三
「こんなところでいいか」
水上は話し終えて一息つき、水滴のついたジョッキに入っているビールを飲み干した。
冬休みの初日、隣の市まで写真部の五人で出かけた。その帰りに、唯一の未成年が先に別れたのと、翌日水上と夏川が実家に帰るので、忘年会みたいなことをすることになった。
いつも四人が使う駅のすぐ近くにあるチェーン店の居酒屋に入った。四人とも、入るのは初めてだった。
注文をして、年末年始のバイトはどうするのか、という話になった。その後、夏川が水上のバイトの話を聞きたがり、水上が古本屋でのバイトを始めたときの話をした。
「そういえば、このメンバーでこういう店に来るのって初めてですよね」
水上がビールを飲み干すのを見て夏川が言った。水上が「とりあえず、『とりあえずビール』で」と言って注文した中ジョッキだった。夏川の前には強そうな名前のカクテルがある。
「そだね。古泉とはともかく、水上君ともなかったね」
そう言った天水は、かっこいい名前のカクテルを注文した。彼女は酒が苦手なはずだが、まだあまり飲んでいないので平静を保っているようだ。
「家で飲む方が安上がりだからな。そもそもあまり飲まないと思うし」
「思う?」
「比べる相手がいない」
「なるほど。それに夏川君は先月二十歳になったばかりだし」
「そのときはだいぶ飲まされた気がします。覚えてませんが」
「無理してまで飲むものでもないだろ」
「ですね」
アルコールのせいかはわからないが、水上はいつもよりよくしゃべる。というより、機嫌がいいようだ。
「大学のサークルというと、たくさん飲まされるイメージがあったんですが、そういうのもないですよね」
「新入生の歓迎会とかもしないよな、そういえば」
夏川と水上が続けざまに言った。天水は手に持ったグラスを置いた。
「ウチの歓迎会はハイキングだからね。言ってなかったっけ」
「こないだ行ったやつですね」
「そう、それ」
一ヶ月ほど前に、写真部の五人で市内の山へ行った。水上が入部する前にも登った山だった。
水上は先ほどから古泉が話していないことに気付いて、正面に座っている彼女に目を向けた。古泉は、半分ほどになった梅酒を注視していて、微動だにしない。
「おーい」
水上が古泉の目の前で手を振ると、はっとして顔をあげた。
「どうしたんだ、しばらくまばたきしてなかったぞ」
指摘されて、古泉は何度かまばたきをした。
「水上の話を聞いて、バイトを始めたときのことを思い出してた」
「それじゃあ次は古泉の番だね」
少し顔が赤くなっている天水が言った。
「何が?」
「バイトの話」
「よかろう」
「即決だな」
アルコールが入っていなくても、古泉の受け答えはこんな感じだ。
料理が運ばれてきて、古泉はすぐにからあげに手を出した。天水が促すと、古泉は少しずつ話しだした。