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「相手は1体か……」
それでも強敵には違いない。
前回の戦いで、僕の攻撃はことごとくかわされてしまった。
「わるいけど…魔法は撃てねーぞ」
歩けるほどに回復したとはいえ、アルコに魔法を使わせるわけにはいかない。
どうしたものかと逡巡していると、成宮さんが先頭に進み出た。
「ここは……私に任せてもらえないかしら?」
「え……でも」
単独行動は控えるように言われたばかりだ。前回は同じく苦戦していたはず、何か勝算があるのだろうか。
「魔法は使えないけど、囮くらいにはなれるぜ?」
「あのね……余計に無理でしょ。精根尽き果ててるんだから」
「僕もサポートしなくていいの?」
「じゃあ……私が危なくなったら逃げ出す援助をお願いしようかしら」
「う、うん……分かった」
不安だけど、成宮さんのことだ。理由もなく危険を犯すことはないはずだ。
「それじゃ、待っててね」
「お、おい!?」
弓矢で遠距離から狙い撃つのかと思いきや、スタスタと忍び寄るでもなくゴブリンに近づいていく。身を隠す場所はないけど、相手はまだこちらに気がついてないのに……。
「ギッ?」
ゴブリンが成宮さんに気がつく。
そのまま立ち上がり、手に持っていた赤黒く汚れたナタのような武器を構える。
それに応じて、成宮さんはスラリと短剣を抜き、右手で構える。左手は相手を威嚇するためか、間合いを図るためか前方に伸ばされている。
両者がしばし睨み合う……が、しびれを切らしたゴブリンが斬りかかる。
成宮さんは身を横にずらして避けると、頭上から短剣を振り下ろす。
ゴブリンは勢いを残したまま前方に転がって逃げる。
まずい。避けられたら短剣が地面に衝突する。最悪、折れるかもしれない。
そう思ったけど、見ると成宮さんは短剣を途中で止めていた。
フェイントだったのか。
体勢が崩れたままのゴブリンに対して横に線を描くように斬りかかる。
ゴブリンは超人的な反応で跳び上がりこれを回避、身をねじりナタを横に振るう。
成宮さんはしゃがみ込み、寸前で回避する。
「すごい……」
「きょ、曲芸か……?」
ポカンと口を開けたアルコがつぶやく。
それほどまでに、成宮さんの動きは洗練されていた。
前回は同じように苦戦していたのに何が起きたのか……?
アルコと2人、ため息を漏らしている間も戦いは続いている。
「ギィ……!」
ゴブリンが跳び上がり、斬りかかる。
隙だらけだ。
成宮さんもそう判断したのだろう。一歩引いて避けようとする。
「ギャギャッ!」
ゴブリンが壁を蹴り、勢いをつけて突撃する。
「くっ!」
かろうじて避けるが、肩を切りつけられてしまう。
「ギャッギャッ!」
ゴブリンは嬉しそうに血のついたナタを舐め回す。
「やるじゃない…まんまと騙された」
成宮さんは戦意を失ってない。むしろ、好戦的なつぶやきが聞こえてくる。
「今度はこっちから……いくわよ!」
――速い。
成宮さんが踏み込んで斬りかかる。
ゴブリンが慌ててナタを構えるが、遅い。
今度はゴブリンの肩が深々と傷つけられた。
成宮さんの攻撃はなおも続く。
縦に、横に。右から左から。
乱打に耐えきれず、ゴブリンは防戦一方になる。
成宮さんが呼吸を整えるために攻撃を止めた時、ゴブリンは全身ボロボロ、満身創痍だった。
それでも感心するまでに闘志を絶やさない様子を見て、成宮さんがスッと短剣を頭上に構えた。
剣道の面を打つ姿勢……けど、短剣で!?
一見隙だらけの姿勢を勝機と見たか、ゴブリンが再度飛びかかる。
「はあっ!」
一閃。
剣道の熟練者による、見事な面だった。
ゴブリンの体が、縦に割れ、内容物をこぼしながら崩れ落ちた。
「ふう……思ったより、苦戦しちゃったな」
爽やかな笑顔で成宮さんが振り向いた。




