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子パンダの恋、喪失。

 私の幼馴染みは、大層モテる。


 引き締まった長身。優しげなアーモンド型の目に、薄い唇の口角はいつもきゅっと上向き。

 アイドルやモデルというよりは、一昔前の男前な俳優さんのような雰囲気を纏っている。

 性格も温厚で気配り上手。男女ともに人気があるのにちっとも鼻にかけない。

 勉強も運動もそつなくこなす。



 …らしい。



「藤原くーん! 今日調理実習でクッキー焼いたんだけど。食べてー」

「あっ、ずるい! 私もあげるよ!」


 そのモテ歴史は小学校の時にはすでに始まり、高校生となった今も留まることを知らず、とうとうファンクラブもどきもできるほどだ。

 本人は認めていないので、あくまでももどきらしいけど。



 …まさに、パンダ。



「ちょっと、咲良(さくら)。いいの?」


 混ぜすぎて焼きすぎたために瓦煎餅になったクッキーをガリガリやっていたら、知佳(ちか)につつかれた。


「いいって、何が」


 バリバリ。茶葉を細かくして入れたのは良かったんだけどな。紅茶の風味もするのに、なんでこんな瓦煎餅なんだろ。


「藤原くんにあげなくていいの? ちょうだいって言われてたじゃん」

「あげるわけないでしょ。あいつの家事レベルの高さを知ってて、そんな厚顔無恥なマネができますか」


 ふん、と鼻息を吐き出す。

 いくら私でも、女のプライドみたいなものはあるのだ。

 優吾(ゆうご)の作る弁当やおやつで散々餌付けされた私の舌は肥えている。自分の作るものが決してそのレベルには到達していないことは、誰に言われなくてもよくわかっている。


