珍しく成宮さんが声を荒げる。
無理もない。悪夢の世界で唯一癒やしだったバウニャンの変貌は僕にとってもショックだった。
これから泉の部屋を訪れた時、もう前のように安心して過ごすことはできないだろう。
でも、悪夢の世界が僕らに優しかったことなんてない。
僕らは終わらせるためにあの世界で戦っているのだ。
「続けるしかないよ」
「え……?」
驚いた顔で二人がこちらを見る。
「アルコのアイデアは悪くなかった。バウニャンのペナルティは予想外だったけど、今ではルールを知ることができた。そうでしょ?」
「……たぶん。泉の部屋の三度目の利用。これが条件だと思う」
「バウニャンと戦うのは心苦しいし、恐らく今の僕達では勝てないだろう。けど、黒竜を倒すためには今の作戦でいくしかない」
しばし、三人の間に沈黙が訪れる。
沈黙を破ったのは成宮さんだった。
「そうね。黒竜を倒すために最善のプランだと思ったのは本当だもの。バウニャンのことはショックたったけど……プランを変える理由にはならないわ。否定的な態度をとってごめんなさい」
「いいよ、アタシだって、声を荒げて悪かった」
アルコが照れ隠しのようにポテトの残りを口に流し込む。
「ところで……あとどれくらいで、アルコは合体魔法を撃てるようになるんだろう」
「前回、炎の魔法なら二発は撃てる気がしたな」
「そう言ってたわね」
「合体魔法となると……どうかな、まだ自信ない。前よりはいけると思うけど……分かんねーや」
「アルコが不安なうちはやめておきましょう。無駄に死んでほしくないし、経験を貯める機会も減るから。慎重に」
「じゃあ、今日の夜も……」
「ええ、バウニャンは……怖い。けど、やるしかないもんね」
「だな」
店を後にし、僕らは家路を辿った。




