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或るあるシリーズ

或る駅ホームの一生

作者: 林 秀明

どんよりした雲に覆われた隙間から、今にも雨が降りそうだと心配した目で見つめる。

早朝通勤、通学途中の駅のホームでは同じ格好をした人が立ち並ぶ。


携帯電話、携帯電話、一つとばして、また携帯電話……


みな一体何を待っているんだろうと、初めての人は不思議に思うかもしれない。それはまさしく今から綱引き大会が始まるのではないかと、みな一致団結に整然と並んでいる。

向かい側のホームを見ていた私は、ふぅとため息をつく。それはいつもこの光景を見る安心感なのか、もう見飽きたという怠惰さによるものかは分からない。ふと顔を上げると小さな男の子がこちらを見つめていた。平然と見上げる眼差しはこちらの世界に興味があるのだろうか。


ふとその前を通過電車が勢いよく走る。風が勢いよく吹きつけるが、その風に怯える人は一人もいない。電車が通り過ぎると不思議な事が起きていた。先ほどの男の子が一人から二人に増えている。こちらを見つめる男の子とお母さんに抱っこされる男の子……


「双子なのか……」


びっくりした気持ちが、急に安堵の気持ちへと変わる。人間は常識で図りしえない事はすぐに否定するが、常識内ではすぐに「承認」ボタンを押してしまう安易な生き物である。

かの友人はこう言う。


「絶対に出来ないと思っていた事がいざ出来てしまうと、最初は皆驚き、歓声を上げるが、いつしかすぐにそれを肯定し、当り前化していく。要するに慣れるのだ。欲望なき人間こそが『慣れ』という恐怖に怯えなければいけない」


そう言って友人はからあげ君を頬張り、人類の造った便利化に浸っていた。


ふとその言葉を思い出すと笑顔がこぼれる。言っている事とやっている事の相違に一種のおかしさが、「面白い」という感情を引き出してくる。

改めて向かい側ホームの人達を見る。相変わらず同じ立ち振る舞いをしている人達。

あと何回この光景を見れば、私は死ぬいずるだろうか。電車到着の合図音が鳴り、風が顔面へひしひしと伝わる。閉ざされた前髪をそのままにしながら、私はいつも変わらず、電車へと乗り込む。


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