「えー? 咲良のクッキーなら炭になってようが泣いて喜ぶと思うけど」

「まあね。あいつドMだもんね」


 そういうことじゃなくてさ、と知佳は肩をすくめた。

 炭クッキーで喜ぶのはドMと究極のデトックスマニアだけだと思うのだけど。


 ガリガリと咀嚼しながらプチハーレムを再び見れば、優吾がこちらへ歩いてくるところだった。

 両手にはカラフルなリボンが巻かれたクッキーが山盛り。

 暢気なツラを下げて、へらへらのこのこ歩いてくる姿に妙にいらいらが募る。


「さぁちゃん、調理実習のクッキーちょうだい」

「ない。もう食べた」


 カスしか残っていないクッキングシートを指させば、情けないほど優吾の眉が下がった。


「ええー?! 僕予約したのに!」


 うるさい。

 そんなにたくさん美味しそうなクッキー抱えておいて。

 さらに言えば、お前はもっと美味しいやつ作れるくせに。


「ねえ、また作ってよ」

「やだ。なんで私が」


 パックの紅茶をすすりながら袈裟がけにいったのに、優吾は珍しく食い下がった。


「あ、じゃあ来週の僕の誕生日プレゼントで…」

「黙れパンダのくせに! 笹でも食ってろ!!」


 咄嗟に私が罵れば、優吾はしょんぼりしてからそっとはにかむ。


 でかい図体してはにかむとか、なにそれキモい。

 こんな仕草にもいちいち頬を染められるファンクラブ(非公認)の人たちの気持ちが、ちっともわからない。


「いつもなんだけど、あんたたちのそのパンダネタ、なんなのよ?」


 知佳が不思議そうに言うが、説明しようと思うと一昼夜では済まないほどの事情があるため、適当にごまかした。


 だって、言ってもわかってもらえないだろう。

 この目の前の男が、私にはジャイアントパンダに見えるなんて。





 私には、藤原優吾がパンダに見える。

 正確には、四歳のある日を境にパンダに見えるようになった。

 それまで優吾は色白のかわいいお人形のようだったのに、ある日突然白と黒の毛むくじゃらになったのだ。


 短い手足をもちゃもちゃと動かして歩く、走る。鉄棒もするし、竹馬も乗る。首をかしげ、割と大きな口をくわっと開け、優吾の声でしゃべる。


 最初は優吾のいたずらだと思った。

 上と下がつながった、ついでに頭までついた着ぐるみを着ているのだろうと。


 だが、違った。

 それは間違いなく、パンダ。

 頭をひっぱっても、毛をかきわけても、優吾は出てこなかった。


 しかも、パンダの姿は私のほかには誰にも見ることができず、当時はとても困惑したものだ。


『いつか、優吾はパンダじゃなくなる日がくるから、それまで待ってくれる?』


 優吾がパンダになってしまってから、頭をとろうとしたり背中のチャックを下ろそうと頑張っていた私に、優吾のお母さんが言ったことばだ。


『いつかって、いつ? 明日?』


 寝る前のことが昨日、もう一つ寝たら明日、がようやくわかるようになった私には、いつかというのがとんでもないものに思えた。何度寝たらいつかはやってくるのか。


 気づけばほろほろと涙がこぼれていた。


『……もう、優吾と遊べないの?』

『ううん。パンダの優吾も優吾なんだ。咲良ちゃんのことが大好きな、優吾なんだよ』


 優吾のお母さんがそっと抱きしめてくれる。

 優吾のおうちの匂いと、優吾と同じシャンプーの匂いが私を包む。

 それを吸いこんだら、胸がぎゅうっとなって、ますます泣けてきた。


 わけもわからないまま優吾のお母さんに抱きついて、わあわあ泣いた。



 今なら、わかる。

 私は寂しかったのだ。


 おむつを履いているころからずっと一緒にいた幼馴染が、急に消えてしまったことが。


