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奈良

総理執務室ーー。


戸を二度叩く音が耳に入った。朝に来るのは決まって東島である。

「東島か。入れ。」

扉がさっと開いた。


「閣下!奈良国から連絡が入りました。話し合いたいと。」


奈良国といえば、先の京都との戦いにおいて京都国に加担した敵国であるが、講和会議には参加したかった国である。


俺は驚いて立ち上がった身体を座り直した。

「本当か!どういう要件であったのだ?」と吃った。


「いえ、話し合いたいとのみ。日時は此方に合わせるとーー。」



奈良国大将は荒木あらき 正四まさしという者であった。俺は彼についてはよく知らなかった。


「確か奈良国大将は荒木とかいうやつだったな。どんなやつだ?」


奈良国については対京都国戦争以降、一切情報が無かったため俺の意識の中からも自然に排除されてしまっていた。


「三期連続で知事を務めており、非常に優秀な経歴の持ち主であります。何か策あって会談を願って来たのかも知れません。お気をつけください。」




数週間後、奈良国との会談が決まった。


会談には奈良と滋賀だけでなく近畿三国同盟の大阪の杉井、兵庫の火戸も共に集まった。


官邸前に最も早く現れたのは奈良国であった。


一見爽やかな朝に雲が暗澹と動く。


荒木は身軽にやって来た。



四つの国は滋賀に集まり、ついに奈良の秘密が解かれる時が来たーー。


俺たちは彼らを準備の整った特別応接室へ招く。

座席には俺を真中にした近畿三国同盟の三国と奈良国が向かい合う形で着いた。


東島に聞いていた通り、荒木からは冷たいほどに怜悧な感じがする。


しかし、俺のその印象は瞬く間に俺の脳を過ぎた。


荒木は席に着くなり、綺麗に清掃がなされた特別応接室の白い床に頭を垂らした。


また、共に誰の耳にもその嗚咽が聞き取れる。

一同は驚きに打たれたが、荒木はそのまま話出そうとした。


「うぅ……ぅ誰に! 味方しても同じや同じや思ってぇ……やっと知事になったんです!……ぐすっ…うぅ……」

誰も言葉を返す事ができず、場は静まっている。「知事になったと思ったらぁ…う、戦争とか……。関東・甲信越?同盟?とかいう連中がぁ!」


どうやら荒木は尋常ではない冷静からの逸脱をしている様である。


俺は冷静に話をしようと努めた。

関東・甲信越同盟などが結ばれていたら、それこそ近畿三国同盟の目標である本州統一の達成が可なり難しくなってしまう。


「どういう事だ!そんな同盟が結ばれているのか!」我慢がならなかったのだろう、俺が冷静を促そうとした直前に、例の如く綺麗なオールバックに黒いスーツの杉井が大声で話す。


最初の利発という印象からはかけ離れた様子で泣き続ける荒木は口が聞けなかった。


俺は改めて鎮めようと努めた。

「そんな泣かなくてもいいから。それで、関東・甲信越同盟とかいう連中が、どうしたのか教えてくれ。それを話しに来たんだろ?」


できる限り優しい口調に喋り掛ける。


一瞬の間があった。


荒木は始めより落ち着いた感じで話し始めた。「実は、先の戦争が始まるに先立ち、滋賀国様と大阪国様の協力で京都を攻めるという話が関東まで届いていたようで。やつらは近畿をどこかが統一するのを恐れていたため、近畿でこの戦いに関与していなかった我々奈良に味方をしろと言って来たのです。直接戦わずともよいから、味方する意思を示せと言われ、我々はあの様な行動を取ってしまいました。京都には一切の思入れもありません。脅されました。」



兵庫国大将の火戸は滋賀と大阪による京都への攻撃時に起きた奈良の介入を知らないため、事前に三国同盟の会談時に説明しておいた。


火戸は第三者的視点から客観的意見を述べた。「それで、その関東・甲信越同盟とかいう奴らは具体的にはどこの国が加盟している?私は先の戦争に関わっていないため、奈良の言う味方する意思を示したというものがどの程度であったか見てはいないが、お前はどうして自供してきた?」


「いや、実は私もわからないのです。しかし話が来たのは東京からです。あの冷酷残忍な舛削です。」



かつての日本国における関東という表現は茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の1都6県を指し(埼玉は東京に奇襲され東京国の領土となった。)、甲信越は山梨県、長野県、新潟県の3県の総称である。もしこれらすべての国々が盟を結んでいれば近畿三国同盟では到底かなわない。



果たして関東・甲信越同盟の正体は何なのであろうか。

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