22
「よく矢に反応できたな」
背後からアルコがこそりと呟く。
「扉の先に注意してたし、可能性としては十分ありえたからね。ドキッとしたけど」
「かなりの数のゴブリンね」
ナタや斧ような近接武器を持ったゴブリンが6体、弓矢を持ったゴブリンが4体……それに加えて、
「あの赤い目のヤツ……やっぱ、魔法使うのかな?」
ゴブリンたちの最奥に、アルコに似たローブを着た赤目のゴブリンが座っている。明らかにリーダー格、さらにその格好から魔術師であることが予想される。
「注意しないとね。バラバラに戦うのは得策ではないけど、固まってるとまとめてやられるかもしれないわ」
固まれば包囲されて袋叩きにあい、散らばれば各個撃破されるかもしれない。最適解はないけど、確かなことがある。
「考えてる暇はないわね。決断しましょう。アルコ、魔法の準備を」
「へっ、アルコ様に任せときな」
「散らばるのはやめよう。一対一でも戦力差があるから。相手を誘導して、攻撃の流れを一つにしよう」
ゴブリンたちが雄叫びをあげ、武器を構えて襲いかかってくる。
「右だ!」
相手の攻撃を剣で防ぎつつ、右手へ逃げる。
くそっ、まとわりついてくる、引き離せない。
「任せて!」
成宮さんが進み出て、僕の足下にいたゴブリンに斬りかかる。たまらずゴブリンには後ろに転がる。
「今! 撃って!」
「いくぞ、ウインドカッター!」
目に見えぬ刃がゴブリンたちを切り刻む。
「ギィヤァーーー!」
地上のゴブリンたちが一掃される。倒しきれなかったゴブリンも、手足を負傷して戦闘不能だ。
――ひゅん!
アルコのもとに矢が襲来する。
魔法を放ったばかりのアルコは無防備だ。
――カツン、カツン、カツン!
すべて盾で防ぎきる。
アルコに狙いを絞っていたせいで、防ぐのは容易だった。
「サンキュー」
「ウインドカッターには世話になりっぱなしだな」
「あぶない!」
――ひゅんひゅん!
再び矢が迫る。今度はアルコだけでなく僕にも狙いが付けられていたけど、成宮さんの呼びかけのおかげで、避けることができた。
「ありがとう」
「いいえ。残るは弓兵と赤目ね」
赤い目のゴブリンは座っているだけで、何もしてこない。仲間の復讐を考えないのだろうか?
不気味さを感じつつ、残る弓兵に注意を向ける。
弓兵は赤目を中心に、左右に2体ずつ散らばっていた。矢を放つタイミングをずらすことで、反撃の隙を生まないようにしている。
「ウインドカッターで、それぞれ倒しちまうとか?」
「まだ距離があるわ。それに、赤目のことを考えると温存してほしい」
「待って、赤目が動いた」
赤目のゴブリンがようやく立ち上がり、右手を上げた。
弓兵はそれに反応し赤目の前に集まる。
守るため、というよりはただ集まっただけに見える。
「なんだぁ? 赤目をみんなで担ごうってか?」
「そんなわけないでしょ」
赤目がローブの中に手を入れ、隠し持っていた杖を掲げる。
アルコの杖と違い、こちらはゴブリン用なのか短く、先端が木の根のように裂け、ねじれて絡み合っていた。
「ぎぎぎ……」
赤目が何やら唱え始める。
まずい、魔法か。
「おい、これってチャンスじゃねーのか? ウインドカッターで一気に……!」
「確かに……でも、様子を見ないと……」
「待つほうが危険かもしれねーだろ? 今叩かないと……行くからな!」
「あっ!」
アルコが赤目たちのもとに、片手で杖を回しながら駆け寄る。
「ギィッ!」
――カツン!
赤目が杖を地面に激しく打ち付ける。
杖から赤い電流がほとばしり、地面を伝って弓兵たちに迫る。電流はそのまま弓兵を包み込み、次第に赤い繭のようになり、さらに風船のように膨らみ始める。
アルコを始め、僕たちは呆然とその光景を眺めていた。
電流が真っ赤に爛熟し、ついに弾けた時、巨大なモンスターが姿を現した。
「な、なんだよ……コイツ」
アルコが思わず座り込む。
電流から現れたのは、僕の2倍は優に超える身の丈の、頭部にツノが生えた、燃えるような赤い皮膚を持った巨人だった。




