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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第一章
33/154

33

 目覚めると、いつもと違う景色であることに気がつく。


「ここは…」

「泉の部屋…ね」


 看守に苦しめられた、いつもの小部屋ではない。

 前回、泉の水で喉を潤した、その部屋だ。


「バウニャンもいるわね!」


 犬と猫を合わせたような不思議な生き物も健在だ。

 どうやら、起床場所が変わったらしい。


「理由は分からないけど、スライム通路をわざわざ通る必要がなくなったのはありがたいわね」

「本当だ…戻りたいときに苦労しそうだけど…」


 まあ、今のところ戻る理由もない。

 いらぬ苦労が省略されるのは歓迎だった。


「他に変化もないわね。手持ちの装備品も元通り。弓矢も補充されてる」

「位置だけ変わったってことか」

「とはいえ、今日やることに変わりはないけれど」


 そうだ。魔法陣から召喚される剣士、あの強敵をなんとかしなくては。


「祝福の効果しだい…ね」


 扉を開けると、前回と同じく、部屋の中央に魔法陣が描かれていた。

 まだ赤色で、起動していないようだったが、しばらくすると青白く光り始めた。


「くるわよ…!」


 魔法陣から剣士が姿を現す。

 軽装だが、その分の素早さがある。油断はならない。


 すぐに剣士が成宮さんに向かって突進する。

 成宮さんも軽装だから倒しやすいと判断したか、それとも前回の戦いから判断しているのか。


「くっ」


 成宮さんは短剣で、相手の攻撃をいなし、後方にステップし距離を取る。

 弓を構えるが、剣士はなおも襲いかかろうとする。

 そこに、僕が後方から斬撃を叩き込む。

 剣士は身を翻し、左手に持った盾でなんなく弾き飛ばす。

 剣士が一瞬どちらを攻めるか逡巡したのを感じ取り、成宮さんが弓矢で胴部分の鎧の隙間を狙う。

 しかし、これも盾で惜しくも弾かれてしまう。


――やっぱり、速い!


 剣士の素早さはこちらを凌駕していて、どんな攻撃も届きそうになかった。

 こうなったら、捨て身の突進を――


「冷静に! 距離を取って!」


 そうだった。

 相手との実力に差があるときこそ、冷静にならなければいけない。捨て身なんて以ての外だ。

 とにかく、距離を取って、様子を伺おう。

 そう決めて、攻撃を止めて、防御に専念する。

 相手の攻撃は速い。

 看守の攻撃とは段違いだ。

 けど、成宮さんの竹刀に比べれば、重さのせいか遅い。

 それに、剣の軌道が読めなかった看守に比べ、剣士の動きは洗練されていて、ある意味予想しやすかった。


――がきぃぃん!


「くそっ」


 それでも、怒涛の攻撃を受け止めるだけで精一杯だった。こちらにも盾があれば…いや、あってもうまく使いこなせないだろう。

 成宮さんの弓矢の掩護で剣士の動きが止まらなければ、いつ殺されても不思議ではなかった。


 埒があかないと思ったのか、剣士が急に反転し、成宮さんに襲いかかる。

 虚を付かれた成宮さんは弓矢を短剣に持ち替えようとするが…


「間に合わない!」


 渾身のダッシュで剣士に向かう、すると剣士がニヤリと笑ったか、急激に反転し僕の方を向く。


――騙された!


 相手の狙いは初めから僕だった。

 姿勢が崩れた僕に向かって、剣が振り下ろされる。

 もうダメか…そう思った時、剣の速度がいつもより遅く感じられた。いや、剣の軌跡に集中することで、体感時間が遅く感じられるのだ。

 相手の剣を崩すと、相手は驚いたようにたたらを踏む。

 そのまま攻撃に転じる。


 相手が驚いていたうちは優勢だったものの、一度の身構えた後は実力の差が立ち上がり、再び劣勢になる。

 けど――


 僕一人に注意を払う必要に迫られた今、背後の成宮さんの弓矢には無防備だった。


――ぐさり。


 弓矢が背後から腹部に突き刺さる。

 剣士が状態を崩す。

 そこを斬りつける。

 よろめいた所を、成宮さんが短剣を腹部に突き刺す。

 とどめに、僕が首を切り落とす。


 剣士は絶命した。 

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