 同じだと言われても、急に得体のしれないものに変わってしまったことが。


 そしてその世界を、誰とも共有できないことが。





「なんだかんだ言って、準備してるんじゃん」

 おはようのあいさつもそこそこに、知佳がニヤニヤと私の左手の紙袋を指さした。

 優吾がよく服を買う店のもので、昨日散々悩んで買ったマフラーが入っている。


「……私のときもらったから、一応だし」

「そうだね、礼儀だよね」

 言いながら知佳はニヤニヤ笑いをひっこめない。

 これ以上近くにいたらさらにからかわれそうだったので、そそくさと自分の席に座りにいった。



 優吾は喜ぶだろうか。

 服を着ていてもなぜか私には見えないから、マフラーをつけてくれたとしても、わからないのだけど。

 パンダがマフラーだけ身につけているのが見えても、それはそれでシュールな気もするし。



 ふと、窓の外を見下ろすと、そこには優吾と一人の女の子がいた。

 確か、優吾と同じクラスの三保(みほ)美月(みつき)さんだ。

 笑った顔が癒し系、とか、地上に舞い降りたなんちゃら、とか言われている子だったと思う。

 実際これだけ離れていても容姿は抜群に整っていることがわかるし、つやつやの髪や仕草にしっかり時間をかけているということもわかる。

 家に帰ったらご飯を食べてテレビを見てごろごろしている私には、例え手入れの方法を教えてもらったって真似できないだろう。


 優吾はこちらに背を向けているので、三保さんに向ける表情は見えなかった。

 大きな背中を少し丸めて、三保さんの声に聞き入っているようだ。


 何を話しているのだろう。


 三保さんも優吾が好きなのだろうか。

 誕生日にわざわざ呼び出すくらいだもんな。

 今までたくさんの子の交際申し込みを断ってきた優吾だが、三保さんほどの子なら受けるのかもしれない。


 そうしたら、お弁当を作ってもらったり、一緒に帰ったりするのはまずいよね。

 週に何回かはお互いの家でご飯を食べることもあったけど、それもやめた方がいいかな。

 お互いの両親がその場にいればありなのだろうか。いや、でも私だったら彼氏の家に異性の幼馴染が出入りするのは嫌かもしれない。



 あっという間に脳内でできあがった優吾と三保さんの並ぶ姿に、何とも言えない気分になる。

 私から見たらまさに美女と野獣だが、他の人から見たらお似合いのカップルなのだろう。


 もやもやする気分を抑えて、じっと三保さんを見る。

 読唇術なんてものはないし、窓は閉まっているし、話の内容は全く分からない。


 どこか恥ずかしげに、真剣に何かを優吾に話していた三保さんは、ふと視線を落とし、ふわっと何かを広げた。


「…あっ」


 思わず漏らした声を拾った隣の席の男の子が、どうしたと視線を向けてくる。

 何でもない、と手を振りながらも、私の目線は二人からはがせない。


 三保さんの手で広げられた鮮やかな緑色のマフラーが、ジャイアントパンダの肩にそっとかかった。


 もろかぶりかよ、と苦々しく思った、


 その瞬間。



「……な、にあれ」



 瞬き一つでジャイアントパンダが消え、三保さんの前には一人の男子生徒が立っていたのだ。

 すらりと伸びた背は、後ろ向きでもしっかりと筋肉がついているのがわかる。

 柔らかそうな猫っ毛。寒いと真っ赤になる耳。



 ―――それは、童話やなんかによくある、王子の呪いを姫が解く瞬間。



「ああ、三保さんと優吾じゃん。とうとう告られたのかな?」

「………」


 私の様子に気づいた隣の席の男子が身を乗り出してきた。

 何を話しているのか、耳にはちっとも入ってこない。


 優吾。


 どうして。


 “優吾”はどこにいったの?


