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「今日はもう少し距離をとって戦いましょう」
次の日もナメクジのもとを訪れた僕らは、できるだけ距離を取るように戦っていた。と言っても僕は剣しかもっていないので、斬りつける度に距離を取る戦法だ。
「だめ…か!」
ナメクジの弾力はすさまじい。剣も弓も一切通さず弾いてしまう。
相手の粘液発射を恐れる僕らはいつの間にか暗闇通路まで追い詰められていた。
「まずいな、もう後がない…成宮さん、後ろ!」
「えっ?」
弓を射るあまり、背後をおろそかにしていた成宮さんが、闇に体を侵入させてしまう。
――ガコッ! ずしゃっ!
何かが起動する音、そして放たれる音。
「な、成宮さん…」
闇の中には罠が仕掛けられていた。
成宮さんは側面から飛び出た槍に突き刺され、口から赤いあぶくを吹いていた。
「な、に、こ、れ…」
そのまま首が下に傾く。
成宮さんに意識を向けていた僕も背後を忘れていた。
振り返れば、ナメクジが青い体内から黄色い触手を構えていた。
―――――
「問題なのは…」
さらに次の日、僕らはファーストフード店で作戦を練っていた。
「ナメクジ通路を進むか、暗闇通路を進むか、スライム通路を進むか…ということね」
「あるいは、なにか隠されてないか探すか」
「そうね…どうかしら…ああ、八方塞がり」
スライム通路は扉に鍵がかかっている以上、どうしようもない。暗闇の攻略法を見つけるか、ナメクジの攻略法を見つけるかだ。自分で言っててなんだけど、隠されているものはないと思う。
「ナメクジについて気になってることがあるんだ」
「それって?」
「表面は剣を通さない」
「体内ってわけね…」
液体を放つ際に姿を見せる青い体内。ナメクジが生物であるなら、さすがに体内は柔らかいはずだった。
「体を反らしたところに剣をぐさりと…」
「悪くなさそうだけど…のけぞってから、体液を発射するまで、意外に短いわよ?」
「僕は死なばもろとも、成宮さんに後は託す…というのは?」
死ぬのは辛いけど、ろうそくの日が残ってるうちは本物の死じゃない。次につながる犠牲は悪くない気がした。
「それは最後の手段。やっぱり、互いに苦しくないのが一番だもの。というより、私の気持ちが許さない」
「分かった。でも、僕の意見を尊重してくれるなら、最後の手段として、候補には残してくれる?」
「…仕方がないわね。こんなところで、二人共終わる訳にはいかないもんね」
「うん」
「体内を攻めるという案は悪くない。そこに安全性というか、こちら側でもう少しコントロールできればいいんだけど」
「塩でもあればねぇ」
「塩で水分を吸収か…ふふっ、お塩屋さんを開けるくらいの塩が必要かもね」
「はは、お塩屋さんか、なんだかかわいい言い方だ」
「…まって。塩…か」
「いや、あの世界に塩は」
「いえ、塩は無いんだけど…剣とは別の痛みを与えるのはどうかなって思って」
別の痛み?
刃物以外の痛みなんて存在するだろうか。
殴っても余計に弾かれそうだし、まさか精神攻撃?
「精神攻撃とか思ってないでしょうね」
「…ま、まさかぁ」
「ふふ、ホントに? 別の痛みというのはね…」
成宮さんの作戦を聞いて、そりゃそうかと納得する。
生物の弱点は、何も体内だけじゃない。
あらゆる生物が恐れるもの…火だ。




