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「悪夢から開放されたと思ったのにね」
ここは放課後の学校、その屋上だ。
雲は高く、空は紫がかった青みを帯びている。
少し、肌寒くなってきた。
「悪夢を見続けさせて、一体何をさせたいんだろう。案内人は知らないみたいだけど…」
「どうかしら、怪しいわよ、アイツ」
アイツ呼ばわりだ。まあ、胡散臭いやつだし。
「それに、どうして悪夢を見る様になったか。これも気になるわ。原因があるなら、それを解決すれば悪夢も見なくなるかも…」
成宮さんは柵にもたれ、空を仰いでため息をつく。
「なんてね…しばらくは悪夢と付き合うしかなさそうな予感がする。次の主で終わり、という気もしないし…」
それは同意。どうも、まだまだステージは続きそうだ。
祝福は成長システムなわけで、成長させるからにはその発揮場所もセットだろう。
祝福が限界になったら、悪夢も終わるのか…?
それはどれだけの日々、ステージが必要なのか…。
気持ちが暗くなる。
せっかく主を倒したというのに、達成感がない。
「後楽園のギューミンカフェにでも…行く?」
僕の提案に、成宮さんはほんの少し微笑む。
「そうね…でも、ちょっと疲れちゃったから、今日は早めに帰ろうと思うの」
「そっか…特訓も無しだね」
「ごめんね。でも、特訓はもう必要ないかも知れないわね」
悪夢の中の実践で、十分成長できるということだろうか。
まだまだ学びたいことはいっぱいあるんだけどな…でも、迷惑をかけるわけにはいかない。
「それじゃ、今日も8時に」
「そうね…8時に」
そう言って、僕らは夜を迎えた。
―――――
少し心配だったけど、約束通り8時に祭壇前で落ち合えた。
体がこの時間に寝ることに馴れているせいもある。
案内人は相変わらずこちらをからかってきたけど、放っておいて悪夢の世界に降り立った。
「ここは…」
泉はなく、バウニャンもいない。
看守のいた小部屋…に構造は近い。
ただ、石畳から雑草がはみ出していたり、ところどころ土が露出していることから、地上に近い…あるいは地上と地続きのように思える。
前回がかなりの地下だとすれば、今回はもう少し浅い印象だ。
「草が生えてるわね…」
しゃがみこんで、草に触れる。
「うん、普通の草だ。現実と同じ…たぶん」
悪夢の世界について何も知らない僕らは、たかだか草を見て驚く。
現実とどこまで似通っているのか…けど、モンスターは非現実的な存在だ。ゲームの世界でなら目にするけど、もっと生生しくて、恐ろしくて凶暴で手に負えない。
「さて…新しい場所、新しいスタート地点だけど…」
小部屋には扉が3つ。
正面、左手の壁、右手の壁に。
背後はただの壁で、何も無いようだった。
「正面の扉は鍵付きみたいね…あら?」
成宮さんが驚いた声をあげる。
どうしたんだろうと、近づくと、驚いた理由がわかった。
「鍵が…開いてるね」
「ええ…前回の悪夢じゃ、そんな扉無かったのに」
前回と違う悪夢だから?
そうとも言えるけど、それじゃ鍵の意味がない。
先に進めるからありがたい…でも、鍵はどこにあるんだろう?
「鍵付き扉の先は、多少なりとも重要な場所だと思うから、ひとまず周囲の扉を調べようと思うの」
「異議なし。まずは…左側から」
前回、自分の小部屋が左側にあったこともあって、なんとなく左側を調べたかった。
左右の扉はどちらも鍵が付いていない。
左側の扉をそっと開ける。
「…何もないね」
部屋のサイズは小部屋より少し狭いぐらい。
土の露出した石畳があるだけで、めぼしい物は見当たらない。
「鍵がかかっていた様子もないし…いえ、床に落ちていたなら分からないけど…気になるところは無さそうね…」
何もなかったことに安堵と落胆を感じつつ、部屋を後にする。
次は右側の部屋だ。
鍵のかかっていない扉を静かに開ける。
そこには…。
「木箱…ね」
そこには、木箱が置かれていた。
ただし、空っぽの。




