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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
84/154

44

 迫るヤドカリの群れから逃げつつ、洞穴に転がり込む。

 振り返ると、洞穴の入り口に密集したヤドカリたちは、互いの体をぶつけ合い、洞穴へと潜り込もうとしていた。


「サイズによっては、ここまで追って来れるかもしれないわね」

「そりゃまずい。扉に向かおう」


 慌てて主の扉へと向かう。

 前回と同じく、薄暗く湿った岩肌の通路を抜けていく。

 しばらく進むと、赤い扉が待ち受けていた。


「さて、どういうプランでいこうかな」

「アルコがいないから……こういう言い方は好きじゃないけど、勝つのは難しいかも知れない」

「となると、色々試すのが良さそうだね」

「あるいは、避けるのに集中して、相手の行動パターンを分析するか」

「うーん……正直攻撃はどれも効く気がしないんだよね」

「私もそう思う。普通の武器じゃ、あの鱗を貫通するのは難しいわ」

「となると、行動パターンを探ってみようか」

「うん。そこから隙とか、もしかしたら弱点みたいなものも発見できるかも」

「よし、それでいこう」


 プランは決まった。消極的なプランだけど、次回のためにも命を投資しておく瞬間はある。今がその時だ。

 両手に力を込め、赤い扉を押し開く。

 開いた先には、前回訪れた時と同じ風景が広がっていた。


「壊れたはずの道が復活してる……」

「そう言えば、前回の主――ナメクジも、敗北した次の夢で遭遇したら、傷が元通りになってたわね」

「主と主の部屋は特別な力が働いてるのかな」

「まだまだ分からないことだらけね。行きましょう」


 天井の亀裂からは光が差し、同時に大量の水流が滝のようにこぼれ落ちる。

 通路とその先にある広場は水に囲まれている。

 通路を通り過ぎ、広場にたどり着いた時、地面に衝撃が走った。

 ずがん、ずがん、と巨大な何者かが地面にぶち当たる音が洞窟内にこだまする。

 その暴力的な音の主は、通路を粉々に破壊し水底に沈めた後、巨大な水柱をあげて広場――いや、すでに浮島となった空間へと乗り出してきた。

 黒竜だ。

 全身の鱗がてらてらと濡れる。

 浮島の四方に突き刺さった「燃える岩」から吹き出す炎が、黒一色の体を赤く染め上げる。

 燃えたぎる石油のような巨躯だった。

 その体がぐっと縮まる。


「来るわよ!」


 爆発的な突進。

 前回は、これをまともに受けようとして死んだ。

 体裁なんて気にせず、全力で横飛びし、避ける。

 黒竜はそのまま水堀に落ちるかと思いきや、両腕の爪と筋肉を使い急ブレーキ。難なく停止する。

 横飛びによって無様に転がった僕は、距離を取ろうと反転――


「だめ! 尻尾をよく見て!」


 三叉に分かれた槍のような尻尾。

 その先端が僕に向かって振り下ろされようとしていた。

 避けるのは、無理。盾を構えて――

 ガツン!

 凄まじい衝撃に、思わず盾を放り出してしまう。

 そして、鎌首をもたげたように再び尻尾が僕を狙う。

 盾はそのままに、側転して避ける。

 ずかっ、と地面に太い杭が打たれるような衝撃が走る。

 えぐれた地面の岩に視界を奪われないように顔を腕で守りつつ逃げる。


「こうして見ると、トカゲのようでもあり、サソリのようでもあるわね」


 逃げ込んだ先には成宮さんが弓を構えていた。

 確かに、くねくねと動く尻尾は、トカゲが持つバランスを取るためのパーツというよりは、サソリのような攻撃手段の1つのようだ。なめらかな動きは、サソリの尻尾のような硬質なものではなく、まるで蛇のようだ。


「突進の破壊力もさることながら、尻尾も凄まじいね」

「前回は、あれに串刺しにされたの」


 成宮さんが怒ったような、怖がっているような固い声を出す。


「突進は全力を出せば、なんとか避けられそうだ」

「でも、尻尾と絡められたら、何度も成功するとは限らないわね」


 成宮さんの指示がなかったら、今頃串刺しだった。

 それに、突進直後に尻尾に襲われたら、防ぐ間はなかったかもしれない。


「とりあえず、撃ってみる」


 矢が燃える。ファイアアローだ。

 しゅぼっと、火がゆらめく音を立て、燃える矢が黒竜に迫る。

 矢が黒竜に当たり、ぼうっ、と火が膨れ上がる音がする。

 黒竜にはなんの変化もない。矢が当たったことに気がついているかも怪しい。


「ダメね、効いてないみたい」

「いや、あれは?」


 黒竜の鱗が変色していた。

 黒かった鱗が、熱されたせいか、赤白く発光している。


「あの感じ……ガラスに似ているわね」

「ホントだ似てる」


 熱したガラスに息を吹き込み、姿形を自在に変える職人の様子は、何度かテレビで見たことがある。

 飴のようにぬるりと伸びるガラスは、決まって熱によって赤白くなっていた。


「もしかして、あの鱗も……?」


 何かに気がついた様子の成宮さんが再び弓矢を構えると、それに気がついたのかは分からないけど、黒竜は派手な水柱をあげて水中へと潜ってしまった。


「くっ、確かめたいことがあったのに、これじゃ……」

「確かめたいことって?」

「黒竜の鱗なんだけど――」


 最後まで話す暇はなかった。

 僕らの背後の水中から、黒竜が飛び出してきたのだ。


「まずい、潰され――」


 避けようにも時間がない。

 密集していたのは間違いだったかもしれない。

 そして、頭から背骨、腰から足にかけて衝撃が走る。

 全身が割れる音を聞きながら、絶命した。

 

 

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