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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
72/154

32

「でも、助かったよ。成宮さん、よく気がついたね、ゴブリンがいるなんて」

 成宮さんは小首を傾けながら苦笑する。

「思い出すのが遅れちゃったけどね。ほら、赤目たちがいた部屋の前に、小さな穴があったでしょう?」

「ああ、袋が落ちてた穴な。気持ちのワリー人形の入ってた」


 アルコが、僕の腰に付けられた人形を嫌そうに見る。ふん、僕だって好き好んで付けてるわけじゃない。


「そう、その穴とサイズが一緒だなって思って。それに、さっきまでゴブリンたちと戦ってたから、洞窟にもいるかなって……と、ぼんやり思ってたのが、ぎりぎりになって結びついたのね」

「間に合ってよかったよ。頭でも突っ込んでたら、今頃首を落とされてたかも……」

「不注意だなー」

「アルコには言われたくないけどね」


 ゴブリンの入っていた穴から、他のゴブリンが出てきやしないかと身構えたものの、どうやら出てこないことが分かった。


「戻ろうか」

「待って、穴の中を少し調べてみる」

「でも、真っ暗で奥は見えないよ?」

「それは……ほら」


 成宮さんが弓を構える。しばらくして、矢が燃え始める。


「おお、松明いらず?」

「いえ、多分構えていないとダメだと思うの」

「じゃあ、構えながら歩いたらどーだ?」

「んもう……いやよ、そんなの」

「ファイアアローを穴の中に撃つんだね?」

「うん、少しは奥の様子が見えるかなって」


 構えた矢を穴の中に放つ。すぐにカツンと岩に当たる音がした。

 穴の中を覗こうと顔を寄せた時、同時に覗こうとしていた成宮さんと予想外に顔が近づいた。


「おっと……」

「ご、ごめんなさい……」


 照れくさくなって、穴の前でぺこぺこと互いに謝る。


「おーい、矢が燃え尽きちまうぞ」


 呆れたアルコの声に我に返り、どうぞと勧められて成宮さんより先に穴の中を覗く。

 距離感は分からないけど、穴の中でちろちろと燃えている矢が見えた。

 どうやら、穴の先は行き止まりになっているらしい。少しだけ広い空間があるのは、ゴブリンの巣穴だからだろうか。特に枝分かれしている様子もないので、何かが隠されていることもなさそうだ。

 僕の後に覗いた成宮さんも同じ感想だった。


「なーんだ、お宝はナシ、か」

「これから、似たような穴を発見したら、気をつけましょう」


 周囲を見渡す。ゴブリンがいた穴以外にめぼしい物はなさそうだ。


「それじゃ、戻ろうか」


 狭い通路に文句を言いながら、来た道を戻り、分岐路にたどり着く。


「今度は左だな」


 左の道も、右の道と同様に狭くなったり広くなったり、進みにくい構造だった。

 時折ゴブリンが襲ってきやしないかと不安になって背後を見ると、アルコが「なんだよ?」と睨みつけてくる。

 そのうちに隊列が変えられないほど狭くなり、一直線に並んで進んでいた時、ついに恐れていた事態が起きた。


「ぎいっ」


 隊列の後方、アルコがいる側からゴブリンが襲ってきたのだ。


「ど、どうして……あっ」


 壁の高い位置、そこに穴が空いていた。

 確認していたつもりだったけど、最初の赤目の部屋の前の穴と、さっきの穴の位置の印象が強く、低い位置にあると思い込んでいたせいで見逃してしまった。


「あ、あわてるこたーないぜ? アタシの魔法で……あれ?」


 カツンと杖が壁に当たる。

 狭すぎて、杖を回転させるのは無理なようだ。


「ど、どうしよう!?」

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