夢の中 その1
くだらない内容ですが、妄想を膨らましてゆっくり見てください。
「お兄ちゃん……大好き」
奈香はリンゴのように火照った赤い顔でそういうと、俺に抱きついてきた。
「……え?」
俺、夢見幽太はいきなりの告白に驚きを隠せずにいた。
告白は今までの人生の中で一度もない。
女とは縁遠い学校生活、恋なんてこの人生では一度もないと思っていた。
それが――今、突然起こった。
しかも、その告白をしたのは俺と年が一つ下の妹である夢見奈香なのだ。
高校2年の俺と、高校1年の妹。
同じ学校だが、お互いあまり会うこともないので学校ではそれぞれの生活を普通に送っている。
仲がよいとはいえないが、そこまで冷め切った関係でもない。
というか俺自身は妹好きだから嫌いでは決してないのだ。
「奈香……? どうした急に……」
俺は内心喜びながらも、己の胸にぴっしりとくっ付いている奈香を少し無理やりに引き離した。
そのとき、俺は両方ともパジャマ姿なことに気づく。告白のときの格好とはどうも思えない。
――ここはどこだ?
俺は自分の周辺を見渡す。
周りの景色――と言ってもそこには全面が真っ白な空間が広がるだけ。
遠くまで目を細めてみるが、白と白とが垂直に交わる様にかすかに壁が見えるだけだ。
まるで、白い箱の中に俺たち二人が閉じ込められた様に思えた。
奈香は、そんな事に気にしていないのか、はたまた気づいていないだけなのか、俺から離されても、その赤い顔を解こうとはせず、ただ俺に一言つぶやいただけであった。
「お兄ちゃん……」
奈香はヒョコヒョコと足を引きずりながら俺に近づく。
引きずっているほうの右足には付け根部分に白く、だが少し薄汚れている包帯がグルグルと怪我を隠すために巻かれているのが見えた。
「奈香っ! 歩くな!」
俺はすぐに奈香の近くにより抱きかかえる。
奈香は今、足を痛めているのだ。
部活でテニスを親しんでいる奈香は3日前、練習を張り切りすぎてしまったそうで、ショットを打つときにその練習によってフラフラになっていた足がもつれ、豪快に転んでしまった。
骨折は避けたのだが右足の皮膚が大きく擦り剥けてしまい、全治3週間になった。
それを学校で聞いたときは一瞬息が止まりかけたが、酷い状態にならなかったのが幸いだった。
しかし今、奈香を歩かせれば傷が開いてしまうかもしれない。
俺の体は考えるより早く、妹を支えていた。
綿製のお人形を思わせる柔らかい妹の体はいつもより軽く、弱弱しく感じた。
「お兄ちゃん……大丈夫だよ」
ふらつくことなく、そして俺を嫌がることもなく奈香は立ち上がる。
いつもなら右足を地面につけただけでもギャーギャーと泣き喚くのに、今はまるで怪我の痛みを感じていないようだった。
「怪我……治ったのか?」
俺が聞くと、奈香は静かにうなづいた。
全治3週間の怪我がたった3日で……。
ナメック星人の血でも引いているのか?
