第2話 『僕に訪れる初めての死』
開いた扉から、のそりと鉄の鎧が姿を現した。
揺れる松明に照らされた鎧が、銀色から赤、また銀色とぬらぬらと見た目を変える。
背は僕よりも少し大きい程度なのに、鎧の威圧感で外見よりも大きく見える。
頭には、鎧と同様に重たげでゴツゴツとした兜を被っていた。
日本式ではなく、ゲームや教科書で見たことがあるような、西洋式の甲冑一式。
目元は横に裂けた亀裂のような覗き穴。
暗く沈んだ亀裂からは、相手の目が一切見えず、何を考えているのか分からない。
恐怖から言葉を発しそうになるのを慌てて飲み込む。
下手な事は言えない。
相手が何者か分からない。
それに、この状況は異常すぎる。
牢獄のような場所で、鎧を着た何者かが入ってきた。
相手が友好的な関係を求めてくると考えるのは、楽観的すぎる。
部屋を包む静寂の中、兜の隙間から漏れる呼吸音だけが小さく聞こえる。
男性のものか、女性のものかは分からない。
――ずしり。
鈍い足音。
鎧が部屋の中に入ってくる。
僕はそれを止めることもできず、扉が閉められるまで突っ立っていた。
急に部屋が狭くなったように感じる。
部屋の大きさは変わっていないのに。
相手の腰の異物か目に入る。
鞘だ。
その中身は恐らく……。
狭い。
どうしてこんなに狭いんだ。
これじゃ逃げられない!
パニックが迫っていた。
呼吸が荒くなる。
頭がガンガンと痛む。
僕の混乱がピークに達したのに気がついたのか、鎧が動き出す。
鞘から鋭く磨かれた鉄の塊――剣を抜いた。
もう無言でいるのは無理だ。
逃げよう。
そう思った。
でも、体が動かない。
鎧がぬるりと剣を突き出す。
冗談みたいにずぶずぶと、なんの抵抗もなく、僕のお腹に入っていき、そのまま背中へと抜け出た。
熱い。
お腹から液体が流れ出ていくのを感じる。
異常な事態が、現実感覚を崩していく。
剣が抜かれる。
内蔵を引っ張られたかのような強烈な脱力感。
剣に、肉の塊がこびりついている。
体がぶるっと震え、僕は崩れ落ち――気がつけば、床に寝転んでいた。
体中が寒い。
唯一、お腹だけが熱い。
僕はどうなるんだ?
このまま死ぬ?
「ありえない」
僕が呟くと、上から笑い声。
男の声だった。
そして、僕は死んだ。