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「はぁはぁ…なに? あの緑色の…」
「ゴブリン、だと思う。名前に意味はないけど」
「どうして名前が?」
「いつもと同じ、ゲームで似たようなモンスターがいる。でも、アイツらがゲームと同じような生態かは分からない」
「…アルコ? 大丈夫?」
アルコは顔面蒼白で喘いでいる。
無理もない。生きたモンスターと対峙して怖がるなという方が無理だ。
「な、なあ。もう、いいだろ? 出ようぜ、こんな場所? おい、何か知ってるんだろ?」
焦るアルコから、矢継ぎ早に問いかけられる。
「ごめんなさい。出る方法はないの」
「ど、どういうことだよ」
「ここは悪夢の世界。死ねば現実に戻るけど、また夜にはここに戻ってくる」
「し、死ぬ?」
成宮さんが大きく頷く。
戸惑った様子のアルコが僕を見る。
「この世界の主を倒さないと、夢は終わらない…けど、それも確かじゃない。僕たちは2つ目の悪夢としてここに来た」
「2つ目? あ、アタシは初めてだぞ、こんなところ。急に死ぬとか、主とか…冗談じゃないのか? ほら、体験型レクリエーションとかさ?」
「残念ながら、事実よ。死にながら先に進み、主を倒すしかない」
「それも確かじゃないんだろ!? マジかよ…ワケ分かんねー…」
アルコはしばらくブツブツと1人文句を言ったり、杖を苛立たしく壁にぶつけたりしていたが、やがて落ち着いてきたのか、自分を納得させるように呟いた。
「まあ、ゲームみたいなもんだと理解するしかねーな。デスペナルティがひどい設定の。超リアルだけどな、引くくらいに」
落ち着いた様子を見て成宮さんが声をかける。
「さっき、扉の前で私たちをモンスターと疑ったのは…ゴブリンを知っていたから?」
「そうだよ。まさか戻ってくるとは思わなかったけど。最初の扉を開けた時、通路を小さな人影が横切るのを発見したんだ。子どもかな、と思って追いかけたけどよ、まさかのゴブリン様。それも大勢いたぜ」
「大勢…さっきの奴らだけじゃない?」
「だな。その数倍はいたぜ。で、やべーと思って通路を引き返したところ、オマエらの声が聞こえてきたってワケ」
T字路の左側にはゴブリンたちの住処でもあるのだろうか。なんにせよ、危険だ。
「ゴブリンたちについて、他にしってることはある?」
「すぐに引き返したからなぁ…あ、でも色々持ってたぜ、武器」
「弓矢とか?」
「そうだな、そんなのもあった。あとは小ぶりの剣…というか包丁みたいなのとか、ハンマーみたいなのとか…殺る気十分って感じだったぜ」
さっき打たれた矢の感触を思い出す。
人を傷つけるには十分な勢いだった。
それが大勢となると…。
「先にアルコと合流できたのはラッキーだったわね。まあ、死ぬことで再び合流していたかも知れないけど…」
「無駄に痛いのはイヤだよ。なんとか最小限の犠牲で主を倒したい」
「ふふ、頼もしいわね」
「ふ、ふん。とにかくよ、これからどうする?」
振り返って、鍵をかけた扉を見る。
この向こうには、まだゴブリンたちがいるらずだ。
となると、今いる通路を進むしかない。
「注意しながら進みましょう。特に、ゴブリンの声が聞こえないか、ね」
「お、おう。あと…アタシも武器が欲しいな。防具も…ていうか、オマエらズルくない? かなりファンタジーしてるじゃん。鎧とか剣とか」
「そっちのローブのほうが、余程ファンタジーじゃないか…」
「えー、なんか弱そうじゃん。ボロいし。交換するか?」
「しーずーかーにー」
僕らを叱った成宮さんは先に進む。
慌てて僕とアルコは追いかける。