不思議に思ったが、無事が確認できたならどうでもいいことだ。
「よかった……怪我治ったのか。というか……ここどこだ?」
一息つき、周辺を再び観察した。
真っ白だ。
何もない。何の汚れのないタオルのよう、何もかかれていない紙のよう、何も拭いていないトイレットペッパーのよう、奈香のパンt……おほん! この先はNGで。
じっと見つめていると、この白い世界が俺と奈香を包むように、少しずつ小さくなっていくようにも見えてしまい目が眩んだ。
「どうしたの?」
奈香は俺の手を握る。
ふんわりと揺らいだ髪からはシャンプーのいい匂いが漂ってきた。
そのときハッとした。
今、俺は奈香の告白を受けているのだ。こんな世界の不思議より、今は告白のほうが大事だ。
「奈香……さっきお前が言っていた大好きってどういう意味だ? 人としてという意味でか?」
一応聞いておく。
奈香は俺にこんなことを言う性格ではないので、そういう意味だったらまだ理解できるだろう。
奈香はその言葉を聞くと、一瞬寂しそうに顔を曇らせたが首を何度か振ると答えた。
「ううん、お兄ちゃんのこと……男として好きなの……」
「!」
その言葉に俺は興奮で鼻から血が出そうになったが、なんとかそれをこらえる。
「大好きだよ……」
奈香は手を取ったまま、ただでさえ低い背で俺の首筋まで背伸びをする。
パジャマ越しの体の密着は俺の中のシスコン魂が狂うように暴れているのを明確にしてくれた。
このままでは妹に襲い掛かってしまうかもしれない、そんな俺の性欲をなんとか理性が押さえつけているが、どうにも俺の微かな理性と正気はもちそうにないようだ。
「奈香……」
俺は、たまらず奈香の腰に手を回す。
少し奈香はその行為にビクッと腰を震わせたが、すぐに顔を緩めた。
ほのかに香りの漂う短髪の黒髪を指で絡めとり、しばらく遊んだ後はらりとその髪を落とす。
すると奈香は恥ずかしそうながら俺の目をじっとみつめ、優しそうな顔を向ける。
学校でもかなりの美人度を誇る奈香には、その美貌に見合うほどの男と結婚して欲しかったが、この展開は読めなかった。まさか、兄である俺を選ぶとは……。
しかも、普通の男だったら一発で落ちてしまうような位の告白だったから心の高鳴りは最高潮を迎えていた。
ねっとりしているようで、はっきりとしている、あまりにも直線的であっさりとした、でも内容は深いコクのある告白だ。
いちいち言葉を並べられたものよりも奈香のようなさっぱりとした告白が一番威力が高い事はどこかの本で読んだ気がする。
兄だからと言っても、シスコンである俺には普通の男よりも、はるかに効果抜群な妹の好き好き攻撃だ。耐えられないのは理解して欲しい。
しかし、さすがに妹に欲情するほどの変態では無い事も知ってくれ。
「奈香……でもいいのか、俺でも……」
俺が遠慮がちに聞くと、奈香は笑顔でうなづく。
「いいよ……私は……お兄ちゃんじゃないと嫌なの」
「ぐふっ……」
俺は静かにうなる。
前言撤回、妹に欲情しちゃってもいいじゃない! 女に恋をするのは男の定めだ!
法律? 関係あるか! シスコンの辞典に兄妹の壁と言う文字はない!
「奈香ぁぁぁーー! 俺も大好きだぁぁぁ!」
強く抱きしめた。奈香にしては少しきついだろうが、その方が嬉しそうな気がする。
奈香も俺の胸の中で、しばらく息苦しそうにしていたが、顔をなんとか俺の胸から脱出させる。
しばらく見つめあう俺と妹。
こんなに奈香との距離をつめたのは小さいころ以来だろうな。
奈香が保育園、俺が幼稚園のときはよく奈香を膝に乗せて座り、「桃太郎」や「日本武将の歴史」、終いには「歴史人物の伝記」とかを読んであげたものだ。
後半の本は当時保育園児の妹には難しかっただろうが、桃太郎は簡単で物語の内容もわかるらしく喜んでくれた。
鬼の台詞を読んだときに鬼のまねをしたら、しばらくの間泣かれてしまい、嫌われたのを覚えている。
――なつかしいなぁー。ていうか、そのときもめちゃくちゃかわいかったなぁー。
