32
「でも、助かったよ。成宮さん、よく気がついたね、ゴブリンがいるなんて」
成宮さんは小首を傾けながら苦笑する。
「思い出すのが遅れちゃったけどね。ほら、赤目たちがいた部屋の前に、小さな穴があったでしょう?」
「ああ、袋が落ちてた穴な。気持ちのワリー人形の入ってた」
アルコが、僕の腰に付けられた人形を嫌そうに見る。ふん、僕だって好き好んで付けてるわけじゃない。
「そう、その穴とサイズが一緒だなって思って。それに、さっきまでゴブリンたちと戦ってたから、洞窟にもいるかなって……と、ぼんやり思ってたのが、ぎりぎりになって結びついたのね」
「間に合ってよかったよ。頭でも突っ込んでたら、今頃首を落とされてたかも……」
「不注意だなー」
「アルコには言われたくないけどね」
ゴブリンの入っていた穴から、他のゴブリンが出てきやしないかと身構えたものの、どうやら出てこないことが分かった。
「戻ろうか」
「待って、穴の中を少し調べてみる」
「でも、真っ暗で奥は見えないよ?」
「それは……ほら」
成宮さんが弓を構える。しばらくして、矢が燃え始める。
「おお、松明いらず?」
「いえ、多分構えていないとダメだと思うの」
「じゃあ、構えながら歩いたらどーだ?」
「んもう……いやよ、そんなの」
「ファイアアローを穴の中に撃つんだね?」
「うん、少しは奥の様子が見えるかなって」
構えた矢を穴の中に放つ。すぐにカツンと岩に当たる音がした。
穴の中を覗こうと顔を寄せた時、同時に覗こうとしていた成宮さんと予想外に顔が近づいた。
「おっと……」
「ご、ごめんなさい……」
照れくさくなって、穴の前でぺこぺこと互いに謝る。
「おーい、矢が燃え尽きちまうぞ」
呆れたアルコの声に我に返り、どうぞと勧められて成宮さんより先に穴の中を覗く。
距離感は分からないけど、穴の中でちろちろと燃えている矢が見えた。
どうやら、穴の先は行き止まりになっているらしい。少しだけ広い空間があるのは、ゴブリンの巣穴だからだろうか。特に枝分かれしている様子もないので、何かが隠されていることもなさそうだ。
僕の後に覗いた成宮さんも同じ感想だった。
「なーんだ、お宝はナシ、か」
「これから、似たような穴を発見したら、気をつけましょう」
周囲を見渡す。ゴブリンがいた穴以外にめぼしい物はなさそうだ。
「それじゃ、戻ろうか」
狭い通路に文句を言いながら、来た道を戻り、分岐路にたどり着く。
「今度は左だな」
左の道も、右の道と同様に狭くなったり広くなったり、進みにくい構造だった。
時折ゴブリンが襲ってきやしないかと不安になって背後を見ると、アルコが「なんだよ?」と睨みつけてくる。
そのうちに隊列が変えられないほど狭くなり、一直線に並んで進んでいた時、ついに恐れていた事態が起きた。
「ぎいっ」
隊列の後方、アルコがいる側からゴブリンが襲ってきたのだ。
「ど、どうして……あっ」
壁の高い位置、そこに穴が空いていた。
確認していたつもりだったけど、最初の赤目の部屋の前の穴と、さっきの穴の位置の印象が強く、低い位置にあると思い込んでいたせいで見逃してしまった。
「あ、あわてるこたーないぜ? アタシの魔法で……あれ?」
カツンと杖が壁に当たる。
狭すぎて、杖を回転させるのは無理なようだ。
「ど、どうしよう!?」




