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悪夢の塔  作者: 相沢メタル
第一章
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第10話 『僕は悪夢を少し知る』

「ぐうううっ!」


 目が覚めると、ひどい痛みの感覚が上半身に広がった。

 右肩から先への距離感がおかしい。

 上半身を縦に切り裂かれたせいだ。

 まるで右腕が数十センチ遠くにぶら下がっているような感覚。


「ふーっ、ふーっ……な、成宮さんは?」


 ※


 教室に入ると、既に成宮さんは席についていた。

 普段と変わりないように見える。

 いや、常に弱みを見せないように気を張っているからか。

 成宮さんがこちらをちらりと見る。

 どことなく、表情に疲れが見える。

 でも、彼女の瞳には自信に溢れた光が浮かんでいた。

 昨日の悪夢で何か掴めたんだろうか。


 ※


 放課後、僕たちは屋上に集まった。


「どうだったのかしら、昨日は?」

「必死で逃げ回ったけど、結局殺された」

「そうみたいね。聞こえてたわ」

「え?」


 成宮さんは夜8時半に寝たらしい。

 僕が眠りについて、少し後の時間だ。

 成宮さんが悪夢の中で目覚めると、いつもと違い、鎧の男は入ってこなかった。

 代わりに扉の向こうから唸り声や金属を叩きつける音が断続的に聞こえてきたらしい。

 おそらく、僕が逃げ回っていた頃の出来事だ。


「音が止んだら、鎧の男が入ってきたわ」

「ごめん、何もできなかった」

「そんなことないわ。色々分かったの」

「色々?」


 成宮さんが腰に手を当てる。


「まず、二人の夢が共通だとして、時間と場所も同じなのかどうか」

「音が聞こえてきたということは……」

「見たわけじゃないから絶対とは言えないけど、おそらく同じ空間を共有してる」

「じゃあ、いつも成宮さんが先に殺されていたのは」

「単純に、私のほうが寝るのが早かったから」

「そういえば、鎧の男が僕を見てを驚いた感じだった」

「いつもとパターンが変わったせいね」


 顎の下に手を当てて、考えるポーズをとる。


「それから、悪夢に侵入する時間は、現実で眠りにつく時間に従ってるみたい」

「だから、成宮さんは僕が逃げ回ってる時間に間に合ったんだね」

「ええ、あなたの存在を確認するためには、同じくらいの時間に眠りにつく必要があったの。もっとも、あなたが8時ぴったりに眠れるか分からなかったから、少し時間を空けたけど…本当は不安だったの」

「不安……?」

「あなたが8時に寝れなかった場合、私が先に眠りにつく可能性があった。それじゃ、検証の意味がない。とはいえ、9時くらいに眠りについた場合、あなたが既に殺されているかも知れない。そうすると、鎧の男が入ってくる順番が普段と変わったのか分からない」

「なるほど、僕が時間ぴったりに寝ることと、長時間逃げ回ることが必須だったんだね」

「ええ。あなたは十分時間を稼いでくれたわ……ごめんなさい、検証の内容を伝えてなくて」

「いや、武器を持っていない以上、殺されるのは決まってるし。それに、事前に内容を聞かされてたら、緊張して8時に眠れなかっただろうし」


 僕のフォローに、成宮さんはふふ、と笑う。


「ありがとう。そう言ってもらえると、助かる」

「僕みたいな素人でも、少しは逃げ回れるっことが分かって、自信もついたし」


 僕が偉そうに胸を反らすと、また笑ってくれた。


「ええ、頑張ってくれたのは伝わった。何度も金属が石に当たる音が聞こえたし。たぶんあなたが……殺される直前、岩が崩れるようなすごい音がしたわ。怖かったでしょう」

「怖さはお互い様だよ。そうだね、最後の攻撃はすごかった…目が覚めた時の衝撃もね」

「ごめんなさい、辛いことを思い出させて」


 しまった、ネガティブな方向に。


「ええと、検証結果はそれぐらい?」


 成宮さんの瞳が光る。


「最後にもう一つ。そもそも、これが一番知りたかったの。悪夢……あの世界、肉体が毎回元通りになるでしょ?」

「そうだね、どんなに殺されても、毎回同じ場所、同じ服……五体満足な状態で訪れる」

「部屋の中を調べてみたの。私、昨日を除いて、いつも逃げ回ってたんだけど……」

「僕と違って、状況を変えようとしてたもんね」

「悪あがきするタイプというだけ」

「ごめん、ネガティブだったよ」

「調べると、壁や扉に無数の傷があったわ。私、空振りした攻撃が狙った壁に当たるように意図的に相手の行動を誘導してたの」

「意図的に? す、すごいね」

「そうしたら、傷が残ってた。前には存在しなかった傷が」

「ということは」

「あの世界、私たちはリセットされるけど、世界自体は今も存在し続けてる。変化は残ったままになるのよ」


 僕らの行動の影響が残り続ける……。

 あの世界が急に実際にあるものとして感じられてきた。

 頭の中にある、偽物の世界ではなく、今もどこかにあるもう一つの世界……そんなイメージが湧いてくる。


「この検証の意図なんだけど」


 成宮さんが話を続ける。


「扉を、壊そうと思ったの」

「そうか、傷が残るなら」

「ダメージも蓄積するかなって。でも、扉を壊すだけの道具がないのよね」


 道具?

 それって、昨日の戦いで。


「僕の部屋にあるよ」

「え?」

「さっき、大きな音がしたって言ってたよね? あいつ、最後に壁を崩したんだ。大きな石が地面に転がってた」


 それを使えば、扉を破壊できるかもしれない。

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