 どうして。



 こみ上げる感情の渦に、それ以上座っていることはできなかった。

 なけなしのプライドを握りしめて、カバンを引っ掴む。


 ―――そこからどうやって家に帰りついたかは、後からいくら考えても思い出せない。





 優吾がパンダに見えなくなってから、三日が過ぎた。

 金曜は一つも授業を受けずに帰ったし、土日は居留守を使って徹底的に優吾を避けた。

 まだ一度もまともに顔を見ていない。


 週明けのクラスは、三保さんと優吾が付き合いだした話題で持ちきりだった。


「やっぱり藤原もメンクイだっただけかよー」

「美月ちゃんマジかわいいもんなぁ。くそっ」


 男子の多くはアイドルをとられた悔しさ、女子の多くは“三保さんなら仕方がない”という諦めがあるようだ。


「……咲良、大丈夫?」

「なにが」


 ぼんやりと次の授業の予習をしていたら、知佳に声をかけられた。


「…藤原くんと、話したの?」

「彼女できたばっかなのに、異性の幼馴染と話なんてしないでしょ」


 ピンクの蛍光ペンで、偉人の名前にマークする。

 小学校のときは、優吾の教科書の偉人に髭を書いてやったっけ。


「そんな風に区別する藤原くんじゃないと思うけど」


 知佳は納得できない、と首を振る。

 ところがどっこい、あいつはそんな風に区別をしたのだ。




 優吾がパンダに見えなくなったあの日、私はまっすぐ藤原家へ向かった。

 そして、驚きながらも迎えてくれた優吾の母に聞いたのだ。


『優吾がパンダに見えなくなるときは、一体いつなのか』と。


 わけを聞かせてほしいと言う優吾の母に、私は包み隠さず話した。

 三保さんという女の子に優吾が告白されたようだということ。

 彼女が優吾にマフラーをかけた瞬間、私の目の前からパンダが消え失せ、人間の男の子がいたこと。


『それを見て、咲良ちゃんはどう思ったの?』

『……パンダが消えて、ショックだった。十二年以上一緒だったから』


 優吾の母は口元に指をあて、ことばを選びあぐねているようだった。


『消える前と、消えた後と、咲良ちゃんの優吾に対する気持ちは変わらない?』


 どういうことだろう。

 幼いころのあのショックのときに、パンダの姿も優吾、人間の姿も優吾、と受け入れたつもりだった。

 慣れ親しんできたパンダが消えたことには少なからずショックは受けたが、それによって優吾に対する感情が変わるわけではない。


 優吾は優吾。

 少し情けなくて、家事レベルが高くて、面倒見の良い私の幼馴染。


『変わらないよ』


 答えた私に、優吾の母は眉を下げた。

 一つ、深いため息をついてから軽く唇をかむ。


『本当はね、言うべきことじゃないんだろうけど』

 咲良ちゃんには知る権利があるから、と前置きしてから教えてくれた。



 藤原家の呪いについて。




 優吾の母の話によれば、藤原家のパンダの呪いは藤原家のすべての男子にふりかかる。

 いわく、『惚れた相手には、パンダに見られてしまう』呪いだ。


 そんな馬鹿なと思う人が世の中の大多数だろう。

 だが、私は十二年も私にしか見えないパンダと過ごしてきた。ああ、そういうことだったのか、と優吾の想いに気づかされただけだった。


 呪いが解けるのは恋が成就したとき。


 そしてもう一つパンダに見えなくなることがある。

 藤原家の男子が恋をあきらめたときだ。



 優吾の恋は、成就なんてしていない。

 だって私は優吾を幼馴染としか思っていない。『さぁちゃん大好き』なんてことばはあいさつのように言われていたが、ちゃんとした告白はされていない。


 だから、今回優吾の呪いが解けたのは、優吾が私のことを好きじゃなくなったということだ。


 好きにもたくさん種類があるから、嫌いになってはいないのかもしれない。

 だが、三保さんの存在もあって、その感情は恋ではなくなったのだろう。



 それが、あの瞬間。


 図らずも私は優吾が心を変える瞬間を見てしまったのだ。





 四歳のあのとき、私は困惑したし、寂しくもあった。

 今回もそんな気持ちだろうと高をくくっていたのが間違いだった。


 授業中も、休み時間も、私は言い知れぬ何かと戦わなければならなかった。


 優吾と三保さんの話を聞けば、叫びたいような怒りがこみ上げる。

 見慣れない長身の後姿を見れば、ぎゅうぎゅうと胸が痛くなる。

 声なんて聞いてしまったら、耳をふさいで走って逃げたくなるほどに。


 ―――こんなの、お気に入りのおもちゃをとられて、ダダをこねる子どもじゃないか。


 バカみたい、と思いながらも、思考は空回りを続ける。


 パンダを返して。

 私の幼馴染を、返して。


 そんな気もないのに、きついことばで罵ってしまう私を、いつも窘めてくれた優吾。

 いたずらをして叱られるときは、庇ってくれた。

 怪我をしたら一緒に痛がってくれた。


