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「なんだろう、この穴?」
壁に空いた穴を調べていると、どうしたどうしたとアルコたちが寄ってくる。
「……もぐらの穴?」
「こんな大きなもぐらがいるわけが……この世界ならありえるわね」
「んー、暗いな。奥が見えないや」
「ちょっと、顔を突っ込むのは危険じゃない?」
光源に乏しい洞窟の、さらに横穴とあって、奥は真っ暗、なにがあるのかさっぱり分からない。
「待って……これくらいのサイズの穴、どこかで目にしたような……」
「そうだっけ?」
穴の中に腕を突っ込み、さらに調べようとしたとき、
「ゴブリン!」
「え?」
成宮さんが叫ぶのと、僕が腕を引くのは同時だった。遅れて、穴の中から薄汚れた緑色の小鬼が飛び出してくる。
穴の中にいたのはゴブリンだった。
おそらく、この穴はゴブリンの巣穴か、寝床なのかもしれない。
「大丈夫?」
「な、なんとか手を噛み切られずに済んだみたいだ」
「ど、どうすんだ!?」
狭い空間に三人とゴブリン。後列にいるアルコの手助けは期待できない。なにより、この狭さで魔法を使うのは自殺行為だ。
剣を振るおうにも、周りの成宮さんたちに当たってしまうかもしれない。
僕が逡巡していると、成宮さんから指示が飛ぶ。
「あなたは下がってアルコを守って。私が倒すから」
ここで判断に口を挟んでも時間の無駄、成宮さんの邪魔になるだけ。だから、言うとおりにアルコの近くまで移動する。
成宮さんは、すらりと短剣を構えてゴブリンと対峙する。いつぞやの通路の再現だ。
「ぎいっ」
ゴブリンが跳躍する。
ガツッ!
途中、壁を蹴って勢いをつける。
「あの時と同じだ!」
アルコが悲鳴を上げる。
「予想通りね」
成宮さんが静かに立ち位置を変え、短剣を縦に振り下ろす。
ゴブリンはそのまま成宮さんを通り過ぎ、僕達の前でどさりと崩れ落ちた。
「すげえ! ……けど、なんで?」
「これだけ狭いんだもの、相手の行動範囲だって狭まるから。これまでの戦いでゴブリンの初手が飛び跳ねやすいことも分かってたし……」
「そんな傾向が……?」
「だから、あとは向きとタイミングを合わせて、縦に斬りつけるだけでしょ?」
「まったく、コエー女だな! 頼もしいっちゃ、頼もしいけど」
今回だけはアルコに同意。
口には出せないけど。




