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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第一章
29/154

29

「戻ってきたね」

「ええ…うん、確かに最初のT字路ね」


 正面の扉を開けると、看守が倒れている部屋にたどり着いた。用はないので、扉を閉め立ち去る。


「これまでの経路を思い出すに…」

「スライム通路の先にある扉だけね、謎なのは」

「で、扉の鍵はここにある、と」


 以前、命がけでたどり着いた爆弾スライム通路の奥。そこには鍵付きの扉があった。そして、その扉はT字路の扉と同じ見た目をしていた。


「行くしかないね」

「そうね…ひたすら急いで、焦らず扉を開けないと」

「扉を開けるのにもたついていたら、スライムの爆発に巻き込まれるからな…」


 あの死に方は辛かった。

 二度と味わいたくない。


 今回は装備品を脱ぎ捨てるわけにはいかない。多少鈍重になるけど、そのままの格好で奥を目指す。

 覚悟を決めて、走り出す。

 周囲から緑色のスライムがしゅうしゅうと膨らみ始める。

 蹴りつけても破裂しないことは分かっていたので、ちょっとした接触は気にせず走り続ける。

 曲がり角を折れ、扉が見えてくる。

 到着後、焦らず用意していた鍵を鍵穴に差し込む。


――かちゃり。


「よし、開いた」


 もし開かなかったらどうしようと思っていたが、問題なく扉は開いた。

 急ぎ扉の中に入り、ばたんと扉を閉める。

 耳を澄ますが、スライムが破裂する音は聞こえて来なかった。

 侵入者がいなくなったことで、収縮したのかも知れない。なんにせよ、通路に戻る気はない。


「なにコイツ…!」


 成宮さんの悲鳴が聞こえる。

 新たな敵か?

 振り返ると、満面の笑みを浮かべた成宮さんがいた。


「やだ…すっごく、かわいい!」


 部屋の中には壊れた水道のように湧き水が溢れる祭壇と…犬のような生物がいた。


「犬…?」

「よく見て、猫かも」

「猫かな…?」

「ううん、猫でもない…熊かも」


 熊…それにしては小さい。

 サイズは小型の犬くらい…さっきであった小型ナメクジと同程度。顔も犬だけど、耳は猫の形だった。目はつぶらだ。くりくりしている。愛嬌のある熊に見えなくもない。


「とにかく…かわいい!」

「こう見えて獰猛かも?」

「まさか、こんなにかわいいのに!」

「口を開けたら触手が出てきたり?」

「まさか、こんなにかわいいのに!」

「鋭い爪でズタズタに?」

「まさか、こんなに…!」

「わかったわかった、降参」

「じゃあ…抱っこしてもいい?」

「気をつけてね」


 確かに、ただのかわいい生物のようだ。昔、友達の家で遊んだ子犬を思い出した。ちょっと馬鹿っぽいけど、そこがまたかわいいのだ。

 僕もあとでもふもふしよう。

 戦意喪失の成宮さんはほっておいて、部屋を調べる。

 中央の祭壇からは止めどなく水が溢れている。溢れた水はうまい具合に床のひび割れに沿って流れていき、部屋の隅にある小穴へと吸い込まれていた。このおかけで、部屋が水びたしにならないようだ。


 祭壇の向こうには鉄製の扉があった。

 近づいて調べてみると、どうやら鍵はかかっていないらしい。すぐに先に進めそうだった。


 周囲をぐるりと眺めるが、祭壇と扉、それにもふもふしている成宮さん以外に気になるものはなかった。


「じゃあ、そろそろもふもふ交換を…」

「ええ…?」


 成宮さんが心底残念そうな顔をする。

 そういえば、ギューミンの間が抜けた顔に似ているかもしれない。


 成宮さんが子犬のような生物を床に放つ。

 すると、てこてこと床を流れる水のもとに移動し、ぴちゃぴちゃとなめ始めた。


「どうなのかしら、この水」

「すごく澄んでるから、安全に見えるけど…バウニャンも甜めてるし」

「バウニャン…?」

「犬がバウと鳴き、猫がニャンと鳴くので」

「…かわいい」


 お気に召したようでなにより。

 一心不乱に水を飲むバウニャンを見ていると、なんだか喉が乾いた気がする。

 成宮さんも同じことを考えたようで、じっと水源を見ていた。


「…飲んじゃおうか」

「でも…ほら…ねえ?」


 危険かもしれない。

 でも、役に立つものかもしれない。

 ここでは知らずにいるほうが危険だ。


 そっと水源に両手を差し込み、水をすくい上げ、口に寄せる。

 ……!


「ど、どう?」

「うまい…すごく、おいしい」


 まろやかで、それでいて喉元をするすると流れていく。錆びついたような臭みもなく、無味であるはずなのに、どこか甘みがあった。水というより、限りなく不純物を除いた天然のエキス…と、わけも分からない感想が思い浮かぶ。


 ぐびぐびと飲んでいると、やがて成宮さんも近づいてきた。

 おそるおそる、飲み始め、その味に驚いたあと、僕と同じく普通に飲み始めた。


「おいしい…家でも飲みたいぐらい」

「ほんと…風呂上がりにさっぱりしそう」


 こうして僕らと一匹は、気の済むまで休息を楽しんだ。


 

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