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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第三章
101/154

森2

 木箱はこれまで見たものと同様の、小さくもないが大きくもない、体育の授業で使う跳び箱を3段重ねた程度の大きさだった。

 蓋は閉じられ、中に何が入っているのかは分からない。鍵穴が付いているので、もしかしたら開かないかもしれない。

 罠の可能性もあるので、剣の切っ先でコツンとつついてみる。反応はない。中にモンスターが入っているということはなさそうだ。とはいえ、息を潜めているのだったら、そうと知る術はないけど。


「開けてみるんだろ?」

「そうね。鍵がかかってなければ」

「じゃ、僕が確かめてみるよ」


 木箱の前で膝をつき、ぐっと力を込めて木箱の蓋を押し上げる。よし、鍵はかかっていない。

 金属の軋む音を上げ、蓋が開ききる。


「……何もはいってないね」

「なんだよー、取り越し苦労、ここまでの道のりも無駄足かー」

「何か気になるところはないかしら」


 成宮さんの指摘に、木箱をじっくりと調べてみる。

 中身は何も見つからない。ゴミクズ一つない。

 念のため木箱の外側も調べてみたけど、何もない。

 三人がかりで木箱を持ち上げてみたところ、木箱の下から得体の知れない小さな虫が多数這い出てきて、二人が盛大な悲鳴を上げた。


「はぁはぁ……な、なにもなさそうね」

「うえー、さっきの虫、すげえ色だったな。それにぐねぐねと……」

「アルコ、やめて」

「鍵穴が付いているのに、何も入っていないのは残念だね」

「誰かが持っていったのかもしれないぜ」

「そんなこと……あったわね、前回の悪夢で」

「えっ、そうだっけか」

「アルコのことだよ」


 前回の悪夢、僕と成宮さんが最初に発見したのは空になった木箱だった。アルコが今着ているローブと杖を持ち去った後だったのだ。

 同じようなことが、今起きているのだろうか。


「姿の見えない誰かがいるかもしれないってのは気分がよくねえな」

「でも、基本的にはこちらに危害を加えてくることはないと思うわ。あちらも被害者、巻き込まれた一般人なわけだし」

「こっちはコスプレですかって格好だけどな」

「大丈夫、あっちだってボロボロの服のはずだよ」


 初めて悪夢を訪れた時は、奴隷のようなボロボロの服で訪れるはずだった。

 とはいえ、本当に先行した誰かがいるのかは分からない。単に空の木箱だったのかもしれない。

 なんとはなしに三人で耳を澄ませてみるけど、特に不自然な声や音は聞こえてこなかった。


「まあ、考えてても仕方がないわ。それに、誰かがいるなら、石の祭壇で遭遇することもあると思うし。木箱には何もなさそうだし……残念だけど、石像のあった広場に戻りましょうか。……あら?」


 話しながら木箱を調べていた成宮さんが何かに気がついたような声をあげる。


「どうしたの?」

「鍵穴を調べていたんだけど……脇に数字みたいな傷があるの」

「どれどれ」


 アルコと僕が鍵穴に顔を寄せる。

 確かに傷がある。

 数字……のようにも見えるけれど、見知ったアラビア数字ではない。文字というよりは数字に見える気がする、という程度で何を表しているのかは不明だ。


「ただの引っ掻き傷にも見えるぜ?」

「稲妻のマークにも見えるね」

「そうね……ただの傷かも。3本の線が重なって、文字のように見えただけかもしれないわ」


 他に怪しいところもなく、僕たちはがっかりしながら木箱に背を向け、階段を降り始めた。

 行きと同様に真っ暗で息苦しい空間だったけど、中の構造を把握している分、不安が軽減され、難なく出口にたどり着くことができた。


「ふう、息苦しかったぜ」

「月明かりがこんなに頼もしいなんて」

「初めて訪れた時は、なんて暗いんだろうって思ったのにね」


 安堵した僕らが広場に戻った時、突然周囲が暗闇に包まれた。


「な、なんだ!?」

「月が……雲が月を隠したのよ」


 雲の厚みのせいか、側にいるはずの二人の顔すら見えない。魔法めいた暗闇に包まれる。まるで、さっきまでいた地下に舞い戻ったかのようだ。 

 月明かりの頼もしさを確かめた後だっただけに、ほんの少しの陰りが、随分と長い時間に感じられる。現実での夜は、常に街頭やコンビニの光が溢れていて、こんなにも月の光を感じることはなかった。

 少しして、周囲がゆっくりと明るくなっていく。


「雲が去ったみたいね」

「ずっと暗かったらどうしようかと思ったよ」


 アルコも不安だったよね、と声をかけようとした。

 けど、そこにアルコの姿はなかった。


「アルコ……?」


 月明かりが照らすのは僕と成宮さんの二人だけ。

 アルコは消えてしまった。

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