13
「えっと…もういいのよね?」
「おう、ウインドカッターに決まったからな」
「サップーハァ!」
「やめろって!」
「あのね…静かにして。真面目な話よ」
「はい…」
成宮さんの恐ろしい表情に、僕らは静かになる。
「じゃ…進むわよ」
「僕が先頭で、次に…」
「アルコを挟む形で行きましょう。さ、彼に続いて」
「お、おう。VIP待遇だな!」
「静かにね…」
「……」
アルコが黙ったところで、ゆっくりと扉を開ける。
……。
どうやら、ゴブリンたちはいないようだ。
「ついてきて」
そのまま通路を進む。できるだけ足音を立てないようにするけど、いつゴブリンが姿を現すかとヒヤヒヤする。
「もうすぐT字路だな…」
アルコの言う通り、T字路にたどり着く。
「それじゃ、左側にゴブリンがいないか調べようか」
「待って、右側にいるかもしれないわ」
そういえば、アルコと出会ったとき、ゴブリンは右側の通路まで追いついてきたんだった。
急にT字路から顔を覗かせるのが怖くなる。
「大丈夫、援護するから」
僕の内心の不安を察知して、成宮さんが声をかけてくれる。
そうだ。一人じゃない。アルコだっている…不安になってきた。
「じゃあ、左から覗くよ」
アルコの話によれば、ゴブリンたちは左側にいたらしい。
右側に残っている可能性もあるが、覚悟を決めるしかない。
そっとT字路に駆け寄り、曲がり角の左側に顔を出す。
…何もいない。まさか右側に?
不安になって右側を見るが、そちらにもゴブリンらしき影は見えない。通路は薄暗いので、確実にいないとも言い切れないけど…。
「いねーみたいだな」
「そうね…足音も聞こえないわ」
そうか、足音を聞けばよかったのか。今度から、目だけでなく音も意識しよう。
T字路に全員集まり、周囲を調べる。
「やっぱりゴブリンはいないみたいね」
「どこかに移動したのか、アイツら?」
「左側の通路…この先にいるのかな」
T字路を左折したその先。アルコが言うにはゴブリンたちが溜まっていた場所。
ひとまず、そこまで進んでみることにした。
「相変わらず薄暗いね」
「ダンジョンって感じするよなー」
「しーっ」
つい、不安になって会話を始めてしまう。
それに乗ってくるアルコも、きっと不安なんだろう。
成宮さんは不安じゃないんだろうか?
そう考えたとき――
「ギィギィ…」
「ギャッギャッ」
通路の先の少し開けた場所で、ゴブリンたちが座り込んで何やら話していた。
扉のない小部屋といった感じだ。
ゴブリンは、アルコが言っていたより数は少ない。
1、2…3体しかいないようだ。それぞれが武器を持っているけど、弓矢を持つゴブリンはいないようだった。
「何を話しているのかしらね…」
「分かんねーけど、アットホームな会話とは思えねーな…」
アルコが言っていた、たくさんのゴブリンたちはどこに行ったんだろう?
すると、ゴブリンたちが立ち上がり、壁に向かって歩き始めた。
「…穴が開いてるわね」
よく見ると、ゴブリンたちの行き先の壁、その地面に近い場所に穴が開いていた。
ちょうどゴブリンが通れるサイズの、人間が通るには小さな穴が。
ゴブリンたちは次々に穴に入っていき、ついにはいなくなった。
戻ってこないのを確認し、僕たちは通路から移動する。
「行っちまったな」
「戻ってこないか注意しておこう」
部屋の中を見ると、穴の他には扉が1つあるだけだった。
床には何やらゴブリンたちが残していった、得体の知れない死体が落ちていた。
「気持ち悪…」
「穴の中を進むのは危険ね…扉に鍵は付いてないみたい」
「穴の先は気になるけど、扉の先に進んでみよう」
扉を開けると、その先には通路が待っていた。
通路をゆっくりと進むと、次第に天井が高くなっていく。
「これって…」
「先が予想できるぜ…」
予想通り、通路の先には両開きの扉。左手には階段があった。
「ゴブリンたちがいる部屋の反対側に来たってことね」
「階段の先は、二階につながっていそうだね」
「どうするんだ?」
さて、どうしよう。
ゴブリンたちがいる大広間の反対側ということは、両開きの扉を開けるのは待ったほうが良さそうだ。
階段の行き先は二階に通じる扉がありそうだけど、確かとは言えない。
「手間が省けたかもね。階段から調べましょう」
「まあ、そうだよな」
結果の分かっている両開きの扉は後回しにして、階段を昇ることにする。
松明の灯りがないため注意深く進むと、階段を折り曲がった先に再び松明が置かれており、扉がぼうっと姿を現す。
やっぱり扉か。予想通りとはいえ、がっくりする。
「鍵がかかってるわね」
これまた予想通り鍵がかかっている。
そりゃそうだ。これが開いたら、弓使いのゴブリンたちは大慌てだろう。
「となると…」
「やっぱり大広間を攻略しないとダメね」
「でも、ゴブリンたちの身軽さは脅威だよ」
「何か方法があるはずよ…きっと、何か…」
「あー、えーと、いいかな諸君」
アルコが毎度のように偉そうにする。
「何か案があるの?」
「ふふん、慌てるでないヒカリくん」
「なんで教授っぽい口調…?」
「アタシにな、いい考えがあるんだ」
「それってどういう…」
「あのな…」
アルコの作戦を聞いた僕と成宮さんは戸惑った。
「そんなの上手くいくわけない…!」
「いや、でも相手はナメクジとは違って知性があるし…」
「でも…いや…確かにアルコの魔法なら…」
「悩むなよ、ヒカリ。どうせ死んでも次があるんだろ? アタシに任せておけって」
「まだ会ったばかりなんですけど…?」
アルコの作戦は完璧とはいえないけれど、他に案もない僕らは、その作戦に賭けることにした。




