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「ちょっと…指を差さないでくれる?」
「はーん? この指が気になるのかよ? ほれほれ、ほっぺたぷにぷにしちまうぞ」
「やめてったら!」
この巻神という少女、口だけでなく性格も難あり、だ。見た目も性格も、どうも成宮さんとは正反対、水と油という感じがする。
とはいえ、聞きたいことは色々あるわけで…。
「えーと、いいかな。巻神…アルコさん?」
「だーかーらー、さんとかキモいって! アルコでいーよ。てか、そう呼べ」
ぐるりとこちらに振り向き、ずびしと指さしてくる。
「じゃあ…アルコ、色々聞きたいことがあるんだ」
「ダメだな」
「どうしてよ!」
珍しい。
さっきから成宮さんが怒りっぱなしだ。
漫才のボケとツッコミのような感じに似ている。
「アタシは名乗ったんだ、次はアンタらの番…だろ?」
「まあ…そうね。私は成宮ひかり」
「なーんか、いかにもな名前だなぁ。マジメそー」
「あ、あのねぇ!」
「ま、まあまあ、落ち着いて」
一触即発の雰囲気を漂わせつつ、自己紹介を済ませる。
「なーるほどね。成宮は…ヒカリ、だな。そっちのボーイは…オマエ、だな」
「オマエ…」
「ボク、でもいいんだけど?」
「オマエでいいよ…」
「私も呼び捨てなのね?」
「アタシもアルコって呼んでよ。で、ヒカリね。なんか似合ってるし?」
「あ、ありがとう」
性格が悪いというより、表裏がなくて、表現がストレートなだけかもしれない。
「やっぱボクのほうがいいか? 顔も女っぽいしー」
…前言撤回。
「アルコさ…いや、アルコ。これまでのことを教えてくれる?」
「こっちも気になること盛り沢山だけど、長くなりそうだから後回し。まずはこっちから話すかんな」
巻神アルコが言うには…。
目覚めると扉が3つある部屋で横たわっていた。服装は奴隷のようにボロボロで、かなり焦ったらしい。
しばらくして落ち着いたら、部屋と扉を調べ始めたけど、中央の扉は鍵がかかっていて開かなかった。
まずは左側の扉を開けて部屋を調べたものの、穴の空いた杖以外、何も落ちてなかったらしい。
杖とか本物かよ、すげー。でも、いらねー。
…と思ったらしいけど、転ばぬ先のなんとやら、一応持っていくことにして、今度は右側の部屋を調べたと。
右側の部屋には木箱があって、すわ宝箱と大喜び。罠のことも考えず、勢い良く開けたら中には緑色のローブと、丸い石が1つ転がっていた。
緑のローブは古臭くて、なんだかヤダなと思いつつ、着ておくか、と思った次の瞬間にはローブを装着していた。
「まるで魔法みたいにな!」
丸い石は明らかに杖にはまりそうなので、はめこんでみたら、ぴたりとはまり、今もそのままらしい。
「意味わかんねーままだけど」
と、杖と石の関係は不明である、と。
木箱の中身は以上で、このままじゃ先に進めないと焦ったものの、ローブの中に鍵が入ってて、それで中央の扉を開けたという。
「なるほど…私たちの境遇に比べると、なんだか用意がいいわね…看守もいないし」
「それで、僕たちに遭遇したのかな?」
「ん…だいたいそんな感じだな」
なんだろう?
目を泳がせて、そわそわしている。
何か隠しているのか?
「じゃ、今度はそっちの番…あ」
アルコが驚きと恐れの入り混じった表情を浮かべる。
その視線は僕らの背後に向けられていた。
振り向くと――
「ご、ゴブリン?」
ファンタジーでよく目にする、あの緑色のおぞましい子鬼。子供の頃からゲームで慣れ親しんだ醜悪な存在が、廊下の曲がり角にいた。
むき出しになったボロボロの歯や、目やにが溜まり黄色く汚濁した目。どこから調達したのか、何枚も重ねられたボロボロの布の服は、ところどころ赤黒く、何者かの血がこびりついていた。
目を合わせるだけで怖気が走る。ゲームの中の存在と、実際に目にするのとでは大違いだ。
ゴブリンたちはこちらに気がついていない。
この暗がりのせいか、目が悪いのか。
とにかく、まだ間に合う。
「アルコ、扉の向こうに」
成宮さんが極力落ち着いた声でささやく。
「あ…う、うん」
アルコは、怖がりながらも、素直に従う。
――カツン。
杖が扉にあたり、小さな、それでもゴブリンが気がつくには十分な音が響いた。
「ギッ?」
ゴブリンたちがこちらを見る。
その顔に獲物を発見した喜びが広がる。
まずい。
「早く!」
焦るべきではないけど、思わず急かしてしまう。
アルコは成宮さんに背中を押され、ワタワタと扉の向こうに姿を消した。
僕も盾を構えつつ後退する。
――カツンッ!
盾に何かが当たる。
地面に転がるそれを見る。
「矢…か!」
道具を使うということは、知恵があるということだ。
ナメクジとは違う底しれぬ恐怖を感じた時、成宮さんに服を引っられた。
「逃げるわよ」
「さ、さっさとしろ!」
アルコの悪態に苦笑しながら、扉の向こうに逃げ込んだ。




