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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
64/154

24

「起きた時、背中から電車に衝突された気分だったわ。ベッドから天井に向けて吹き飛ぶかと思ったもの。変ね、後ろに吹き飛ばされて死んだのに、前に飛ぶ感覚で起きるなんて、うふふ」


 目が覚めて、成宮さんから送られてきたチャットをまとめるとこんな感じだった。

 うふふ、とは書いてないけど、そう思わせる歪んだハッピー具合が醸し出されていた。

 そんな彼女は、今日は学校を休んでいる。

 無理もない、巨人の一撃で全身粉砕されたのだ。金縛りによる恐怖もあって、学校どころではないだろう。

 心なしか教室もざわついているように感じる。

 やはり、成宮さんは生徒の華なのだと痛感する。僕なんて一般人が一緒に過ごせているのも、悪夢という共通の話題があるからに他ならない。

 そこまで考えて、アルコの顔が思い浮かぶ。

 

「かーっ、暗いな! もっと明るく行こうぜ。でないとアタシにまで弱気が伝染っちまう!」


 はは、彼女ならこれくらい叱責してくれるだろうか。でも、根が優しい子だ。激励も含んでいるに違いない。

 よし、うじうじせず、行動しよう。

 そのためには――


―――――


 成宮さんの家がある駅に降り立っていた。

 お見舞いをしよう、そう思ったのだ。

 家に向かう途中ではたと気がつく。

 ――お見舞いの品は?

 あれだけ格式高い家だ。手ぶらでお見舞いというわけにもいくまい。むしろ失礼、門前払いの上で塩を撒かれるかもしれない。

 そんなことはないだろうと思う。けど、花の一つや二つ、贈ってもバチはあたらないだろう。

 スマホで近場の花屋を検索する。

 もし無かったら他の駅に、と懸念していたけど、案外花屋はどこにでもあるようで、少々隣駅まで逆走したところにある商店街の途中に「フラワーショップまき」を発見した。

 財布の中身を確かめ、千円札が数枚入ってることに安堵してから店に向かう。


―――――


 フラワーショップまき。

 商店街の雰囲気に似合った、やや古臭い店構えだった。

 けれど品揃えは悪くないらしく、スマホのレビューでも高評価がついている少しだけ有名な店だった。

 と、ここに来て気がつく。

 花屋に、来たことがない。

 当然、買ったことなどない。

 花の種類にも、詳しくない。

 万事休すだ。帰ろう……いやいや。

 スマホという文明の利器がある、この小さな機器の中に広がる無限のネットパワーに頼れば、分からぬことなど何もない……。

 店前で悩んでいると、威勢のいい声で呼びかけられる。


「お客さんですかー? 分からないことがあれば、お教え致しますけどー?」


 助かった。渡りに船、聞くなら店員だ。

 やれやれと店内に向かうと、外から見るよりも随分と暗かった。

 照明も古臭く、ガラスの中で保管される花々がなにやら実験対象に思えてくる。


「お客さん? いかがなさいました? あ、初めてなんですね? どういった要件で……げっ!?」


 人生長くは生きてないけど、店員から「げ」と驚かれたのは初めてだ。

 そう年も離れていないような女の子からの「げ」も聞いたことがない。

 ただならぬことが起きたかと店員を見ると、なにやら見覚えのあるくせっ毛。気の強そうなネコ科の目。


「な、なんでオマエがここに……?」


 花屋の店員はアルコだった。

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