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すぐに騒がしくなるアルコを注意しながら、ゴブリンと遭遇した扉から離れ、通路をまっすぐに進む。
何もない状態がしばらく続き、このまま行き止まりだったらどうしよう…そう考えていた矢先、左に折れた曲がり角に出会った。
「アルコは下がってて」
「僕が見てこよう」
緊張感が伝わったのか、アルコは神妙な顔で、僕と成宮さんの背後へおずおずと下がった。
曲がり角へ静かに駆け寄り、その先を調べる。
「ナメクジだ」
前のダンジョンで遭遇した中型のナメクジがいた。
ただし、今回はこちらを向いていたため、気づかれてしまった。
「おっ、おい! なんだよ、ありゃ。な、ナメクジか? すげーでけえぞ!?」
「アルコ、静かに。そのまま下がってて。大丈夫、なんとかするから」
「お、おう。なんとかしろ! …できるのか?」
「成宮さん、援護お願い」
「分かった。ごめん、少し時間を稼いで」
騒ぐアルコを尻目に、冷静に連携をとる。
大丈夫だ。もう倒し方は分かってる。それに、主に比べれば脅威じゃない。
成宮さんの時間を稼ぐために、接近し、剣で斬りかかる。
どうせ、刃は通らない…ところが、ずぶ、と剣がナメクジの肉に沈んだ。
「剣が…効くようになってる?」
祝福の効果だろうか。
そういえば、案内人が「体力も磨かれた」と言っていた。
力…攻撃力が上昇していると考えて良さそうだ。
とは言え、少しだけ刃が通るようになった程度で、致命傷は与えられない。
ナメクジが怒った様子で接近してくる。
「準備できた…いくわよ!」
成宮さんがファイアアローを構えていることを確認し、壁際に身を寄せる。
――しゅぼおっ。
「ぬばあぁっ」
ファイアアローがナメクジにぶち当たり、身を焦がす。
たまらずナメクジが体内を露出する。
その隙を逃さず、剣を体内に突き立てると、ナメクジは少し痙攣した後、動かなくなった。
「ふう…上手くいったわね」
「成宮さんのファイアアローのおかげだよ」
「そんなことないわ。危険に身を晒しているのはあなただもの」
二人で勝利を喜びあっていると、アルコがパタパタと近寄ってくる。
「おいおいおい! な、なんだよ今の!」
「ナメクジだね。モンスターサイズの」
「ち、ちげーし! そこも気になるけど! そうじゃなくて、火! 矢だよ!」
「ファイアアローよ」
「しれっと言うなって! なに? 魔法? ファンタジー過ぎんだろ…」
ひとしきりアルコが興奮した後、魔法を手に入れた経緯とファイアアローの効果について説明した。
「はあ…魔法の石とネックレスってわけか」
「そうね、見つけたのは偶然」
「ファイアアローの使い方も、主との戦いで思いついたんだよ」
「ふむ…するってーとなんだ。アタシが持ってるこの杖、それと見つけた石。これも魔法が使えるのかな?」
アルコが悪夢に訪れて最初に見つけたのは杖だった。
そして、次に発見した木箱から緑のローブと石を発見していた。
今、石は杖にはめられている。
「おそらく…条件を満たせば、魔法が使える…かも知れない」
「マジか…じょ、条件ってなんだろう?」
「うーん、ファイアアローは松明の火を吸い取ってるけど…」
「まず、その石がどういう力を秘めているのか分からないとね」
成宮さんの回答にアルコががっくりとうなだれる。
「偶然に頼るしかないってか…ああ! 早く使ってみてー!」
「好奇心はさておき、杖の秘密は早めに解明しておきたいわね。きっと、戦いが楽になるはず」
「これならどうだ? えいっ、えいっ!」
アルコが松明に杖を近づけるが、石はなんの反応も示さない。
どうやら、火に関係する魔法ではないらしい。
「残念だけど、すぐには分からないと思うわ。先に進みましょう」
「ちえっ」
口を尖らせつつもアルコは自分から最後尾に移動した。
ナメクジとの戦闘で、少しばかり信用を得たらしい。
ナメクジの死骸を避けて、先に進む。
しばらく進むと、再び左に折れる曲がり角があった。
連携を取り、角の先を覗くと、今度は何もいなかった。
代わりに、通路は少し開けた小部屋に続いていた。
「何もいない…みたいだね」
「前から思ってたけど、悪夢って、夢の中なのに寒々しいわよね。この部屋も何もないせいか、寒く感じる…」
「痛みも感じるんだろ? ホントに寒いんじゃねーの、この中」
「まあ、そうなんだけど…どこまでが夢で、どこまでが現実の感覚なのか分からなくなっちゃってね」
「ふうん。まだ死んでねーから、リアルな夢って感じしか分かんねーな…」
アルコの物言いに、僕と成宮さんが苦笑した時、突然それは起こった。
――ガコオォン!
地響きと大きな金属音がしたかと思うと、さっき入ってきた小部屋の入り口が鉄格子で塞がれていた。
「罠!?」
急いで鉄格子を調べるが、取っ手もなく、どうにも開きそうにない。
「他に出口はねーのか!?」
部屋を突っ切り、反対側を目指すと出口があった。
しかし、こちらも鉄格子が塞いでいる。
部屋を調べるが他に出口は無さそうだった。
「どうする…? 鉄格子を壊す方法は…」
「待って、他に出口がないか、探して…あっ!」
「こ、これって!?」
突然部屋の四隅が光ったかと思うと、魔法陣が浮かび上がった。




