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部屋を出てすぐそばには階段がある。
おそらく、この先にはゴブリンたちがいるのだろう。
できるだけ物音を立てないように、そっと足を踏み下ろしながら階段をゆっくり下っていく。
階段は当然整備されているはずもなく、ところどころ欠けており、足を持ち上げた直後にぱらぱらと崩れることがあった。その音は小さいものの、足を滑らせ階段を転げ落ちる恐怖と戦う必要があった。
「……。」
ゴブリンとの遭遇と、階段の不安定さから、僕らは自然口を閉ざし、無言のまま慎重に階段を降りていった。
ついに階段を降り終えたとき、そこには背の低い獣だけが、つまりゴブリンが通り抜けられる横穴と、人間でも通れる通路があった。
「この穴って」
「2階に来る前に、ゴブリンたちが抜けていった穴ね」
つまり、高さとしては1階に戻ってきたということか。ゴブリンの横穴に用はない、通路の奥を目指そう。
「まて、何かあるぜ」
横穴を調べていたアルコが引っ張り出したのは、ゴブリンのものであろうズタ袋だった。
「きったねー……とりあえず、中身を出すからな」
袋の紐を解きひっくり返すと、ばらばらと中身がこぼれ落ちる。
中に入っていたのは壊れた斧やナタの一部と、乾いた肉のようなもの、枯れた草……そして、不気味な人形だ。
ゴブリンの人形ではなく、姿形からすると人間を模したものに見える。ただ、顔はのっぺらぼつでつるんとしていて、心臓のある部分には穴が空いていた。手足は崩れて失われていた。
「気味が悪いわね……とはいえ重要な代物かも知れないし……」
「僕が持つよ。いいかな?」
2人が頷いたのを確認して、腰に括りつける。
「うわー、マジで呪いの人形って感じ」
「その人形、夜中に喋ったりしないわよね?」
人形を持たなくてすんでホッとしたのか、女性陣はなかなか非道な反応を示してきた。
「この袋はどーするよ。なんか汚いから、捨てるか?」
「それも持っていきましょう。こっちは私が持つわ」
「え、使えそうにねーけど」
「泉の部屋で洗えばいいでしょ。人形もそうだけど、そろそろ手荷物が増えてきて、せっかく何かを見つけても諦めることになりかねないし」
「それは勿体無いね」
他に何もないことを確認して通路の奥を目指す。
通路を進むとすぐに扉が見つかった。鉄で出来た両開きの扉だ。
「ヌシの部屋ってヤツ?」
「いや……もっと禍々しい扉だったよ。絶対に違うとは言えないけど」
「何にせよ、注意していきましょう」
僕、成宮さん、アルコの順に並び、盾を構えながら扉を腕と体で押し開けていく。
――ひゅっ!
「おっと」
構えた盾に、木の矢があたり、跳ね返って床に落ちる。
そこには弓やナタを構えた大勢のゴブリンと、薄汚れた焦げ茶色のローブを被った赤目のゴブリンがいた。




