森1
異形の像だった。
少女の像は体のそこかしこに目玉が埋め込まれており、苦悶の表情を浮かべるその顔にも、頬や額に目玉が埋め込まれている。
見ること自体が禁忌であるような、あるいはグロテスクな見た目を怖気づいて、僕は少女の像から目をそらした。
成宮さんたちも同様に像から背を向けて、沈痛な面持ちだ。
「何か意味があるのかしら……それにしても、酷い姿」
「これが拷問だって言うなら、アタシなら死を選ぶね」
少女の像をできるだけ無視するようにし、広場の周囲に目をやると、いくつかの獣道に気がついた。
「結構な数の道があるな。けど、どれが正解だって言うんだ?」
「ヒントなしじゃ、適当に選ぶしかなさそうね」
木々の隙間に覗く、人一人がやっと通れそうな獣道。どれも薄暗く、どこに続いているのか伺いしれない。
「たとえハズレの道だったとして、最悪なのは同じ道を繰り返すことね」
「確かに、一見して違いがわからないから、何度か繰り返すうちに同じ道に入っちゃうかも」
「じゃあ、左か右か、端から選んでいけばいいんじゃねーか?」
「そうね……左も右も、違いはなさそうだから……多数決でもとりましょうか」
「それじゃ、せーので右か左か宣言しようか」
すう、と呼吸を溜め込む。
「せーの……」
「右!」「右!」「左!」
成宮さんだけが左を宣言していた。
「何か理由があったり?」
「いえ、何も。右からあたってみましょう」
「怒ってたりしねーよね?」
「あのね……本当に根拠はないの。たまたまあなたたちと違っただけ。一切不服はないわ」
「やっぱり、左からにしようかなあ……」
「アルコ、それって多数決の意味がないじゃない」
「けどさ、ヒカリの直感のほうが、自分の直感よりも信じられるんだよな」
「こう考えてみたら? 三人のうち二人の意見が一致した右のほうが正しいって」
「そうだなあ……たはは、根拠がないと不安だな、こういうのって」
少しまごついたものの、多数決の結果を重要視して、右側の獣道から確認していくことになった。
近づくと、さっきまで通ってきた獣道と大して違いがない。狭くて、先が見通せない、かろうじて通れる道だ。
注意しながら、ゆっくりと進む。
ダンジョンと異なり、頭上には開放感があるはずなのに、逆にどこからでも襲われそうな不安に襲われる。天井があるほうが、まだ安心だった。
「……これは」
獣道をしばらく進むと、地下へと続く階段が現れた。まるで――
「墓……みたいだよな」
「そう思ったけど……口に出さないでくれよ」
「どうする? 広場に戻る? 私は、進んでみたい。何かあるかもしれないし」
「さーんせい。怖いけど、行くしかねーな」
恐る恐る、階段を降りていく。
洞窟やダンジョンに潜っていくのと同じはずなのに、最初からダンジョンの中にいるのと、これから向かうのとでは恐怖が全然違う。
壁に手を添えながら階段を降りていく。
月明かりのか細い光すら届かなくなり、暗闇の中に身投じて行く。
「な、なあ。これっていきなり階段がなくなったりしないよな?」
「だから、口に出さないでってば」
「剣で足元を確認しながら進んでもらってもいいかしら?」
「了解」
歩みは遅くなるものの、いきなり奈落に真っ逆さまよりはマシだ。
剣がカツンと石でできた床を打つ音が響き渡る。
しばらくして――、
「おわっ」
「ど、どうした!?」
「階段が……底についたみたいだ」
試しに剣を周辺に打ってみるけど、反射音が返ってくるだけで、落とし穴はなさそうだった。
後ろを振り返る。
二人の息遣いが聞こえる。
遠くの方に、少しだけ階段の入り口が見えている。
戻ろうと思えば、戻れそうだけど……。
「暗すぎる。戻るべきかな?」
「ちょっと待って……壁は途切れていないわよね?
「うん。階段は終わったけど、壁はそのまま。横幅も変わってないんじゃないかな」
「両腕を伸ばしたら、左右どちらの手も壁につくわね……このまま進んでみていいかしら」
「い、いいけどよ。何も見えないぜ。迷路になってたらどうすんだ?」
「だから、私が両手を壁につけて横幅の変化を確認する。両手がついているうちは、変わっていないということだから。あなたは剣で床を調べて進んで。そうすれば、暗闇の中でも進めると思う」
「わ、わかった……」
めちゃくちゃ不安だけど、ここまで来て戻るのも成果がなくて後悔しそうだ。先に進もう。
成宮さんを信じて、しばらく進むと、剣が何かにぶつかってカツンと音を立てた。
「なんだろう……何か硬いものが……」
「もう少し探ってみて」
剣を高さを変えつつ打ち付ける。どうやらこれは……
「階段みたいだ」
「やったわね。昇りましょう」
剣で確認しつつ、階段を昇っていく。
少しずつ、頭上が明るくなってきた。
出口だ。
月明かりがこぼれてきている。
階段を昇りきり、穴蔵から出る。
振り返ると、疲労した様子の二人と、穴蔵の入り口が見えた。
最初に入ってきた穴蔵と同じ見た目だ。
「これ、本当に別の出口だよな? 実は戻ってたり……」
「いえ、ちゃんと別の出口みたいよ」
成宮さんが指差す方を見ると、獣道の行き止まりに、木箱が置かれていた。




