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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
79/154

39

 学校に向かう電車の中で、昨夜見た夢……砂漠と城の景色を思い出す。

 あの景色について、成宮さんたちに相談すべきだろうか?

 悪夢の世界とも違う、けど似たような実在感を持った、不思議な光景だった。


「いやー、夢のことで、真剣に悩みすぎっしょ」

「えー、でもさー、夢ってストレス発散らしいじゃん?」

「そうなん? じゃー、アンタ欲求不満ってこと?」

「ちがうよー」


 車内にいる女子高生たちの立ち話が漏れ聞こえてくる。

 彼女たちが話しているのは、普通の夢の話だろう。

 そう、普通の夢……そういえば、悪夢を見るようになってから、普通の夢を見ていない。

 昨日のあれは、久しぶりに普通の夢を見ただけだろうか。

 ストレスなら思いあたるどころじゃない。砂漠は先の見えない不安だろうか。では城は……なんだろう?


*


 昼休み、用事を頼まれたついでに、保健教員の吾妻先生に尋ねてみる。


「その通り、砂漠の夢は不安の象徴らしいぞ」


 ミニスカートで足を組み、棒付きの飴を咥えている。

 見のやり場に困るからやめてほしいと以前いったけど、改善する気はないらしい。


「よく知ってますね」

「この本に書いてあったからな」


 机の上には『誰でもできる夢占い』『夢が全てを教えてくれる』といったタイトルの本が置かれていた。


「夢に関する本、好きなんですね」

「別に好きじゃないぞ? 高校生は多感だからな。なんにでも意味を付けたがる。大したことじゃなくても、殊更重要だと思い込んだり、恐れたりな。夢についても、結構相談があるんでな。めぼしい本を適当に見繕っただけだ」


 それにしては数が多くて、専門的な本も混じっているようだけど……案外凝り性なんだろうか。適当に見えるけど。


「僕の夢も……そうなんですかね」

「ま、重大な啓示だと思い込んでるフシはあるな。疲れてるって自覚はあるんだろ?」

「ええ、最近は疲れがとれなくて……色々あるので」


 そこまで話すと、吾妻先生はにやにやしていた。


「なんです?」

「青春だな、と思ってな」

「青春?」

「成宮だろ、疲れの原因は」

「いや、話が見えませんが」

「ご盛んという意味じゃないぞ?」

「あなた、教師ですよね」

「冗談だ。付き合ってるんだろ? 分かってる、他の生徒には内緒にしておくから。付き合い始めは大変だよな。理想が現実になるというか、エンディングかと思ったらスタートラインだったというか……」


 遠い目をして窓の外を見る。

 しばらく放っておこう。

 回想が終わったのか、視線をこちらに戻す。


「すまんすまん、思わぬ古傷が疼いたよ。いたた」

「心中お察しします」

「適当な返しだな。まあ、いい。もう一つ夢を見たんだろ?」

「ええ、砂漠の次は城です」

「城か……ええと、なんだっけな」


 机から本を手に取りパラパラとめくる。


「あったあった。なになに? どういう状況かによって意味が変わるみたいだな」


 該当するページを読ませてもらうと、色々なことが書かれていた。城の状況によって変化はあれど、どれも当たっているようには思えなかった。


「ま、単なる夢だ。夢は不安の現れだってことが多いが、それを案じて不安になるようじゃ本末転倒だな。あまり思い悩まないほうがいいぞ」

「そうですね……少しだけすっきりしました。ありがとうごさいます」

「礼ならこの著者に言ってくれ」


 話が一区切りついたのと、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴りそうなので保健室を後にする。

 あれだけ悪夢を見てたら、そりゃ普通の夢も不穏な夢になるよな……。

 これ以上、皆の不安を煽る必要もないだろう。

 もしもう一度同じ夢を見るようなら……その時は、相談しよう。

 そう判断して教室へ向かう。

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