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「こ、こいつは…」
「うう…き、気持ちわるい…」
目の前にいたのは巨大な…ナメクジのような怪物だった。殻がないので、カタツムリではなさそうだ。全身が濃い茶色で、松明の明かりに照らされてぬらぬらと光っている。勝手にナメクジは体が透けている印象を持っていたけど、巨大な肉塊という感じで、透けるどころかどっしりと重そうだった。
そいつが、恐らく背を向けている。現実のナメクジ同様に、顔が判別できればだけど。
ナメクジの向こうには通路が続いている。
「どうにかしてやり過ごせないかしら…」
一旦曲がり角の先から頭を引っ込めて作戦を練る。
「脇を通り過ぎるのは難しいね、ほとんど通路を埋め尽くしてる」
「接触するのをためらわなければ、乗り越して行けないこともなさそうだけど…できれば避けたい」
「触れると害があるかも知れないしね…って、おわぁ!」
いつの間にか、触手のようなものが迫っていた。先には目玉のようなこぶし大の塊がついている。
「くそっ、気づかれた!」
思わず剣で叩き切ろうとするが…切れない。思いのほか弾力があり、剣が弾かれてしまった。
「この剣、切れ味が悪いのか!?」
「落ち着いて、相手の体が特殊なのよ!」
曲がり角からこちらに全身を表した巨大ナメクジに対して、成宮さんが矢を射るが、これも弾かれてしまう。
「どこかに弱点はないのか…!」
「ここはいちど引いたほうが…なに!?」
混乱している僕達を尻目に、ナメクジは着実に近づいてきていた。
「みゅるみゅるみゅるっ!」
どこからか甲高い雄叫びを上げると、ばくんと上体を反らす。
するとそこには巨大な穴が開いていて、その中は焦げ茶の体に似つかわしくない、原色に近い青色の体内が覗いていた。
そして、そこから大量の体液がほとばしり、僕らに降り注ぐ。
「なにこれ…取れない…!」
粘着質な体液は、体中にこびりついて容易には取れない。それに次第に固まっているのか、見動きが取れなくなっていく。
「こ、これ…マズい」
もう遅かった。
見動きが取れなくなった僕らを、ナメクジはゆっくりと眺める。まるでどちらから食べるか値踏みするように。
「……!」
「……!?」
僕を襲うことに決めたのか、ゆっくりとナメクジが向きを変え、再び鎌首をもたげ、青色の体内を見せつける。
その中から黄色い触手が数本伸びてきて――凄まじい勢いで僕の体中を突き破った。




