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「まったく! まったくアルコったら!」
放課後の屋上で成宮さんがぷんぷんと怒る。
風が冷たい。そろそろ別の場所を相談場所にしたほうが良さそうだ。
「まあまあ、確かに出会ったばかりだしね。同じ学校の生徒というわけでもないし、多少警戒するのも当然かもよ」
「…そうね。なんだか、随分前から知り合った気になってた。あの子の性格のせいかしら、壁がないっていうか…」
「はは、ずけずけと物を言うからね」
アルコの元気の良さは、鬱々とした悪夢の世界で、少し爽快感があって好ましかった。
「なーに? 私と一緒だと鬱々しちゃってたってこと?」
「い、いや、そんなことないよ。ただ、少しシリアスになりがちかなーって」
「深刻になるのは当たり前でしょう! 命がかかってるのに」
「お、おっしゃるとおりで…」
最初は水と油かと思ったけど、それはそれでチーム全体で見るとバランスがいいのかもしれない。
「と、冗談はさておき。状況を整理しましょう」
「えーと…」
前回の主を倒したあと、新しい悪夢が始まった。
既に開けられた木箱を発見し、部屋を出たところで怪しい人影と遭遇、追いかけるとアルコと名乗る少女と出会った。
ゴブリンに発見され、扉の向こうに逃げ、その先でナメクジを倒し、さらにその先で小部屋に入る。
魔法陣の罠が発動し、剣士が4体出現。追い詰められたところでアルコの魔法か発動、剣士を撃破。
成宮さんの推理により、杖の魔法は風だと分かる。
部屋を出て先に進むと、両開きの扉と階段を発見。扉の先には大広間があり、先行したアルコが矢で射抜かれて死亡。
部屋の中はゴブリンが大量にいて、地上と頭上の両方からの攻撃によって、なすすべがなく敗北…今に至る、と。
「ゴブリンは対処が思いつかないわね…強いて言えば、あの身軽さについていけるよう、こちらも鍛えるしかないか…」
「でも、残り時間も限られている」
「そうね、何か解決策がほしいところ」
「そうだな…アルコの魔法は?」
「それも考えたんだけど…」
成宮さんが腕を組む。
やはり肌寒いのか、腕を少しさする。
「アルコの魔法、目には見えないけど、剣士2体を巻き込んだことから、ある程度の範囲に影響すると思うの」
「範囲魔法か」
「私のファイアアローが点の攻撃なのに対して、面…球、あるいは波の攻撃と言えるかも知れない」
「それなら、身軽なゴブリンでもまとめて倒せるんじゃ…?」
「そうね…試す価値はあるのかも知れないけど…ただ、相手を1箇所に集める必要があるわ。それもアルコの前に」
なるほど、完全にアルコ頼みになるのか。
ゴブリンが1箇所に集まるかどうかも分からない。でも、剣で戦うよりは有効な手段に思えた。
「もう一つ…ただの懸念だから、心配することないのかも知れないけど…アルコの体が心配なの」
「え?」
どこか、病んでいるところがあっただろうか。
「ファイアアローを打ってて気がついたんだけど、頭…というか精神的に疲れるの。体力とは別の疲れ」
「そうだったんだ…」
そんな中、戦い続けてくれていたなんて。
「たぶん、魔法は精神力を消耗するんだと思う。アルコの魔法は強力よ。でも、その分精神力を消耗するはず。それに耐えられるか…絶対とは言えない懸念だし、休みながら使えば大丈夫だと思うんだけど」
どうにもアルコへの負担が大きい。別の作戦を考えたほうが良さそうだ。
「とすると…もう一つの通路かなあ」
「最初の通路ね。ゴブリンがいるっていう」
アルコが言うには、最初のT字路を左折した先にはゴブリンたちが大量にいたらしい。
でも、一度様子を見ておく必要はあるだろう。
「あとは階段かしら。大広間入り口の脇あった」
「たぶん、弓矢を持ったゴブリンたちがいた二階につながってるんだろうけど」
そう簡単に二階に入れるだろうか?
それに、本当に二階につながっているかどうかも怪しい。
「あとはアルコとも相談かな。一緒に戦う仲間だからね」
「まったく…早く現実でも連絡を取れるようにしないと…」
また成宮さんがぷんぷんと怒り始める。
悪夢での合流を約束し、帰路についた。




