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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
77/154

37

 洞穴の奥に、威圧感のある赤い扉があった。

 複雑な文様で縁取られ、よくみるとグロテスクな獣の顔など描かれており、否が応でも嫌悪感を引き起こす。

 ためらいながら扉に触れると、ひやりと指が吸い付くほどに冷たい。

 周囲は仄暗い。しかし、この扉以外に通路もなく、先に進むには扉を開けるしかない。


「この扉……異様だな」


 アルコがぽつりと呟く。

 小さな声だったにも関わらず、その音が洞穴内に反響し、岩肌に染み渡って消え失せる。


「この先に、きっと、主がいるわ」


 はっとアルコが顔をあげる。

 この扉を開けるのには、覚悟が必要だ。

 相手の力は強大で、限りなく死に近い部屋なのだから。


「行こう……か」

「ちょっと待て」


 アルコが目を閉じて、胸に手を当て、すーはーと深呼吸をする。

 何度か息を吸い、吐いた後、いつもの強気な目でこちらを見つめてきた。


「……いいぜ、行こう」


 うなずき、成宮さんを見る。

 彼女も同じ目をしていた。

 覚悟は決まった、扉を開けよう。

 両開きの扉に手をかけ、ゆっくりと、力をこめて少しずつ押していく。

 岩の中に埋め込まれているにも関わらず、扉はスムーズに開いていく。

 完全に開けきり、三人で中に入った時、目の前が急に明るくなった。

 神秘的な風景が広がっていた。

 天井は高い。商業ビルの吹き抜けのように、天高く、これまでの洞窟の抑圧が嘘のようだ。その一部に大きな亀裂が走り、ひび割れた穴から大量の水が滝のように注ぎ落ちていた。

 その水が周囲を堀のように囲んでいた。

 

「外の光が……」


 亀裂からは水以外に、外からの光がこぼれ落ちていた。晴天のそれではなく、曇天からのうっすらとした明るさ。それでも、悪夢の世界に閉じ込められている僕らは、その弱い光を幻であるかのように夢見心地で見つめていた。

 しばらく呆然としたあと、部屋の中を見渡す。

 天井と同様に、部屋の中も広い。

 いや、部屋というよりはドームといったほうが近いかもしれない。野球場のドームよりは格段に狭いけど、半球状に形作られ、おごそかな聖堂といった趣だ。

 部屋の中は滝からの水で満たされていて、中央には浮島のようにゴツゴツとした岩が転がる広場があった。

 広場の四隅には、太くしっかりとした岩の柱が立っている。明らかに周辺の岩とは種類が異なるけど、ただ置かれているというより、根深く突き刺さっているように見える。

 そして、どういう原理かは分からないけど、岩自体が燃えていた。

 岩が燃えるというのも意味不明だけど、確かにメラメラと炎まとっている。岩の亀裂の隙間から炎が噴き出しているのかもしれない。

 扉を開けた先の通路は、そのまま浮島のような広場へとつながっていた。広場には何者もいない。けど、明らかに、


「広場に到着したら……主が現れるんでしょうね」


 前回のナメクジもそうだった。

 最初は姿が見えず、部屋の中央にたどり着いた時、天井からすさまじい質量のナメクジが降ってきたのだ。

 おそらく、今回も、主が待ち伏せているに違いない。


「行くしかないんだろ?」


 アルコの表情は変わらない。

 そうだ、行くしかない。

 僕たちは、警戒しながらも、恐れずに広場へと歩を進めた。


「……っ!?」


 突如として、地響きが始まる。

 い断続的な衝撃だ。地震ではない。

 何者かが、地面を揺らしている。それも、鐘を打つかのように凄まじい勢いで。

 扉と広場をつなぐ通路が崩れ落ちる。

 これで陸の孤島だ。

 周囲を水に囲まれ、もはや逃げることはできない。

 完全に通路が崩れ去り、衝撃が収まる。

 僕らは背を預けながら中央に固まる。

 互いの呼吸の音が聞こえる。

 一瞬の静寂のあと、ついに水面から主が姿を表した。

 その姿は巨大なトカゲ。全身は槍のように尖った鱗にびっしり覆われ、黒光りしている。

 大きさは小型の船ほどあり、顔だけで車一台分はある。

 その顔は西洋の兜を被ったかのように、うろことは異なる硬そうな皮膚で覆われていた。

 鎧竜(よろいりゅう)……まるで、全身を黒い鎧に身を包んだかのような主だった。

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