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洞穴の奥に、威圧感のある赤い扉があった。
複雑な文様で縁取られ、よくみるとグロテスクな獣の顔など描かれており、否が応でも嫌悪感を引き起こす。
ためらいながら扉に触れると、ひやりと指が吸い付くほどに冷たい。
周囲は仄暗い。しかし、この扉以外に通路もなく、先に進むには扉を開けるしかない。
「この扉……異様だな」
アルコがぽつりと呟く。
小さな声だったにも関わらず、その音が洞穴内に反響し、岩肌に染み渡って消え失せる。
「この先に、きっと、主がいるわ」
はっとアルコが顔をあげる。
この扉を開けるのには、覚悟が必要だ。
相手の力は強大で、限りなく死に近い部屋なのだから。
「行こう……か」
「ちょっと待て」
アルコが目を閉じて、胸に手を当て、すーはーと深呼吸をする。
何度か息を吸い、吐いた後、いつもの強気な目でこちらを見つめてきた。
「……いいぜ、行こう」
うなずき、成宮さんを見る。
彼女も同じ目をしていた。
覚悟は決まった、扉を開けよう。
両開きの扉に手をかけ、ゆっくりと、力をこめて少しずつ押していく。
岩の中に埋め込まれているにも関わらず、扉はスムーズに開いていく。
完全に開けきり、三人で中に入った時、目の前が急に明るくなった。
神秘的な風景が広がっていた。
天井は高い。商業ビルの吹き抜けのように、天高く、これまでの洞窟の抑圧が嘘のようだ。その一部に大きな亀裂が走り、ひび割れた穴から大量の水が滝のように注ぎ落ちていた。
その水が周囲を堀のように囲んでいた。
「外の光が……」
亀裂からは水以外に、外からの光がこぼれ落ちていた。晴天のそれではなく、曇天からのうっすらとした明るさ。それでも、悪夢の世界に閉じ込められている僕らは、その弱い光を幻であるかのように夢見心地で見つめていた。
しばらく呆然としたあと、部屋の中を見渡す。
天井と同様に、部屋の中も広い。
いや、部屋というよりはドームといったほうが近いかもしれない。野球場のドームよりは格段に狭いけど、半球状に形作られ、おごそかな聖堂といった趣だ。
部屋の中は滝からの水で満たされていて、中央には浮島のようにゴツゴツとした岩が転がる広場があった。
広場の四隅には、太くしっかりとした岩の柱が立っている。明らかに周辺の岩とは種類が異なるけど、ただ置かれているというより、根深く突き刺さっているように見える。
そして、どういう原理かは分からないけど、岩自体が燃えていた。
岩が燃えるというのも意味不明だけど、確かにメラメラと炎まとっている。岩の亀裂の隙間から炎が噴き出しているのかもしれない。
扉を開けた先の通路は、そのまま浮島のような広場へとつながっていた。広場には何者もいない。けど、明らかに、
「広場に到着したら……主が現れるんでしょうね」
前回のナメクジもそうだった。
最初は姿が見えず、部屋の中央にたどり着いた時、天井からすさまじい質量のナメクジが降ってきたのだ。
おそらく、今回も、主が待ち伏せているに違いない。
「行くしかないんだろ?」
アルコの表情は変わらない。
そうだ、行くしかない。
僕たちは、警戒しながらも、恐れずに広場へと歩を進めた。
「……っ!?」
突如として、地響きが始まる。
い断続的な衝撃だ。地震ではない。
何者かが、地面を揺らしている。それも、鐘を打つかのように凄まじい勢いで。
扉と広場をつなぐ通路が崩れ落ちる。
これで陸の孤島だ。
周囲を水に囲まれ、もはや逃げることはできない。
完全に通路が崩れ去り、衝撃が収まる。
僕らは背を預けながら中央に固まる。
互いの呼吸の音が聞こえる。
一瞬の静寂のあと、ついに水面から主が姿を表した。
その姿は巨大なトカゲ。全身は槍のように尖った鱗にびっしり覆われ、黒光りしている。
大きさは小型の船ほどあり、顔だけで車一台分はある。
その顔は西洋の兜を被ったかのように、うろことは異なる硬そうな皮膚で覆われていた。
鎧竜……まるで、全身を黒い鎧に身を包んだかのような主だった。




