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扉の中は、勝手知ったる泉の部屋だった。
もちろん、犬と猫と、それから少しだけギューミンに似た間抜けな表情をしたバウニャンもセットだ。
これまでに比べると、壁はごてごてとした岩がせり出し、部屋というよりは穴蔵といった雰囲気だったけど、機能はおそらく変わらないだろう。
「ここで小休止だな」
「そうね。所持品に問題がないか調べておかないと」
各々、少しだけ気を緩めて過ごし始める。
僕は壁によりかかり、剣と盾を調べつつ、これまでの戦闘を反芻する。
ゴブリンとの戦いが続いているけど、そのほとんどは成宮さんのがんばりによってなんとかなっている状況だ。洞窟に入ってからは魔法が使いづらいことでアルコも困っているけど、広い場所では大勢を一気に片付ける力を持っている。
僕だけなんだよな、役に立っていないのは。
成宮さんのように技があるわけでも、判断力に優れているわけでもない。アルコのように魔法を使えるわけでもない。
とりあえず、いないよりはいたほうが戦力になるから……男だから、少しは力があるから……そんなところだ、役に立つのは。
「なに考えてんだ?」
いつの間にか、アルコが目の前に立っていた。
その後ろで、成宮さんが心配そうにこちらを覗き見ている。
「いや、なんでも、」
「ないことねーだろ」
ぐっと返答に詰まる。
「知ってるぜ、その顔。自分のことをダメなやつーって思ってる時の顔だ」
「そ、そんなこと……」
ずい、とアルコが顔を近づけてきて、小声で、
「ばーか、ひきこもりやってんだぜ? へこんだ時の表情なんて、鏡の前でさんざ見てるぜ」
「……ごめん。ちょっと、自信なくしてた」
アルコの後ろで、成宮さんがはっとした顔をする。
「なんで?」
「僕、二人に比べて取り柄がないから」
「アタシたちの取り柄って?」
「アルコは魔法が、成宮さんは剣術が……作戦だって立てられる」
「そんなことないわ。根拠も大してない、ただの提案よ」
「それはそれで過小評価だと思うけどね、アタシは。ヒカリはすげーよ」
ストレートな賞賛に、成宮さんが恥ずかしそうにうつむく。
「ご存知の通り、アタシだって作戦立てたり、考えるのは苦手だぜ? ってことは役立たずなのか?」
「そんなこと……! ほ、ほら、魔法が使えるしゃないか」
「はっはー、魔法? こんなの、杖のおかげだろ。アタシの力じゃないぜ。少しだけ評価するなら、バトン回しがちょっぴり上手なくらいだな」
「でも……それすら、僕には」
「あのな、オマエはここにいるだけで役に立ってるんだ。分かるか? おっと、頭数の話じゃないぜ。オマエ自身の存在意義の話だ。確かにこの世界は戦闘だらけだ。けど、こっちの世界は本物じゃない。目が覚めた後の現実、それが本物だろ? 本物の世界で魔法なんて使えないし、戦い方だって、大して役に立たない。そしたら、アタシもヒカリも、役立たずなのか?」
「そんなことは……ない」
アルコが笑顔になっている。
少しだけ、イタズラ好きな猫のような。
「だろ? なんで役立たずじゃないかって? 仲間だから、信頼してるからだよ。だから、この悪夢の世界でも戦えるんだ。力や技、まして魔法が使えるからじゃない。オマエが、ヒカリがいるから頑張れるんだ。アタシを勇気づける、頑張らせてくれる力が、オマエにはあるんだぜ? どうだ、これでもまだ役立たずだなんて言えるか?」
穴があったら入りたかった。
そうだ、僕らは戦う力があるから寄り集まっているるんじゃない。
初めこそ巻き込まれた形だけど、今では共にいる、それだけでこの世界に抗う、生きるための力になっている。
僕にとってのアルコと成宮さんがそうであるように、二人にとっても、僕はそういう存在になっていたのだ。
「ふん、分かったみたいだな」
「ちなみに、最初の主を倒したのはあなたの力だし、これまでの戦いでどれだけ活躍したと思ってるのかしら? 役立たずだなんて、勘違いも甚だしい……ちょっと、聞いてるの?」
「ヒカリの言い方! 誉めてるのに怒ってるみたいでおっかないぜ」
「怒って誉めてるの!」
成宮さんの剣幕に、アルコと二人、あははと笑う。そのうち、成宮さんもつられて笑い始める。三人の周りを、興奮したバウニャンが楽しそうにくるくると駆け回る。
彼女たちとなら頑張れそうだ、そして、もっと頑張ろう。
笑いながら、そう決意する。




