表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第一章
39/154

39

 放たれた矢は、ナメクジの頭部へと吸い込まれていった。


「ぶむおおぉぉん!」


 肉を焼かれたナメクジが、苦しそうな悲鳴を上げる。


「よし、効いてるぞ!」


 ナメクジは怒り狂って迫ってくるが、反転する様子はない。

 松明から火の力を吸い込み、2発目を放つ。


 燃える矢がナメクジの肉体を燃やす。

 人間と構造が異なるためダメージが分かりづらいけど、悲鳴を聞く限り、確かに効いている。


「ふがぁっ!」


 ナメクジが体を反転し始める。

 成宮さんが3度目の矢を放つ。


「まさか…!」


 弓矢の炎は、ナメクジの黄色い体に触れた瞬間、消え落ちてしまう。


「体液だ…」


 ナメクジの豊富な体液、それが矢の火を無効化しているのだ。


「このままじゃ…また触手にやられちゃう!」


 触手の嵐が始まったら勝機はない。

 なにか、相手にダメージを与える手段…そうだ!


 もう接近する時間もない。

 手持ちの剣を右手で構え…槍投げのように投擲した。

 槍投げなんてしたことない。けど、投げる瞬間の動きに集中したら、自然と投げるタイミングがつかめた。


――ぐさり。


 剣がナメクジの黄色い体に深々と突き刺さる。

 一瞬ナメクジの動きが止まったかと思うと、傷口から青色の体液がこぼれ始めた。


「や、やったのかな?」


 本心では、そうは思わない。

 たかだか剣が突き刺さったぐらいで…。


「すごい投擲だったわね。それも祝福のなせる技?」

「たぶん。本来の実力ではないよ」

「動かないわね…」


 ナメクジは静止したままだ。

 近寄って様子を見てみようかと思ったとき――


――ガツンっ!


 凄まじい勢いで何かが盾にぶち当たった。

 あまりの勢いに腕が持ち上がり、身がねじれる。


「ぐぅっ」

「大丈夫!?」

「気をつけて…盾の後ろに…」


――ガツンっ!


 成宮さんが移動した直後、再び盾にぶち当たる。

 これは…触手だ。

 それも、今までより太い。

 何本かの触手が寄せ集まり、筋肉質な大人の腕ほどの太さになっている。

 当然威力も…桁違いだ。


――ガツンっ!


 盾が弾かれ、体ごと吹き飛ばされそうになるのを辛うじて持ちこたえる。

 集中すればなんとか目で追える。

 けど、武器を持たない今、できることは成宮さんを守ることだけだ。


 成宮さんはすきを見てファイアアローを打とうとしてるけど、相手の攻撃のせいで姿勢を保てず発射できないようだ。


「成宮さん、隠れて」

「ご、ごめんね」


――ガツンっ!


 腕がもげそうになる。

 いつの間にか、指の皮膚が破れ始めている。

 アドレナリンのせいで痛みを感じないけど、折れている指もありそうだ。

 剣を持ってなくてよかった。両手で盾を構えていないと、この攻撃は防げそうにない。

 集中力が残っているうちはいい。けど、このままじゃ…。


「ねえ、聞いてくれる?」


 成宮さんが背後から囁く。


「プランがあるの」

「のった」

「まだ説明してないわよ?」

「信頼してるからね。僕じゃ打開策も思いつかない」


成宮さんの手が、僕の肩に置かれる。


「それじゃ聞いて、計画はね…」


―――――


 盾を構えて敵の攻撃を防ぎつつ、壁際へと後退していく。

 指は明らかに折れている。

 体も吹き飛ばされ続けたせいか、肋骨のあたりが痛い。


「よし…溜まった!」


 松明に近づいたおかけで、ネックレスに火の力が溜まる。

 あとは計画通りやるだけ…。


――ガツンっ!


「くっ!」


 指に握力が入らなくなったせいで、盾が吹き飛ばされる。

 次に触手が来たら…腹をぶち抜かれて死ぬかも知れない。

 まだプランは実行中、諦めるには早い。


「成宮さん、さっき拾った剣を貸してもらえる?」

「いいわよ…でも、盾の代わりには…」

「僕を信じて」


 敵の攻撃を防げるだろうか。

 冷静に、動きを読むしかない。


 …。

 ……。

 ……きた!


