第5話 『僕は彼女に一緒に戦おうと告げた』
予想もしなかった彼女の言葉に、布団を跳ね飛ばし、カーテンを勢い良く開ける。
「ど、ど、どうして!?」
こちらの剣幕に、質問した本人も驚いた顔をしている。
「やっぱり……当たりみたいね」
「あ、当たりだけど、こんな突拍子もない……」
毎晩、同じ悪夢を見て、同じように斬り殺される。
人に言ったら笑われる、悪ければ狂人扱いされるたぐいの話。
当然、友人のみならず、家族にも話したことはない。
なぜ、彼女は僕のことを知っているのだろう。
もしかして、ちょ、超能――、
「超能力じゃないわよ」
先に釘を刺されてしまった。
だとしたら、どうして。
いや、まさか、彼女も同じ?
あたふたとする僕を見て、彼女がくすっと笑う。
「ごめんなさい、笑い事じゃないわよね」
一言謝ったあと、真面目な顔に切り替える。
「私もね……あの夢……悪夢を見ているの」
「悪夢……殺され続ける悪夢?」
成宮さんが、こくんと頷く。
そう言うだろうと予想はしていたのに、はっきりと口に出されるとやっぱり驚いてしまう。
成宮さんも悪夢を見ていた事実と、同じ悪夢を見ているという不可思議な現象。
「クラスメイトが、同じ時期に、同じように元気を無くしていったから、気になっていたの」
単なる体調不良ではない、深刻な憔悴具合から、僕にただ事ではない何かが起きていると推測したのだという。
「僕はともかくとして、成宮さ……成宮ひかりさんにはそんなそぶりはなかったけど?」
「どうしてフルネームなの?」
口元に手をあてて笑う。
「いや、なんとなく、ほら、話したことないし」
「私はあなたを知ってるわよ」
思わずどきりとして、
「同じクラスメイトでしょ」
がっくりと脱力する。
「じゃあ、成宮……ええと、成宮さんは具合が悪そうに見えなかったけど?」
「私の場合は単なる見栄かな」
「見栄?」
「体調が悪そうにしていると、周りを心配させちゃうでしょ?」
それは見栄じゃなくて、気配りだと思うけど。
思えば、彼女にはそういうところがあった。
誰かが頼まなくても、苦労をかって出る性格。
「話を戻すけど、同じ悪夢ということは、鎧の……男は出てくる?」
「ええ、出てくるわ」
「その……毎回、剣で斬りつけられるよね?」
「ええ、残念ながら殺されてる」
彼女と同じ夢を見ているという事実が信じられなくて、1つ1つゆっくりと確認していく。
返答がある度に、自分の中の不安が溶けていくのを感じる。
僕が狂っていたわけじゃない。
ここに、同じ苦しみを持った人がいる。
「それにしても、本当に気が付かなかったよ。僕なんて、生きるのがイヤになってきてたってのに」
「そうね……私の場合、負けるもんかって思ってるのが大きいかな」
「負けるもんかって……勝つつもり?」
僕の質問に、成宮さんは不思議そうな顔をする。
「そうよ? だって、悔しいじゃない。なんとか武器を奪い取ろうとするんだけど、難しいのよね……」
驚いた。
逃げることしか考えてなかった。
鎧の男に勝つ、だって?
そんなこと、可能なんだろうか。
「成宮さん」
意思の強そうな目が、見返してくる。
彼女となら、悪夢を終わらせることができるかもしれない。
「僕と、一緒に」
戦って欲しい、と言うところでチャイムが鳴る。
成宮さんは時計を確認した後、何も言わずに立ち上がり、保健室の扉へと歩いていく。
追いすがろうとして、急に自分がみじめに感じられた。
僕は彼女と対等だろうか。
彼女は抗おうとしている。
僕は諦めて、逃げ続けていた。
「ねえ」
彼女の声。
顔を上げる。
「放課後、屋上で待ってる」
僕はとにかく頷く。
「一緒に戦いましょう」
僕が望む言葉を、彼女から与えてくれた。
だから、僕も精一杯応える。
「うん、一緒に戦おう」
彼女は照れたように笑い、保健室を出ていった。




