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「あれ?」
就寝し、石の祭壇を訪れると、成宮さんだけが待っていた。
アルコはどこに行ったんだろう?
「アルコはいないわよ」
「まだ寝てない…来てないのかな?」
僕たちのやりとりを見て、案内人がふふんと笑う。
「小娘なら先に来て、先にあちらへ向かったぞ。いつまでもダラダラとここで待たせるわけにはいかないからな。文句を言ってきたが、送り込んでやった」
「そういえば、前回出会った時も、先に木箱を開けていたものね…」
「この場所で長居はできない。それはルールなのか?」
「ふん、そうだ。ルールだよ。時間は流れてるんだ。ムダにされちゃ困る」
「案内人が困ることってあるのかしら?」
「ま、俺は困らんがな。お前たちは困るだろう?」
それもそうだ。
早くあちらの世界へ行かないと。アルコが先走らなければいいけど…。
「では、向かうがいい」
世界が歪んでいく。
ーーーーー
「おそいって!」
目覚めると、最初の部屋だった。
目の前には腕を組んだアルコがいる。
怒っている様子だけど、どうやら元気なようだ。
「ちくしょー、夢だと思ったのになあ…いや、夢だけどさ。まさか2日続けて悪夢を見るなんてよ…どーなってんのかね、ホント」
「アルコ。あなた、先に来ていたのね?」
「そうさ。オマエらと違って、アタシは早寝早起きなんでね。もー待ちくたびれたぜ。夜更かししたらお肌に悪いんじゃねーの?」
「いやいや、8時に寝てる高校生ってかなり健康的だと思うよ? アルコこそ、そんな早くに寝る生活だなんて…一体?」
「…う、うるせーな! オマエらが健康的っていうなら、アタシは超、超健康的だってことだよ!」
「確かに…赤ちゃんみたいにツルツルの肌ね…」
成宮さんがアルコのほっぺたをつつこうとする。
「やーめーれー! なんだ、その小動物を愛でるような目は! しっしっ! さっさと冒険を再開しようぜ」
「おお、アルコにしてはマジメな台詞」
「アルコにしてはって…まだ知り合って2日目だっての」
「アルコの言うとおりよ。時間は有限。今回の作戦を立てましょう」
放課後に成宮さんと話した内容をアルコとも共有する。
「ふん、ゴブリンをなんとかするか、階段の上を確かめるか…T字路の左側に行ってみるか…か」
「たとえ進めないとしても、僕たち自身の目でも確かめておかないとね」
「だとしたら、まずはT字路を進むのがいいんじゃねえの? 近いしさ」
「そうね…できるだけ無駄に行き来するのは避けたほうがいいものね」
「じゃあ、まずはT字路を左に曲がる。これで行こう」
「りょーかい」
適当な感じでアルコが賛成の意を示す。
その場を動こうとしないので、不思議に思って顔を見ると、ニヤニヤと思わせぶりに笑っていた。
「どうしたんだ?」
「アタシさ、忘れてたんだよ」
「重要なこと?」
「もちろん!」
「いいわ、話して。手短にね」
「なるべくな。前回の冒険で、魔法を手に入れたわけだ。アタシが」
「風の魔法だね」
「こうしてクルクルーっとバトンの要領で回転させると…ほいっと、充填かんりょー」
「うーん、何度見ても見事なものね…」
アルコが回転させたことで、魔法の杖の先にはめられた石が緑色に光っている。
いつでも風の魔法を発動できる状態だ。
「で、風の魔法がどうしたの」
間違って放出されちゃかなわないと、僕らはアルコから少し離れた場所に移動する。
そんな僕らの態度を知ってか知らないか分からないが、アルコは自慢げな表情で続ける。
「ヒカリのファイアアローがあるだろ? やっぱりさー、魔法には名前が必要だと思うのよ」
「そうね、発声することで集中力が…」
「あん? ちげーって。ロマンだよ、ロマン。せっかく魔法が使えるようになったんだ。可能な限り、それっぽさを追求しないと」
「それで、どんな名前をつけたんだ?」
「聞いて驚け…」
杖をビシっと構える。
ホント、危ないな。
「サップウハだ!」
「さっぷうは…?」
成宮さんの顔に疑問符がつく。
僕も分からない。プウは風だろうけど…。
「サツは殺すのサツ、プウは風のプウ、ハは破壊のハだ! 合わせて殺風破!」
「なるほどねえ…」
成宮さんは感心するが、僕は異議をとなえたい。
「まって、それってファンタジーというより格闘ゲームっぽくない?」
「あん? た、確かに格ゲーっぽいな」
「サップーハァ! …ほら、例のコマンドで発動しそうだろ?」
「…や、やめろ。もうあのコマンドしか思い浮かばねぇ…!」
「サップーハァ!」
「やめろー!」
「なに…このやりとり?」
成宮さんは呆れた顔をするけど、魔法の命名は確かに重要だ。
後々まで響く。
「ということで、僕から提案したいんだけど」
「…言ってみろよ」
「ウインドカッターはどうかな」
「…しっぶ!」
「エアスラッシャーでもいいけど」
「いや、変わんねーって! 渋いよ、オマエのネーミング!」
「まあファイアアローという名称を好む人間だし?」
「…むぅ、世界観の統一は重要か…渋いのも一周回ってカッコイイ…のか?」
「さぁさ、どっち?」
「なんで二択になってんだ…じゃ、じゃあ『ウインドカッター』で」
「では、これからはウインドカッターということで!」
「そうだな…なんだかこれしかないって気がしてきたぜ!」
盛り上がる僕らを見て、成宮さんは頭を抱えていた。
「ねえ…本当、なんなの? このやりとり」




