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「そんな顛末が…」
「茜に指輪を渡さなくてよかったよ。石渡さんのお子さんの、小さい頃の誕生日プレゼントだったんだって」
「小さい頃にもらったものって、使わなくなっても大切にしたりするもの。ギューミンのボールペンも大事に使わせてもらう」
「そ、そう…おねがいします」
なんだか気恥ずかしい。
「おーい、お前ら、のんきにしてる場合か」
案内人のツッコミが入る。
「前回、なかなか頑張ってると思ったら、最後はあっさり死におって」
「やっぱり、見えてるんじゃない…」
「どうなんだ、今日は勝機があるのか?」
勝機はなかった。
寝る前に成宮さんと話したのは、とにかく長期戦に持ち込むこと。相手の能力や癖を出来る限り見極めることだった。
悔しいけど、力に差があるときは、そのことを意識して、勝つ以外の目標を立てるのも重要だ。
「ふん、悪くない目をしてるじゃないか…よし、ちょっとした助言を与えよう」
「助言?」
「祝福のことは覚えてるか?」
案内人の言葉に、成宮さんが怒りをあらわにする。
「覚えてるわよ! でも、なんのことやらさっぱり! 全然手助けになってないじゃない!」
「はっはっは! 怒鳴るのは早計というものだ。祝福の効果、既に実感しているはずだぞ?」
「そうなの? …あなた、何か変化はあった?」
「え? ど、どうかな…心なしか、体力がついた気がするぐらい? でも、成宮さんとの特訓や、夢の中での戦闘のおかげだと思うし…」
僕の返答に、案内人が高笑いする。
「はっはっは! いい線だが、微妙に外してるな。まあ、分からんか」
「もったいぶらずに、はっきり言ったらどう? この時間だって、ろうそくの火に含まれてるんでしょう?」
見ればろうそくは残り20本、2人合わせて10日の命だ。
「そうだな、手短にしよう。祝福は可能性の力だ。可能性というのは、伸びしろと言い換えることもできる」
「…つまり?」
「そう睨むな。つまり、成長力と言ってもいい。そいつはな、急速に成長するのさ、鍛えれば鍛えるだけな」
「足が早くなったり、体力がついたり?」
「でも、あまり実感ないけど…」
「鍛え方がバラバラだからな。それに、一度の祝福で成長する量には限りがある。いきなり強くはなれないさ」
「一度の祝福? 何度も受けられるの?」
「そりゃ、お前たちが戦闘を繰り返せばな、褒美くらいやるさ。そう簡単にはやらんが…」
「強くなってる実感が無いって言ったわよね。改めて思い返してみて。何か変化はないかしら?」
変化か…そういえば、敵の動きがよく見える気がする。成宮さんとの特訓では防戦一方だけど、悪夢の中では、ちょっとは戦えてるような。
「そうかも。失礼だけど、現実よりも頼りになるわ。…あ、戦闘面での話だから」
「大丈夫、少ししかへこまないよ。あとは、罠の通路に違和感があったかな。僕のほうが罠を探すのが速かった。成宮さんのほうが集中力がありそうなのに…」
「集中力か…」
案内人は僕らのやりとりをニヤニヤして見ている。
「気づいたか?」
「ええ、どうやら彼の集中力が向上してる。一週間足らずで」
「ふむ、それが祝福の力だ」
「でも、それだけなの? 少し集中力が増した、という程度じゃない」
「さあて、一度の祝福の限界まで行ったか分からんぞ。それに、他の能力が伸びてないとも限らん」
「体力か…」
「戦え、もっとたくさんな。より良い死は、より良い経験でもある。経験と祝福を積めば、お前たちは見違えるほど強くなるだろう」
「現実を超えて?」
「当然、だな」
現実を超えて強くなる…。
案内人の言い方だと、ちょっと足が早くなる程度ではなさそうだ。
もしかしたら、それこそ現実離れした力が手に入るのかもしれない。
でも…。
「時間が必要ね。いくら成長速度が速まっても、ろうそくの火が尽きたら意味がない」
「だとしたら、今日はひたすら敵の攻撃をさばく訓練を積むのはどうかな?」
「…ろうそくの火がもったいないけど…もとより、様子を見るしかできなかったものね」
「敵を調べつつ、能力を鍛える。これって、結構有意義だよね」
「うん、それでいきましょう。私も頑張ってアシストするわ」
「さて、そろそろ頃合いだな」
案内人がそう言ったあと、空間が歪み、僕らはあちらの世界へと移動した。




