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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
65/154

25

 驚いた表情の少女は確かにアルコだった。

 グレーのパーカーを着たラフな様子から、悪夢よりも幼く見える。


「……花に興味あるってガラでもねーだろ?」

「成宮さんのお見舞いにね」

「アイツ、どうかしたのか?」

「昨日のショックが強いみたいで、今日は学校を休んでた」

「そうか……」


 巨人の一撃を思い出したのだろう。アルコはぶるっと体を震わせた。


「ところで……」

「どんな花がほしいんだ?」

「アルコって……」

「どんな花が?」

「花屋さん?」

「だーかーらー」


「アルコー? お客さんなのー?」


 店の奥から母親と思わしき女性が出てくる。

 アルコと同じようにくせっ毛だけど、ロングなせいかネコ科ではなくイヌ科な気がする。


「ええっと……そう、お客さん」

「ごめんなさいね。この子、ちょっと人と話すのが苦手で」


 人と話すのが苦手。

 あの傍若無人なアルコが?


「ほら、注文をお聞きしなさい」

「はい……いらっしゃいませ。本日はどういったご用件で?」


 妙にしおらしく、礼儀正しい。

 どうやら、アルコは母親の前では悪夢とは異なる態度でいるらしい。

 どちらが地なのかは分からないけど。


「あ、そうか。バウニャンのdeathは……」

「わーっ、わーっ、思い出さなくていいから!」

「アルコ?」

「あ、いえ、思い出さなくていいので……」


 この慌てようからすると、もしかして丁寧な口調のほうが地?

 母親の前では隠していたい様子なので、からかうのは止めにして、花を見繕ってもらう。


「お見舞いですと……香りは控えめで……少し華やかなほうがいいですね。このあたりはどうでしょう」


 オレンジやピンク、白い花を持ってきてくれる。


「きれいだね。この花の名前は?」

「ガーベラですね。色んな色があって、値段も手頃ですよ」

「じゃあ、それにしようかな。これくらいの予算内で」


 指を3本立てる。


「三万円ですか……ありがとうございます!」

「なんでやねん」

「はいはい、三千円あれば十分ですよ。じゃ、ご用意しますね」


 アルコはなれた手つきで花の茎を切り落とし、テキパキとまとめていく。


「あ、花瓶とか買っていったほうがいいのかな?」

「お見舞いでしたら、アレンジメントがいいですよ。水を染み込ませたスポンジに花を挿すんです」

「そっか。まあ、任せるよ」

「……その言い方、サラリーマンっぽいですね」

「ま、まあアルコを信用してるからね」

「ふふ、そうですか」


 丁寧で落ち着いた仕事ぶりを見ていると、悪夢のアルコと同一人物とは思えない。女性的な様子に、少しの間見惚れてしまう。

 僕の視線に気がついたアルコは、


「……なんだよ。ガラじゃねーって言うんだろ?」


 といたずらっぽい目で睨みつけてくる。

 なんだか恥ずかしくなって、本当のところは告げずにアルコの仕事が終わるのを黙って見ていた。

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