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「な、なんだよ、コレ!」
突如出現した青白く光り輝く4つの魔法陣。
その光で、部屋の中が怪しく青く照らされる。
「成宮さん…」
「ええ…アルコを守りましょう」
これから現れる脅威から、アルコを守れるだろうか。
自分自身の命すら危うい状況に、身震いする。
魔法陣の輝きが頂点に達したとき、それぞれの魔法陣から剣士が召喚された。全部で4体…予想はしていたけど、最悪の事態だ。
「ひ、人…? でも、この顔って…!?」
剣士の崩れた顔を見て、アルコが怯える。
無理もない。まだゴブリンとナメクジしか目にしてなかったんだ。どちらも恐ろしい姿だけど、やはり人形のモンスターが持つ生理的嫌悪感は別格だ。
「マズいわね。単純に考えて、4方向から攻められたら、2方向に隙ができるわ」
「それじゃあ、アルコが…」
「うん、危険よ。だから、退路を捨てて、代わりに敵の攻撃機会を奪う陣形を狙おうと思うの」
「…退路を捨てた陣形?」
「部屋の中央を避けて、部屋の隅にあえて移動するの」
部屋の隅に逃げ込むと、敵から追い詰められることになる。3人が固まるとなると、身動きも取りづらい…けど、そうか、敵も攻撃しづらくなる。少なくとも、4体から同時に攻められることはなくなりそうだ。2体が限度だろう。
「それなら、僕と成宮さんが壁になれば、アルコを守れそうだね」
説明せずとも理解されたことが嬉しかったのか、成宮さんが微笑む。
「相手の武器は剣。攻撃範囲からいって、多勢で同時に襲いかかるのは難しいはず」
問題は、四方を囲まれ、アルコもいるこの状況で、部屋の隅に逃げることすら困難だということだ。
誰かが場を乱し、隙を作り出すしかない。
「僕が行くよ」
「ごめんなさい…他に手がないわ」
成宮さんは遠距離用の弓矢とファイアアローが主な攻撃手段だ。
腰に下げた短剣でも戦えるけど、剣士のリーチを考えると、懐に飛び込む前に斬りかかられる可能性のほうが高い。まして、周囲には他の剣士もいる。
近接戦闘においては、現状では僕が一番戦えると言えた。
「正面のヤツに斬りかかる。倒すことを狙ってみるけど、おそらく足止めで精一杯だ。できるだけ押し込むから、そのまま左右と背後の剣士に気をつけながら、付いてきて。囲まれた状況に穴ができると思うから…そうだね、右手の隅に移動して。二人が移動したのを確認したら、僕もすぐに向かうから」
「だ、大丈夫かよ、オマエ一人で…」
「心配してくれるんだ?」
「だ、誰がぁ!? 勝手にしろ! 骨は拾ってやるからよ」
骨は残らず、炎で燃える尽きるだけどな…。
アルコをわざと焚き付けて悪態を受け、自分の気持ちを鼓舞する。
大丈夫、主ナメクジにくらべれば、対処できるはず…1体だけなら。
「成宮さん。僕が部屋の隅に移動するまで、弓矢の援護をお願い。僕が剣士に囲まれた場合、善戦できるように頑張るから、剣士を背後からファイアアローで狙って」
「まかせて。でも、無理に時間を稼がなくていいよ。すぐにこちらに向かって」
「ありがとう…それじゃ、やってやろうじゃないか」
ありがたいことに剣士たちはこちらの様子を見ていて、襲い掛かってくる気配がなかった。
正面にいる剣士に狙いを定め、突進する。
「やあっ」
――ガキィン!
剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
「押し勝てた!?」
剣は弾かれたものの、相手は体勢を崩し、後退した。
前回なら、逆に僕が押し負けて後退していたはずだ。確かに、強くなっているらしい。
これなら…いけるか?
