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赤目の死体があった場所に赤錆びた鍵が落ちているのを発見し、部屋の正面にあった扉を開ける。
鈍く軋む音を出しながら、扉がゆっくりと開く。
扉の奥は細い直線の通路。ただ、これまでと大きく違うところがあった。
「壁が……」
成宮さんが周囲の壁に手を当てる。
これまでの壁が石造りだったのに対し、通路の途中からはでこぼことした自然の岩が姿を見せていた。
そして、通路の奥には扉がある。
ゴブリンの気配はしないけど、異なる様子に身構えながら扉に接近、再びゆっくりと開ける。
「洞窟か……!」
扉の先は洞窟だった。
やや黒の混じった茶色い岩が圧倒的な存在感で僕達を包み込んでいた。
ところどころ、てらてらと濡れており、岩の隙間から水がにじみ出ているようだった。
洞窟の壁には鉄製と思われる金具で松明が打ち付けられており、これまで同様、静かに暗く周囲を照らしている。そのか細かい火が、洞窟の立体感を強く演出していた。
「足下が不安定で危ないけど……灯りがあるのがせめてもの救いね」
成宮さんが確かめるように、でこぼことした地面を蹴りつける。
「アルコ、転ばないように」
「転ばねーよ! けど、確かに歩きづらいな」
アルコはローブ姿ということもあり、荒削りの洞窟は、ひっかかりが多くて歩きづらそうだった。
「周囲に敵もいないようだし……進もうか」
とにかく、前進するしかない。
警戒しつつ、道なりに進むと、道が二手に別れていた。
「さっそく分岐路かよ」
「どちらも暗くて先は見通せないわね……」
少し話し合い、手がかりもないため右に進むことにする。
通路の幅は、三人が横並びで十分歩ける時もあれば、一人でも窮屈になるときがあったりと、様々に変化した。
「なんとか通れるけど、窮屈な場所って、精神的にくるね」
「行動が制限されて、移動以外に何もできなくなるものね」
「つーか、ローブがひっかかるんですけど」
アルコの文句はさておき、洞窟の構造は戦闘において障害になりそうだ。さっきの通路なんて、剣を構えることもできない細さだった。もしモンスターに襲われたら……。
もしもの事態を恐れつつ進んだ先は、非情にも行き止まりだった。
「だぁー、行き止まりかよ!」
「なるほど、道が曲がりくねってるから、道の先がどうなってるか、進んでみないと分からないのね」
アルコの文句と、それを意に介さぬ成宮さんの冷静な分析。いつものやりとりを微笑ましく見守りながら通路を調べると、行き止まりの脇の、目の高さの位置に子供が通れそうな穴が空いていることに気がついた。




