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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
75/154

35

 ひとしきり休んだあと、部屋を出る。

 次は反対側の扉だ。

 通路はこれまでより広かったけど、アルコを真ん中にした隊列のまま進む。

 周囲にゴブリンの穴もなく、すぐに扉にたどり着く。

 扉は木製でボロボロだった。小柄な猫くらいなら、難なく通り抜けられそうな穴が空いている。

 当然、鍵もかかっておらず、おせじにも重要なアイテムが置かれているとは思えない。


「開けるよ」


 扉に穴は空いているけど、薄暗くて中は伺いしれない。これまでと同じように、油断せず、ゆっくりと扉を開ける。


「うげ……なんだこの匂い?」


 部屋の中は妙な香りが漂っており、壁は熱で溶解したように、ドロドロと厚みのあるヒダ状の岩が垂れ下がっていた。


「なんだか、生き物の体内にいるみたいだね」


 言ってて薄ら寒く感じる。

 部屋の中央には大きな切り株程度の岩が置いてあった。岩は相撲の土俵のように平らになっており、中心に小さな穴が空いていた。

 覗き込むと、すぐに底が見える。穴というよりはへこみに近い。


「何かしらね、この台座みたいな…あら?」


 成宮さんがしゃがみこむ。

 台座の脇に何か落ちていたようだ。


「これって……」


 落ちていたのは人形のカケラだった。

 下半身が崩れ、上半身しかないけど、確かに僕が腰につけているものと同じ人形だ。

 人形はゴブリンが通る穴から見つかった。すると、この台座もゴブリンに関わるものなのだろうか。


「なんだか不吉だな……行こうぜ?」


 アルコが腕をさすり、後ずさる。

 確かに不吉だけど、何か秘密もありそうだ。

 この穴……もしかして。


「どうしたの?」


 成宮さんが心配そうにする。

 目で大丈夫と伝えて、腰につけている人形を取り外し、台座の穴に差し込んでみる。

 かちゃり、とは言わなかったけど、ちょうど人形の頭が飛び出る形ですっぽりと収まった。

 しばらく待ってみても、何も起こらない。

 とうにもおかしな行為をしてしまったようだ。

 苦笑しながら、人形を穴から取り外す。


「おい、それ……」


 もともと、人形の胸には穴が空いていた。

 それが、今はその穴に緑色の煙が小さく立ち込め、強く発光していた。


「うわ、いつのまに」

「熱くないの? 触ったら危険じゃないかしら?」

「熱くはない。冷たくも……」

「なんか、心臓みたいに脈打ってねーか?」


 確かに緑色の光は心臓のように、ドクンドクンと弱く光ったり、強く光ったりを繰り返していた。周期も僕の鼓動と似たリズムだった。


「いや、むしろ……」


 リズムはまったく同じだった。まるで、僕の心臓にシンクロしているかのように、光が明滅している。


「やっぱ、不吉じゃね……? 生命エネルギー奪われてたりして」

「うーん、そういう感じはしないけど。とりあえず、また腰につけて持っておくよ」

「大丈夫?」

「気になるけどね。でも、役立つアイテムかもしれない」

「そうね……ゴブリンの儀式用の道具だったりするのかしら?」


 女性陣の不安をなだめつつ、部屋をでる。

 バウニャンのいる泉の部屋はまた戻ってくることもあるだろうけど、ひとまずこちらの通路に用はない。もとの分岐路に戻り、今度は右側の通路を進む。

 ゴブリンたちと何度か遭遇しつつ、通路を進むと急に拓けた空間へたどり着いた。

 天井は高く、つららのように先の尖った岩が連なっている。肌寒いと思ったら壁際には水路があり、まだ見ぬ洞窟の奥に向かって流れていた。

 水路を覗き込むと、流れは緩やかで溺れる心配はなさそうだったけど、代わりに底の見えない暗闇が広がっていた。


「洞窟は光源が弱いから、水の中も真っ暗ね」

「こえーな、落ちたらパニックになりそうだ。離れて歩こうぜ」


 アルコの意見に同意して、広場の真ん中をしばらく進むと、身の丈ほどの巨大な岩がゴロゴロと転がっている一帯にたどり着いた。

 大小様々な岩が並んでいた。小さなものだと僕の膝下程度のサイズだけど、大きなものだと3メートルはあるだろうか、よじのぼるのもやっと、という高さだった。


「どこから来たのかしらね、この岩」

「こっちの世界に現実の理屈は通用しねーだろ」

「そうね……もともと、この辺り一帯が水路だったのかしら」

「まあ、そういうこともあるだろうけど……」


 不思議な巨岩は道を塞ぐほどではなく、間をすり抜けて進んでいく。

 ようやく通り抜けると、壁が立ちふさがり、その根本には3つの洞穴が口を開けていた。


「また選択ってか、どの穴から入る?」

「入る前に、それぞれ覗いてみましょうか」


 ところが、洞穴はいずれも暗く、少し覗いた程度では中を伺い知ることはできそうになかった。


「困ったわね」

「真ん中からでいーんじゃね? 今まで左右の分岐路だったしさ」

「どこも等しく重要だろうから、とにかく入ってみようよ」

「じゃあ、せめてファイアアローで……あら?」


 火元を探していた成宮さんが何かを発見したようだ。


「どうしたの?」

「あの岩……あんな場所にあったかしら」


 さっきまですり抜けてきた巨岩。それぞれ同じような場所に並んでいたけど、そのひとつが不自然に飛び出ていた。


「たくさんあったからなあ……」

「気にしすぎじゃねーの?」

「そうね……よし、ファイアアローの充填完了よ。それじゃ、真ん中の穴から……」


 成宮さんが穴に近づいていく。

 めらめと燃える矢も、洞穴の暗さをかき消すほどではない。


「撃つから、離れておいて……きゃっ!」


 注意のためにこちらを見た成宮さんが悲鳴をあげる。

 何事かと振り返ると、


「な、なんだこれ!?」


 遠くにあったはずの巨岩が、ずりずりと目前まで迫ってきていた。

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