「危ない! 左!」
アルコの悲鳴に応じ、左を見ると別の剣士が迫っていた。
姿勢を直し、剣を弾く。
危ない。欲が出ていた。1体に勝てたからどうしたというのか。敵は4体いるというのに。
目の隅に最初に突進した剣士が立ち直るのを確認し、成宮さんとアルコの状況を見る。
よし…無事に部屋の隅に移動したようだ。
「ぐああっ!」
間髪入れずに剣士が襲い掛かってくる。
2体目は剣を弾いただけで、姿勢を崩したわけじゃない。すぐに立ち向かってくるのは必然だった。
「くそっ」
体勢を整えることができず、盾で弾く。
敵の攻撃の重みで、盾を持った左手が少ししびれる。
盾によって視界が奪われることは分かっていたが、ここで盾を下げる勇気はなかった。
右手に1体。正面に1体。他のヤツらは…?
「後ろ!」
今度は成宮さんの声だった。さすがに悲鳴ではないが、焦っている。
3体目がすぐ後ろに迫っていた。どうやら成宮さんとアルコは捨て、ひとまず僕を片付けることにしたらしい。敵ながら冷静でイヤになる。
盾で防ぐか、剣で防ぐか。
一瞬の内に考え、反転して相手の位置を確認してから、横っ飛びで避けることにした。
距離を取らなければ。
このまま囲まれれば死ぬしかない。
――ぶおん!
相手の剣が空を裂く。
横に跳んだ僕が敵集団を確認すると、4体ともが僕を殺そうと集まっていた。
距離を取っていなければ、今頃袋叩きにあい、ミンチになっていただろう。
しかし…これはマズい。
「は、早くこっちに来い!」
青ざめた表情のアルコが叫ぶ。
アルコたちと離れてしまった。
むしろ、別の隅が近い。
「てやあっ」
成宮さんがファイアアローを剣士に撃つ。
剣士たちは怯むが、立ち直るのも時間の問題だ。
アルコたちのもとへ行かないと…。
そう思った時、敵集団から2体がこちらに向かってきた。
残った2体は成宮さんとアルコに向かっていく。
最悪だ。
僕は2体1で劣勢に、アルコたちは2体2だが、アルコは戦力外…。
剣士たちはじりじりと僕に迫ってくる。
隙を見せないように成宮さんを見るが、ファイアアローを充填中のようで、弓を構えたままだった。
「う、うわ…うわああっ」
「アルコっ!?」
成宮さんの静止も虚しく、絶望に駆られ混乱したアルコが杖を持って剣士に突進していく。
剣士がアルコに斬りかかろうとした瞬間、成宮さんが通常の木の矢で腕を狙い撃ち、敵の攻撃を防ぐことに成功する。
アルコはそのまま杖で殴り掛かるが、相手の盾で難なく杖を吹き飛ばされてしまう。
杖はくるくると回転しながら、成宮さんの側に転がっていった。
「アルコ! 下がって! 私の後ろへ!」
杖が吹き飛ばされた衝撃で我に返ったのか、アルコはすぐに成宮さんの背後に移動し、杖を拾い上げた。まるで命綱のように、杖をにぎりしめている。
アルコの無事に胸をなでおろすが、状況は変わっていない。
2体のうち、どちらに斬りかかるか。
成宮さんたちがいる方向に位置する、右側の剣士に斬りかかろうか…と考えていた時、アルコのこの場にそぐわない驚いた声があがった。
「なんだこれっ!? た、溜まったんじゃねえの? 魔法がよっ!」
思わずアルコが持つ杖を見る。
すると、杖の先の石が緑色に光り輝いていた。
「本当…何が条件だったのかしら?」
「考えるのは後だろ! 撃つぞ、これ!」
勢いを取り戻したアルコが杖を振りかぶる。
剣士たちは杖に魅入られたように身動きしない。
僕は、万が一に備えて、盾を構えて後退した。
成宮さんも素早くアルコの背後に移動したようだ。
アルコが杖を振り下ろす。
すぐには変化は分からなかった。
剣士たちは静かに佇んでいる。
何も起きていない…?
静寂は、金属音で破られた。
突然、成宮さんたちの前にいた剣士たちが、剣と盾を落としたのだ。
いや、落ちたのは剣と盾ではない。
腕だ。腕がまるごと切り裂かれていた。
そして、剣士たちが崩れ落ちる。
よく見ると、腕だけでなく、足も切り落とされている。
そのせいで、立つこともままならず、崩れ落ちたのだ。
「す、すげえ…ワケ分かんねーけど」
こっちこそ「ワケが分からない」と言いたかったが、とにかく凄まじい威力の魔法だった。




