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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
60/154

20

「二人して笑ってるところ悪いんだけど……アルコ、調子は大丈夫なの?」

「ん? そういえば変だな……」

「な、なにが?」

「体の調子が……すっごく良いぞ!」


 杖をストレッチの道具よろしく両手で頭上に掲げてうーんと伸びをする。

 その足元では、同じく妙に元気になったバウニャンが「へひー」とあくびをしている。


「バウニャンの様子といい……瓶の中の液体、これってもしかして回復薬?」

「ねえアルコ、魔法は撃てそうかしら。あ、感覚だけ伝えて頂戴。杖に魔法充填しなくていいから」


 くるくると回し始めていた杖の回転を途中で止め、アルコは首をかしげる。


「そうだな、今なら撃ってやってもいい、そんな感じだぜ。さっきまではどっしり肩に疲れが乗っかってたのが、嘘みたいに軽くなってる」


 魔法を撃つためのエネルギー源が何なのか?

 はっきりしないけど、少なくとも術者のエネルギー、体力や精神力を消耗しているのは間違いない。

 つまり、白い瓶の中に入っていた透明な液体は、それらを回復する効果があるということだ。


「アルコの疲労が取れたのはありがたいけど、本当に回復薬だとしたら、少しもったいなかったわね」

「ここぞってタイミングじゃねーしな……やっぱり悪かった。自己判断で先走りすぎたせいだな」

「ううん、回復薬の存在が知れただけで、戦略に随分幅がでるから。あとは、これからも回復薬が手に入るかよね……」

「それについては考えがあるんだ」


 二人は驚き半分、疑い半分といった表情で僕をみつめる。


「なんだ? 別の隠し通路でも発見してたのか?」

「そんな素振りはなかったと思うけど……」

「バウニャンの様子に注目してみたんだ」


 二人に説明する。

 前回の悪夢で、バウニャンと遭遇したとき、床に溢れた泉の水をぺろぺろと頻繁に舐め、食べ物もないのにすこぶる元気で快調な様子だったこと。


「つまり、瓶の中身って……」

「この部屋の水なんじゃないかなって」

「確かに、前回も疲れが取れた気がしてたけど……疲れた体に水が心地よいだけかと思ってた」

「確証はないけどね。検証はできる」

「へー、どんな方法だ?」


―――――


「ったく、人使いが荒いぜ」

「アルコ、今回は長い詠唱はいらないからな」

「わーってるよ、前回のはノリだノリ!」


 ゴブリンがいた通路に戻ってきた僕と成宮さんは、魔法の影響を受けないようにアルコの後方で距離をとって待機していた。


「アルコに魔法を撃ってもらって、疲れてから泉の水を飲んでもらうのね……なんだかひどくないかしら」

「瓶の中身の効果と、泉の水の効果を確認するためには仕方がない……まあ、気は引けるけど」

「泉の水で回復しなかったら、ゆっくり休ませてあげないとね……あ、盾を貸してもらえる?」


 どうぞ、と盾を渡す。

 受け取った成宮さんはスタスタとアルコに向かっていき、そのまま通り過ぎてアルコの前方に盾を置く。


「なんだぁ?」

「ま、いいから。がんばってね」

「ほどほどにな」


 戻ってきた成宮さんに声をかける。


「あの盾は……」

「見てれば分かるわ。アルコ、初めてちょうだい!」


 アルコがくるくると杖を回し始める。遠目からでも、杖の先端が緑に輝くのが分かる。緑の光の残像が、空中に緑色の円を描く。


「ウインドカッター!」


 アルコが呪文を放つ。

 もともと姿形の見えない魔法だし、遠くからだとイマイチ発動したのか分かりづらいけど、床の小石が吹き飛んでいくのが見えた。

 床に置かれた盾がカツンカツンと音を立てながら、ずずと奥に押されていく。

 カツンはかまいたちが盾に当たる音、押されるのは風圧のためか。


「ふー、まだ撃てるけど、どーするー?」

「そのまま待っててー」


 再び成宮さんがスタスタとアルコの方へ……そのまま通り過ぎ、盾をさらに奥に動かす。

 そして、スタスタと戻ってくる。


「もーいいのかー?」

「おねがいー」


 アルコがくるくると杖を回し、魔法を放つ。

 吹き飛ぶ小石もなく、今度こそ何が起きてるのか分からない。


「あれ、盾の音が聞こえない」

「大体5メートルか……アルコー、調子はどうー?」


 成宮さんの問いかけに応えず、アルコがノロノロと戻ってくる。


「しんどい……はやく部屋に戻ろうぜ」


―――――


「じゃ、飲むぜ」


 水飲み場に注がれる水をそっと手ですくい、口に持っていきコクコクと飲み干す。


「……なるほど」


 飲み終わったアルコは、訳知り顔でうなずいた。


「どうなんだ?」

「どうなの?」

「ふっふっふ、まあ待てって」


 アルコは得意げな顔でこちらを焦らすけど、その態度を見れば結果は一目瞭然だ。


「アタリみたいね」

「やっぱり回復薬、それも中身は泉の水か」

「おいっ、なんでバレてんの!?」


 騒ぐアルコはさておいて、非常に心強い事実だ。どこまで効果があるのかは不明だけど、アルコの様子を見る限りでは現時点に於いてはかなり有効だろう。


「瓶の中身を補充しておきましょう」


 瓶の蓋を開け、水をできるだけ満タンに注ぎ、しっかりと蓋を閉める。


「アルコに持ってもらおうと思うの。いいかしら?」

「いいよ、一番必要としてるのはアルコだ」

「転んで割らないように注意しねーとな」

「……本当にに気をつけてね?」

「ところで、さっきの盾って?」


 成宮さんが動かしていた盾にはどういう意味があったんだろう。


「ああ、ウインドカッターの攻撃範囲を調べてたの。最初は大体3メートル、これは効果が見られたわ」

「確かに、カツンカツンと斬りつける音が鳴ってたね」

「次は5メートルくらい。この距離だと盾に攻撃は当たってなかったように見えた」

「そうだな、盾が風に押されていく様子もなかったぜ」

「ということで、ウインドカッターの攻撃範囲は大体5メートルくらいってことが分かるわ。横幅は分からないけど、前方より広いことは無いでしょうね」


 なるほど、思ったより範囲が狭い気がするけど、部屋の中なら十分かもしれない。


「ありがとう、アルコ。色々助かったわ。お疲れ様」

「おう、任せとけ。5メートルったって、目視で判断するのはむずかしーけど、攻撃範囲を過信しないように注意しとくぜ。届かないのに魔法を撃って無駄に疲れるのはイヤだからな」


 薬を手に入れ、泉の秘密も分かった。

 ウインドカッターの攻撃範囲も分かり、今後の攻略が楽になることを願いつつ、僕らは部屋を出て先へ向かうことにした。

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