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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第一章
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第8話 『僕は彼女と特訓する』

「どうしたの?」

「今、成宮さんの妹さんらしき女の子が」

「みなも……?」

「うん、そう名乗ってた」


 成宮さんが驚いた顔をする。

 なにをそんなに驚いて…あ、そうか。

 勝手に家族の人と話したのはマズかった。

 こっそり入ってるわけだし。


「ごめん、家族にバレちゃったかも」

「あ……違うの。そうじゃなくて……」


 成宮さんがしゃがみ込んで下を向く。


「あの子、病弱でいつも寝込んでるの。今朝もそうだったから、まさか起きてるなんて思わなくて」


 そんなに悪いのか。

 確かにはかない雰囲気があった。


「せっかくの機会だし、帰ろうかな……」


 成宮さんが首を横にふる。


「ううん、私から無理に呼んだんだもの。それに、一度起きたら2日間くらい起きっぱなしだから」

「え、2日間?」


 それこそ体に悪そうだ。


「一度寝始めると一ヶ月以上目を覚まさないときもあるから……その分、起きていたいって」


 それって重病じゃないか。

 そんな状態だったなんて。

 もっとまともな返事をしてあげればよかった。


「ぱぱっと特訓を終わらせちゃいましょう。そうすれば、お互い問題なしでしょ?」


 そう言って、剣道の防具を僕に手渡す。

 そうだ、これって成宮さんの、


「それ? 見学者用よ。門下生のに比べれば綺麗だから、多少の匂いは我慢してね」


 そうですよね。

 成宮さんに手伝ってもらいつつ、防具をつける。

 防具を固定するための紐がぎゅっと絞られるうちに、心も引き締まっていく。


「痛くない?」

「大丈夫。ちょうどいい」


 互いの装備が終わり、部屋の中央で両者向かい合う。

 そこで気がついた。


「あれ……僕の竹刀は?」

「ないわよ」


 え、無いの?

 成宮さんがにやりと笑う。

 待って、明らかに獲物を狙う獣の表情ですけど?


「悪夢のための特訓よ? 何も持たずに、相手の攻撃を交わし続ける特訓」

「終了条件というか、降参はあり?」

「それもありません。今から2時間、ひたすら逃げ回ってもらうわ!」

「……冗談だよね?」

「隙あり!」

「痛ッ?」


 ――スパーン!


 頭に竹刀が叩きつけられ、小気味よい音が剣道場に響いた。


「ま、待った!」

「鎧の男は待ってくれないわよ!」


 ――スパーン!


「せ、説明を求める!」

「鎧の男は説明してくれないわよ!」


 ――スパーン!


「む、無茶苦茶だ!」


 防具を着けてても痛いものは痛い。

 脳天から腹の底まで雷のように衝撃が走る。


「ほらほら、もっと逃げ回りなさい! それじゃ、鎧の男のおもちゃのままよ!」


 くそっ、確かに既に3回死んでることになる。

 せめて一矢報いてやる――、


 ――スパーン!


「いってぇ!」

「今、立ち向かおうとしたわね? だめよ、今は逃げる特訓なんだから!」


 鎧の男に勝つことが目的じゃないのか?

 考えながら、僕は全力で竹刀から逃げる。

 それを成宮さんが追いかける。


 全力で逃げると、道場の広さもあって案外攻撃を喰らわないことに気がついた。

 格好悪くても、背を向けて全速力で走れば、相手も攻撃の姿勢を崩して追いかけざるを得ない。

 それでも、竹刀のリーチで逃げ先を潰されたり、移動先を誘導されて、最終的には部屋の隅に追いやられてトドメを刺されてしまう。

 反撃の手がない以上、体力が続く限りの延命しかできない。


「それでも、意味あるのかな!?」

「隙ありーっ!」


 ――スパーン!


 小気味よい音が、これまで以上に大きく響いた。


 ※


「いてて……」

「ご、ごめんなさい。竹刀を持つと、どうしても入り込んじゃって。痛いよね?」

「大丈夫……悪夢に比べればどうってことないよ」

「ふふ、そうかもね。まさか冗談にする時がくるなんて」

「自分で言ってて笑えないよ」


 体全体に鈍痛が走ってるけど、不思議と心地よかった。

 悪夢のような気持ち悪さがない。

 実感を伴った痛みだった。


「とはいえ、ひたすら逃げ回っただけだよ? 成果はあるのかな?」

「気がついてた? 段々逃げる時間が伸びてたことに」


 そうなのか。

 必死だったから、変化に気がなかった。


「これで、少しは鎧の男について、冷静になるれと思う」

「今までは逃げ回ることすら考えなかったからね」

「実はね、鎧の男は今の特訓より遅いの」

「え?」

「だって、相手は鎧を着て、あの剣を振り回してるのよ? さっき私が振り回したのは1キロにも満たない竹刀。素早さが全然違うわ」


 成宮さんの説明に、少しだけ心が軽くなる。

 一矢報いることはできなさそうだけど、逃げ回る中で何か掴めるかもしれない。


「さてと……もういい時間ね。2時間経ったわ」

「もうそんなに?」


 ランナーズハイってヤツだろうか。

 剣道着を着てたのに、ほとんど走ってたな。


「申し訳ないけれど、出口まで案内するわね」

「問題ないよ。ええと……妹さんによろしくね」


 夜七時近くになって、あたりはすっかり暗くなっていた。

 成宮さんに案内されないと、裏口までたどり着くのに苦労しただろう。


「いけない、忘れてた。今日、あなたの就寝時間は……」

「8時だよね。大丈夫、この疲れ具合なら、ぐっすり眠れそうだよ」

「ごめんね」


 申し訳なさそうな成宮さんに笑顔を向けると、その場を後にした。

 鎧の男に、どこまで悪あがきできるだろうか。

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