 白と黒の毛むくじゃらの、喜怒哀楽があんなに読めるのは私だけだったと思う。


 ずっと、ずっと一緒にいたから。



「さぁちゃん」


 ハッと顔を上げれば、長身の男の子が立っていた。


 柔らかそうな髪に、一重の大きな目。

 優しそうな甘さはあるのに、涼しげな雰囲気がある、どこからどう見てもイケメン。



 十二年前の面影はほとんど残されていないのに、それが優吾だということは嫌というほどわかる。


 手に持った靴を足元へ置き、なるべく平坦な声を出す。


「なに」

「一緒に帰ろう」


 咄嗟に、馬鹿じゃないのと叫びそうになって慌ててまわりを見る。

 下校時を随分過ぎた昇降口には人影は少なく、私たちの会話が聞こえるような距離には誰もいない。


「彼女と、帰れば」

「え? 彼女って?」


 きょとんと優吾が首を傾げる。

 ああ、ほらそんな仕草もパンダの時と一緒だ。


「三保さんと付き合い始めたんでしょ。みんな噂してる」

「えぇ?! そんな話聞いてないよ! 付き合ってないし!」


 そこで優吾はなぜかうつむき、もじもじとする。


「僕が好きなのは、さぁちゃんだけだよ」


 いつもと変わらず繰り出されたそのことばを聞いて、カッと頭に血が上った。

 右手に持ったカバンを迷わず振り上げ、思い切り奴の腰あたりにぶつける。


「いったぁ!」

「うそつき!! 知ってるんだから! 私にはもうあんたはパンダに見えないんだからね!」


 一発では気が済まず、左足を後ろに振り上げてから、優吾の脛を蹴飛ばす。

 つま先がびりりとしびれるが、構うものか。お父さんの安全靴を履いてくれば良かった。


「…っ!!!」

「あんたが口先でいくらうそ言ったって、わかってるんだから! 悔しかったらパンダに戻ってみせなさいよ!」


 言いながら、ぼろぼろと涙がこぼれてくる。


 優吾の想いには、薄々気づいていた。

 なのに、いっぱい注いでくれる愛情にいつしか慣れてしまって、自分の気持ちになんて気づくことはなかった。


 なくしてから、気づくなんて。

 パンダのときしか、そばにいられなかったなんて。


「ちょ、ちょっと待ってよ」

「うるさい!!」


 もう一発、と振り上げたカバンは、優吾に難なく受け止められてしまう。

 思い切り引っ張ってもびくともしない。


「さぁちゃん、僕がパンダに見えないの?」

「だから! そう言ってるでしょ! あんたが私を好きだなんて、嘘だって!」


 大きな目をさらに大きく見開いた優吾は、いきなり私の脇腹に手を差し込み、持ち上げた。

 ぼとん、とカバンが落下する。


「っ! なにすんの!!」

「さぁちゃん、僕すっごく嬉しいよ」


 約二メートルの高さから見下ろす優吾の目には、うっすら水の膜がはっていた。

 なんで、と思う間もなく、そのまま抱きしめられる。

 いわゆる、小さい子が抱っこされる体勢だ。


「やめ――!」

「さぁちゃん、藤原家の呪いが解ける理由は二つしかないんだよ」


 私の首もとに顔をうずめた優吾が言う。

 息があたってくすぐったいのと、良いように持ち上げられたままなことに腹が立ち、叫び返す。


「知ってる!! 恋の成就と心変わりでしょ!」

「そう。僕は誓って心変わりなんてしてない。三保さんには誕生日のプレゼントをもらったけど、ちゃんと告白は断った。僕が好きなのはさぁちゃんだけだからって」


 そんな、まさか。 

 慌てて優吾の肩に手をつっぱり、顔をのぞけば満面の笑みを向けられる。先程見えた涙の膜はきれいになくなっていた。


「ねえ。一体いつから僕がパンダに見えなくなったの? さぁちゃんが僕のことを好きになる瞬間、見たかったな」

「…っ、な…っ、んて」


 みるみる朱がのぼり、うまくことばが出てこない。

 ん? と心底楽しそうに優吾が私の顔を覗き込んできた瞬間。


「絶対絶対認めなーーーーい!!!」


 ごつっ!!!!


 渾身の頭突きが優吾に炸裂した。






 さすがスポーツ万能な優吾は、予期せぬ頭突きをくらっても私を落とさなかった。


 そのそつのない行動が非常に腹立たしいことではあるが、優吾のお綺麗なおでこに巨大なたんこぶを残したことで、多少溜飲が下がったので良しとしよう。

 ちなみに私は石頭なので、無傷だ。


「ねえねえ、さぁちゃん。僕のこと好き?」

「あー残念。パンダの方が好き」


 そんな、と眉を下げる優吾の歩みはのろい。

 私がだらだら歩くのに、歩調を合わせているからだ。


「僕、もう二度とパンダになんてならないんだからね?!」

「あーはいはい。先のことなんてわかんないけどね」


 ぷいと背けた顔が赤いことは、絶対に見られてはならないと私は心に固く決める。


 今は、まだね。




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