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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
62/154

22

「よく矢に反応できたな」


 背後からアルコがこそりと呟く。


「扉の先に注意してたし、可能性としては十分ありえたからね。ドキッとしたけど」

「かなりの数のゴブリンね」


 ナタや斧ような近接武器を持ったゴブリンが6体、弓矢を持ったゴブリンが4体……それに加えて、


「あの赤い目のヤツ……やっぱ、魔法使うのかな?」


 ゴブリンたちの最奥に、アルコに似たローブを着た赤目のゴブリンが座っている。明らかにリーダー格、さらにその格好から魔術師であることが予想される。


「注意しないとね。バラバラに戦うのは得策ではないけど、固まってるとまとめてやられるかもしれないわ」


 固まれば包囲されて袋叩きにあい、散らばれば各個撃破されるかもしれない。最適解はないけど、確かなことがある。


「考えてる暇はないわね。決断しましょう。アルコ、魔法の準備を」

「へっ、アルコ様に任せときな」

「散らばるのはやめよう。一対一でも戦力差があるから。相手を誘導して、攻撃の流れを一つにしよう」


 ゴブリンたちが雄叫びをあげ、武器を構えて襲いかかってくる。


「右だ!」


 相手の攻撃を剣で防ぎつつ、右手へ逃げる。

 くそっ、まとわりついてくる、引き離せない。


「任せて!」


 成宮さんが進み出て、僕の足下にいたゴブリンに斬りかかる。たまらずゴブリンには後ろに転がる。


「今! 撃って!」

「いくぞ、ウインドカッター!」


 目に見えぬ刃がゴブリンたちを切り刻む。


「ギィヤァーーー!」


 地上のゴブリンたちが一掃される。倒しきれなかったゴブリンも、手足を負傷して戦闘不能だ。


――ひゅん!


 アルコのもとに矢が襲来する。

 魔法を放ったばかりのアルコは無防備だ。


――カツン、カツン、カツン!


 すべて盾で防ぎきる。

 アルコに狙いを絞っていたせいで、防ぐのは容易だった。


「サンキュー」

「ウインドカッターには世話になりっぱなしだな」

「あぶない!」


――ひゅんひゅん!


 再び矢が迫る。今度はアルコだけでなく僕にも狙いが付けられていたけど、成宮さんの呼びかけのおかげで、避けることができた。


「ありがとう」

「いいえ。残るは弓兵と赤目ね」


 赤い目のゴブリンは座っているだけで、何もしてこない。仲間の復讐を考えないのだろうか?

 不気味さを感じつつ、残る弓兵に注意を向ける。

 弓兵は赤目を中心に、左右に2体ずつ散らばっていた。矢を放つタイミングをずらすことで、反撃の隙を生まないようにしている。


「ウインドカッターで、それぞれ倒しちまうとか?」

「まだ距離があるわ。それに、赤目のことを考えると温存してほしい」

「待って、赤目が動いた」


 赤目のゴブリンがようやく立ち上がり、右手を上げた。

 弓兵はそれに反応し赤目の前に集まる。

 守るため、というよりはただ集まっただけに見える。


「なんだぁ? 赤目をみんなで担ごうってか?」

「そんなわけないでしょ」


 赤目がローブの中に手を入れ、隠し持っていた杖を掲げる。

 アルコの杖と違い、こちらはゴブリン用なのか短く、先端が木の根のように裂け、ねじれて絡み合っていた。


「ぎぎぎ……」


 赤目が何やら唱え始める。

 まずい、魔法か。


「おい、これってチャンスじゃねーのか? ウインドカッターで一気に……!」

「確かに……でも、様子を見ないと……」

「待つほうが危険かもしれねーだろ? 今叩かないと……行くからな!」

「あっ!」


 アルコが赤目たちのもとに、片手で杖を回しながら駆け寄る。


「ギィッ!」


――カツン!


 赤目が杖を地面に激しく打ち付ける。

 杖から赤い電流がほとばしり、地面を伝って弓兵たちに迫る。電流はそのまま弓兵を包み込み、次第に赤い繭のようになり、さらに風船のように膨らみ始める。

 アルコを始め、僕たちは呆然とその光景を眺めていた。


 電流が真っ赤に爛熟し、ついに弾けた時、巨大なモンスターが姿を現した。


「な、なんだよ……コイツ」


 アルコが思わず座り込む。

 電流から現れたのは、僕の2倍は優に超える身の丈の、頭部にツノが生えた、燃えるような赤い皮膚を持った巨人だった。

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