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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第二章
52/154

12

「あれ?」


 就寝し、石の祭壇を訪れると、成宮さんだけが待っていた。

 アルコはどこに行ったんだろう?


「アルコはいないわよ」

「まだ寝てない…来てないのかな?」


 僕たちのやりとりを見て、案内人がふふんと笑う。


「小娘なら先に来て、先にあちらへ向かったぞ。いつまでもダラダラとここで待たせるわけにはいかないからな。文句を言ってきたが、送り込んでやった」

「そういえば、前回出会った時も、先に木箱を開けていたものね…」

「この場所で長居はできない。それはルールなのか?」

「ふん、そうだ。ルールだよ。時間は流れてるんだ。ムダにされちゃ困る」

「案内人が困ることってあるのかしら?」

「ま、俺は困らんがな。お前たちは困るだろう?」


 それもそうだ。

 早くあちらの世界へ行かないと。アルコが先走らなければいいけど…。


「では、向かうがいい」


 世界が歪んでいく。


ーーーーー


「おそいって!」


 目覚めると、最初の部屋だった。

 目の前には腕を組んだアルコがいる。

 怒っている様子だけど、どうやら元気なようだ。


「ちくしょー、夢だと思ったのになあ…いや、夢だけどさ。まさか2日続けて悪夢を見るなんてよ…どーなってんのかね、ホント」

「アルコ。あなた、先に来ていたのね?」

「そうさ。オマエらと違って、アタシは早寝早起きなんでね。もー待ちくたびれたぜ。夜更かししたらお肌に悪いんじゃねーの?」

「いやいや、8時に寝てる高校生ってかなり健康的だと思うよ? アルコこそ、そんな早くに寝る生活だなんて…一体?」

「…う、うるせーな! オマエらが健康的っていうなら、アタシは超、超健康的だってことだよ!」

「確かに…赤ちゃんみたいにツルツルの肌ね…」


 成宮さんがアルコのほっぺたをつつこうとする。


「やーめーれー! なんだ、その小動物を愛でるような目は! しっしっ! さっさと冒険を再開しようぜ」

「おお、アルコにしてはマジメな台詞」

「アルコにしてはって…まだ知り合って2日目だっての」

「アルコの言うとおりよ。時間は有限。今回の作戦を立てましょう」


 放課後に成宮さんと話した内容をアルコとも共有する。


「ふん、ゴブリンをなんとかするか、階段の上を確かめるか…T字路の左側に行ってみるか…か」

「たとえ進めないとしても、僕たち自身の目でも確かめておかないとね」

「だとしたら、まずはT字路を進むのがいいんじゃねえの? 近いしさ」

「そうね…できるだけ無駄に行き来するのは避けたほうがいいものね」

「じゃあ、まずはT字路を左に曲がる。これで行こう」

「りょーかい」


 適当な感じでアルコが賛成の意を示す。

 その場を動こうとしないので、不思議に思って顔を見ると、ニヤニヤと思わせぶりに笑っていた。


「どうしたんだ?」

「アタシさ、忘れてたんだよ」

「重要なこと?」

「もちろん!」

「いいわ、話して。手短にね」

「なるべくな。前回の冒険で、魔法を手に入れたわけだ。アタシが」

「風の魔法だね」

「こうしてクルクルーっとバトンの要領で回転させると…ほいっと、充填かんりょー」

「うーん、何度見ても見事なものね…」


 アルコが回転させたことで、魔法の杖の先にはめられた石が緑色に光っている。

 いつでも風の魔法を発動できる状態だ。


「で、風の魔法がどうしたの」


 間違って放出されちゃかなわないと、僕らはアルコから少し離れた場所に移動する。

 そんな僕らの態度を知ってか知らないか分からないが、アルコは自慢げな表情で続ける。


「ヒカリのファイアアローがあるだろ? やっぱりさー、魔法には名前が必要だと思うのよ」

「そうね、発声することで集中力が…」

「あん? ちげーって。ロマンだよ、ロマン。せっかく魔法が使えるようになったんだ。可能な限り、それっぽさを追求しないと」

「それで、どんな名前をつけたんだ?」

「聞いて驚け…」


 杖をビシっと構える。

 ホント、危ないな。


「サップウハだ!」

「さっぷうは…?」


 成宮さんの顔に疑問符がつく。

 僕も分からない。プウは風だろうけど…。


「サツは殺すのサツ、プウは風のプウ、ハは破壊のハだ! 合わせて殺風破!」

「なるほどねえ…」


 成宮さんは感心するが、僕は異議をとなえたい。


「まって、それってファンタジーというより格闘ゲームっぽくない?」

「あん? た、確かに格ゲーっぽいな」

「サップーハァ! …ほら、例のコマンドで発動しそうだろ?」

「…や、やめろ。もうあのコマンドしか思い浮かばねぇ…!」

「サップーハァ!」

「やめろー!」

「なに…このやりとり?」


 成宮さんは呆れた顔をするけど、魔法の命名は確かに重要だ。

 後々まで響く。


「ということで、僕から提案したいんだけど」

「…言ってみろよ」

「ウインドカッターはどうかな」

「…しっぶ!」

「エアスラッシャーでもいいけど」

「いや、変わんねーって! 渋いよ、オマエのネーミング!」

「まあファイアアローという名称を好む人間だし?」

「…むぅ、世界観の統一は重要か…渋いのも一周回ってカッコイイ…のか?」

「さぁさ、どっち?」

「なんで二択になってんだ…じゃ、じゃあ『ウインドカッター』で」

「では、これからはウインドカッターということで!」

「そうだな…なんだかこれしかないって気がしてきたぜ!」


 盛り上がる僕らを見て、成宮さんは頭を抱えていた。


「ねえ…本当、なんなの? このやりとり」

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