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「なるほど……魔法は発動に失敗しても、発動動作が完了した段階で心力を消費するのね」
「あ、アルコが……」
「普段、ウインドカッターは2回の発動が限度、火の魔法は使ったことがないから不明。そもそも、発動できるのかも試したことがなかったけど……」
「な、成宮さん……?」
「でも、木の矢だって、ただの尖った木だもの。それが燃えるんだから、杖から火が出てもおかしくはないわね。ああ、そうか、杖自体が燃えるわけじゃないのね。道具によるのかしら。矢はそれ自体が攻撃の効果があって、弓にはない。だから、弓自体は燃えないのね。意味がないもの。杖自体は攻撃の効果が無くて、そこから放たれるものに攻撃効果がある。なるほど、理解したわ」
「成宮さん、落ち着いて……」
じろりと睨まれる。
「落ち着いてるわよ、この状況にしてはね」
「そ、そうですか」
辺り一面ヤドカリだらけ。ぐるりと囲まれて逃げ出すのは無理そうだ。
アルコ亡き今、魔法で蹴散らすのも難しい。
「検証を甘くみた報いね。ネックレスも消えちゃったし……」
「そういえば」
「死ぬと身につけてるものも消えるというのは盲点だったわね。一人に道具を集めすぎると、いざという時不利に……きゃっ!」
しびれを切らしたのか、ヤドカリが襲いかかってきた。
なんとか避けるものの、逃げ道はなく、次第に追い詰められていく。
ゴブリンに比べると攻撃は単調だけど、いまいち感情が読み取れず、攻撃のタイミングが掴めない。それに、四方から迫る高さの違う攻撃を避け続けるのは、ドッジボールで逃げ続けるのに似て精神的に疲れる。
「このままじゃ、無駄に殺されるね」
「そうね。でも、そろそろ活路が開けそうよ」
「前より密集されて、逃げ道は無いように見えるけど?」
「横軸にはね」
「横軸……縦軸には逃げ道が」
上を見る。
薄暗い天井が見える。
手は届きそうにない。
空を飛べれば――
「あ」
「気がついた?」
「ゴブリンの真似だね?」
「そう。壁を蹴る代わりに、ヤドカリを蹴る」
「ホントだ、今ならいけそうだ」
「先に行くわよ」
成宮さんが正面のヤドカリに飛びかかる。
岩で覆われた図体を蹴り飛ばし方向転換、そのまま反対側のヤドカリに飛び乗る。
「おお、華麗。僕も遅れるわけにはいかないね」
成宮さんの動きを真似して、なんとかヤドカリの上に飛び乗る。
すごい光景だった。
まるで地震のように大量の岩が揺れている。
囲まれている時は気が付かなかったけど、ヤドカリの体同士がぶつかりあい、工事中のような激しい音が断続的に響く。
成宮さんが主の待つ洞穴に向かって移動し始めたのを見て、慌てて追従する。
ヤドカリの背は形がそれぞれ異なり、細かく振動するせいで気を抜くと振り落とされそうになる。
最後のヤドカリの背から飛び降りた時には、ぜえぜえと息があがっていた。
「はぁ、はぁ……な、成宮さんは疲れてないみたいだね」
「祝福のおかげね」
「僕も受けてるんですけど……」
「ふむ、コツは一箇所にとどまらず、跳び続けること、かしら」
「まるで忍者だ」
「忍者……悪くないわね。さ、そろそろ行くわよ」
「うわ」
見ると、ヤドカリたちが方向を変え、こちらへと進軍し始めていた。