 黄色い触手が僕の体目掛けて一直線に向かってくる。

 剣を縦に構え刃の腹に左手を添える。

 触手が剣に当たる瞬間、剣をそらして触手の勢いを受け流す。

 触手はそのまま背後の壁にぶち当たる。

 壁にめり込んだ触手に向って、剣を突き立て押さえつける。


「プラン通りだ。行ってくる」


 壁に突き刺さった触手に跳び乗る。

 大人の腕ほどの太さがあるとはいえ、バランスを保つだけで精一杯だ。

 けど、プランはここから。

 ふらふらとバランスを取りながら、触手を登っていく。

 最初はゆっくりと、触手の胎動を感じてからは駆け足で登り始める。


 くそ、綱渡りなんてしたことないぞ。

 しかも走って坂を登っていくなんて…けど、やるしかない。


 どんどん触手を登っていく。

 途中、触手が大きく揺れて振り落とされそうになる。

 しがみつき、揺れが収まったら再び登る。

 指からは血がだらだらと流れ続けている。


「そろそろ壁から抜けそうよ!」


 成宮さんの警告を聞き、必死に触手を登り始める。

 振りほどされるのが先か、それとも……。


 ようやくナメクジの頭上付近まで登ることに成功する。


「成宮さん、あとは頼むよ…!」


 触手からジャンプ。

 落下したあとのことは考えない。

 既にささっていた剣を掴み、そのまま体重を乗せて、ナメクジの体を引き裂く。

 ナメクジから体液がほとばしる。


「ぶおおぉぉぉむぅぅぅ!」


 ナメクジが苦しげな声をあげる。

 ぱっくりと裂けた体が痛そうだ。


 剣から飛び降りる。

 鎧の重さのせいで、着地に失敗し倒れ込む。

 成宮さんがファイアアローを放つ。

 火に包まれた矢は、吸い込まれるように、ナメクジの傷口に放り込まれる。

 そして、体内を燃やす。


「ぶおおぉぉぉむぅぅぅ!」


 苦しげなナメクジの声。触手は壁から抜け、体内へと戻っていく。


 成宮さんが再び矢を放つ。

 さっきと同じように火の矢は傷口に放り込まれる。

 連続の攻撃に耐えられなかったのか、ナメクジは周囲の壁にぶつかりながらのたうち回る。


「や、やばい…死ぬ〜」


 見動きが取れなくなって、間抜けな声をあげていると、成宮さんがそっと肩を貸してくれる。


「大丈夫? 離れるわよ」

「あ、ありがとう…」


 なんだか立場が男女逆な気もするけど、見動きが取れない以上仕方がない。遠慮なく肩を借りよう。


 しばらくして、ナメクジは完全に沈黙した。

 黄色かった体は、今ではオレンジ色のぶよぶよの塊と化している。


「やったかな?」

「やったでしょうね」

「これで悪夢はおしまい?」

「周囲に扉は無さそうだから…もう探索する場所も残ってない」

「はは…それじゃ、コイツが主じゃないと、次回から探索に困るね」

「しっ…!」


 成宮さんが口に指を当てる。

 何か、さざめく音が聞こえる。

 波音ではない、もっと微かな…光が瞬くような。


「見て!」


 成宮さんの体を見ると、青白い光に包まれていた。よく見ると、自分自身もそうだ。

 いつもの死の紫色とは違う色だ。


「これは…」

「本当にゴールかも」


 光はより一層強くなり、目の前が青い光で包まれて、周囲が見えなくなっていく。

 不安に駆られた僕らは、自然と手をつないでいた。


「大丈夫だよ、きっと」

「そうね、きっと」


 そして、僕らは光の中に吸い込まれた――


―――――


 次第に目がなれていく。

 視界を取り戻す中、ろうそくの火がゆらめいているのが見える。

 目の前には石造りの祭壇がある。


「さて、祝福してやろう」


 案内人が、次の悪夢の始まりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