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放課後。
いつものように屋上に集まった。
成宮さんから、あの後のことを聞く。
「ええと、君が言うには黒竜……アイツの尻尾で串刺しになっておしまい。アルコがどうなったのかは、分からない……でも、アルコ一人でどうにかなる相手じゃないと思う」
その通りだった。
昼休みにチャットで連絡があり、ばくりと食べられたことが書かれていた。
どうやら、僕ら三人はなすすべもなくやられてしまったらしい。
「見ていたかしら? 殺される前にファイアアローを撃ったんだけど……」
「効かなかった?」
「ぜーんぜん、ダメ。弾かれておしまい。気にしてる様子もなかったわ」
成宮さんは肩をすくめる。
ファイアアロー自体はか細い矢に炎の力をまとっているだけだから、貫通力に関しては期待できない。けど、僕の剣だって、あの黒光りする鱗に通用するだろうか。
「アルコと連絡が取りたいわね。情報も共有したいし、作戦だって立てたいもの」
「それが……どうしても会いたくないらしくて」
チャットでそれとなく誘ってみたものの、返信はなかった。直接会って、交渉するしかないのかも。
「うーん、困ったわね。まあ、現実世界で準備しても、何か持ち込めるわけじゃないから、向こうについてから話し合えばいいのかもしれないけど」
大きくため息を吐く。
その後、黒竜について話合ったけど、有効な手立ては思いつかず、学校から帰宅した。
※
家に帰ると茜がわんわんと泣いていた。
「どうしたの?」
「お父さんがねえ……」
母さんが困った顔で腰に手をあてている。
どうやら、茜の誕生日に父さんが図鑑を買ってきたものの、希望していた昆虫図鑑ではなく、恐竜図鑑を買ってきてしまったらしい。
「ほら、茜。大昔の昆虫も載ってるぞ。すごく大きなトンボがいたんだって」
「やだ! きらい! 虫のやつがよかったぁぁぁ!」
びえー、と一層激しく泣き始める。
父さんはその後もあれやこれや説得しようと話しかけ続けていたけど、諦めて母さんにバトンタッチして自室へと姿を消した。
「せっかく早退してプレゼントを買っても、茜が気に入らないんじゃね」
「でも、なんで恐竜?」
「この前、恐竜の映画を見たでしょ? その時、茜がかっこいいねってはしゃいだらしくて。本屋で土壇場になって切り替えたらしいわ」
「両方買えばよかったのに」
「なに言ってるの。喜びが分散しちゃうでしょ。こういうのは少しずつ手に入るからいいのよ」
「にしても、茜は昆虫図鑑なんて欲しかったんだ」
「まだまだ女の子らしさと子どもらしさが混ざってるから。てんとう虫がお気に入りらしいわよ」
「ふーん」
茜が置いていった恐竜図鑑をパラパラとめくる。
黒竜撃破のヒントがないかと少しだけ期待していたけど、大した情報はなかった。子どもの頃に見た恐竜のイメージが、最新のデータによって結構変わっていたことに驚いた程度だ。
パタンと本を閉じる。
「ま、恐竜というよりは大トカゲ……それに、現実の生物に完全に一致してるという保証もないし……」
「何か言った?」
「んーん、何でもない」
茜はぐずり続けたけど、夕飯を食べ終わって、誕生日のケーキで機嫌を直し、風呂から上がる頃には恐竜図鑑を楽しそうに読んでいた。
なんとも現金なものだ。
※
目覚めると、暗闇の中にいる。
ろうそくの灯りが僕らを照らす。
案内人がにやりと言った。
「祝福してやろう」




