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アルコの魔法は剣士を2体片付けた。
足を切られた剣士はまだ生きていたけど、もはや戦闘不能だろう。
残った2体の剣士は仲間がやられたことに戸惑い、僕と成宮さんたちのどちらを攻めるか決めあぐねているようだった。
その隙を突き、成宮さんがファイアアローを剣士にお見舞いする。顔面で火が爆ぜ、たまらず剣士がたたらを踏む。
隙を逃さず、僕は剣士に駆け寄り、その首を切り落とす。
残る1体もようやく我に返るが、もう遅い。
成宮さんの矢が相手の脇腹に刺さり、姿勢を崩したところに剣を叩きつける。
かろうじて盾で弾かれるが、勢いを殺しきれず、正面がガラ空きになる。
剣を横になぎ払い、胴体を斬りつけた。
「す、すげえ連携プレー…」
床に倒れていた剣士にとどめを刺すと、アルコが感嘆した。
「いや、アルコの魔法こそ…すごかった。あれが無ければ苦戦していた。もしかしたら、全滅していたかも…」
「そうね。あの魔法で相手が半数になって助かったわ」
「そ、そうか? そうだろー! あはは!」
緊張が解けたのか、褒められたことに気を良くしたアルコが高笑いする。
「あは、はは…」
次第に笑い声が小さくなっていく。
どうしたんだろう。
「どうしたの? アルコ?」
「いやー…もう足がガクガク。すげー怖かった」
ローブで見えないが、アルコの手はブルブルと震えていた。よほど恐ろしかったに違いない。
「オマエら、すげーよ。いつもこんななのか?」
「いや…今までで2番目にピンチだった。1番目はヌシかな」
「ヌシやべーだろ…」
「アルコ、ちょっと杖を見せてもらっていい?」
アルコは黙って杖を成宮さんに渡す。
僕も近づいて覗き見る。
杖にはまった石は暗くなり、魔法の効力を失っているようだった。
さっきの戦闘中、アルコが魔法を発動する直前は緑色に光っていたはずだ。
「なんの魔法だったか分からなかったけど…偶然、発動条件を満たしたみたいね」
「あ、アタシの怒りのパワーとか!?」
そういえば、自暴自棄に突進した後だったか、発動したのは。
結果はさておき、さっきの行動は褒められたものではない。
「アルコ、怖いのは仕方がない。けど、僕たちを信用してほしい。さっきみたいな突発的な行動はなし。おねがいだ」
「そうだな…殺されてもおかしくなかった。気をつけるよ…でも、すげー怖かったんだからな!」
「そうよね。怖かったよね」
成宮さんが、アルコの頭を撫でる。
アルコは安心した顔をしたあと、恥ずかしくなったのか、成宮さんの手を邪険に払いのけた。
「なんの魔法だったのかしら。それが分かれば、条件も推測できそうなんだけど…」
「戦力を強化するなら、アルコの魔法はこれから必要だからね」
アルコの魔法か…。
火の魔法ではなかった。
空間上、何も見えなかった。たとえば氷の魔法でもなさそうだ。
「剣士の足が…切断されてるわね」
「破壊の魔法ってこと?」
「いえ…この切れ方って、剣とか鋭利な刃物で斬りつけた感じよね」
「姿はの見えない刃物か…」
「な、なあ!」
アルコが右手を高らかにあげている。
「はい、アルコさん」
「学校の先生みてーに言うな! こら、そこのオマエ、笑うな!」
「ごめんごめん、一体何に気がついたの?」
「ごぼん! アルコ様の推理によるとだな! 見えない刃物と言えば思いつく属性がある!」
「その属性は…?」
「それはだな…風だ!」
かまいたち。
そんな単語が思い浮かぶ。
外で遊んでいるとき、何もないところで、手足が傷つくことがある。
その正体はかまいたち。鎌を持った目に見えないイタチが、斬りつけていくのだという。
アルコの魔法は、それが強力になったもの…そう考えれば、目に見えないことも納得できる。
「風の魔法か…そうね、確かにそういう事象だわ」
成宮さんが納得したように頷く。
「ふふん! さすがの名推理だろ!」
「はいはい、すごいすごい」
「なんだオマエ! 扱いがぞんざいだぞ!」
僕とアルコがワーワーしていると、成宮さんが呟いた。
「目に見えないとなると…扱いには注意しないとね」
「巻き添えを食らったら嫌だもんね」
「ま、巻き添えになるほうが悪いし! ていうか、気をつけるし!」
再び騒ぎそうになる僕らを成宮さんが静止する。
「風の魔法は分かった。じゃあ、発動条件は何かしら。実はなんとなく推測できてるんだけど」
「ほ、本当?」
「マジかよ…」
驚いた僕たちから距離を取りつつ、杖を構える。
「外れてるかも知れないけど…いくわよ」
成宮さんが杖を持った腕をぐるぐると回し始める。
ぐーるぐーるぐーる…すると、次第に杖にはまった石が緑色に光り始める。
「アタリみたいね」
「これって?」
「そっか、風を集めてるのか」
魅入られたようにアルコが呟く。
なるほど、風の魔法だから、風を起こせばいいのか。
「これ、結構大変ね。それに…マヌケな感じよね」
ぐーるぐーるぐーる…。
成宮さんは相変わらず腕を回し続けている。
ちょっと格好悪い。
「さて、十分溜まったみたいね。肩が疲れちゃった」
「どうして、さっきの戦闘でたまったんだろう」
「おそらく、剣士の攻撃で弾かれた時、くるくる杖が回転したせいだと思う」
「うまい具合に回転してたもんなぁ…」
「だったらよ!」
アルコが成宮さんから杖を奪い取る。
「き、気をつけてね?」
「大丈夫だって! 見てろよ!」
アルコが杖の中心を両手で持ち、体の前で横向きに構える。そして、手先のみで器用に回転させ始める。
「わあ…上手! バトンみたいね!」
アルコがくるくると杖を回す様は、バトンを回す体操選手のようだ。こんな特技を持っていたのか。
「片手でだって回せるぜ!」
「すごい! どうしてこんな技を?」
「ふふん。日夜魔法少女になるべく、バトンの練習を欠かさずに…はっ!」
思わず口が滑った事に気が付き、赤面する。
「魔法少女かぁ…」
「そこ! 可哀想な人を見るような目をやめろ! とにかく、これなら風も集まるだろ?」
「うん、効率的だと思う。それじゃ、その杖はアルコに任せたわね?」
「任せとけ!」
杖の秘密が解けたことで、アルコは完全に落ち着きを取り戻したようだった。