俺は呑気に思い出に浸っていたが、奈香はそんな事知る由もないようにすぐに第2の作戦に出る。
うれしさのあまり宙を見ている俺の顔をつつき、自身の唇を近づけてきた。
「……奈香?」
「うーーん」
奈香はさらに唇を近づけてきた。しかも、俺の唇に。頬ではない、唇にだ。
俺は0、2秒でそれを理解。
そのとき、俺の心の何かが破裂するような音がした。
「お兄ちゃん、キスして」
とどめの一撃。
「――――」
俺はそのとき気づいた。
おそらく破裂したのは理性だったのだと。
もう――無理。
俺の唇はその言葉に釣られる様に奈香の方へと近づく。
奈香と付き合う……悪いことじゃあないかも……。
俺は顔のにやけを全力で阻止し、冷静を寄り添いながらさらに唇を近づける。
時が、すべてが止まったように思えた。
俺と妹以外のすべてが息をしていないように思えた。
俺と、妹だけの瞬間。
そして、すべてが最高のシチュエーションを用意しているこの時、俺の唇と奈香の唇が重なろうとした。
――が、その時何者かの拳が俺の後ろから振り下ろされた。
ゴッ! という鈍い音が脳内に響く。
「わっ!」
俺は突然の攻撃に腰を落とした。
一時、何事かと思ったが途端にその拳骨をしてきた奴を推理する。
この強い拳骨、俺に向かってするやつはまずいない。
だが、「アイツ」なら構わずやってくるだろう。
俺が顔をこわばらせながら、後方にいる奈香とのラブシーンを邪魔した者をにらむ。
後ろに目線を向けたそこには――やはりアイツがいた。
「何やってんのよ、二人とも」
茶色の長髪を腰までたらし、ピンクのパジャマを身に付け、頭に幾つも付けられているピン止めを触りながら女は言う。
「何だ、井上かよ」
俺は呆れ顔でそう呟く。
井上亜里沙、俺のクラスメイトで昔からの幼なじみだ。
俺は続けた。
「おまえなぁ。人のラブシーンを邪魔するなんて酷くないか?」
ふんっ、と亜里沙は鼻で笑うと素足で低い姿勢をしている俺の頭をけった。
「妹といちゃつく兄の姿なんて見て、じっとしていられるわけないでしょう?」
「ははぁーん、焼きもちでも焼いてるのか?」
俺は奈香の肩を抱き、そばに寄せた。
亜里沙は顔を崩し、不満そうな顔つきでさきほどより強い蹴りを入れる。
俺は勢いのついた容赦ない蹴りを直で食らう。
「ギャバフ!?」
叫びながら、後ろに吹きとんだ。
「お兄ちゃん!」
奈香は俺の近くに駆け寄り介護を始める。
なんて優しい子なんだろう。うちの妹は。痛みも先ほどから感じないのも、嬉しさが勝っているからだろうか。
少し目から水が染み出てくるのがわかった。痛みの涙とうれしさの涙の両方だ。
「アンタに焼きもち焼くぐらいなら本当に焼き殺したほうが清々するわ、妹とのドロドロした告白シーン見させれらて、耐えることの出来る人なんて早々いないわ」
亜里沙は俺と奈香の前に堂々と立ちながら、愚痴をこぼす。
「えっ? お前ずっと俺と奈香の様子見てたの?」
俺が慌てて聞くと、
「当然じゃない。くだらない茶番見せられて吐き気がするくらいよ。見たくなくてもこの空間は何もないから目の行き場所が自然とそっちに向いちゃうの」
と、亜里沙はため息をつきながら近づいてくる。
俺の顔の目の前まで来ると、急にその手で俺の頬をつねる。
「いたた、あれ? 痛くない?」
くるはずの痛みが全く来ないことに俺は驚いた。
妹も面白そうにつねってきたが、つねられた感覚があるだけで肝心の痛みは皆無だ。
亜里沙は続けて頭にまで拳を入れる。だが、当然俺はノーリアクションだ。
「やっぱりね……さっきからここはどこか不思議に思ってたけど、痛みがないなんて普通ありえないわ」
そう言い、亜里沙は奈香を見つめる。
「じゃあ、ここはどこだって言うんだよ? 普通の世界でないとしたら――」
「夢の世界」
俺の問いに即座に答える奈香。
なぜ奈香がその答えを即座に出したかを聞きたかったが、それよりも早く別の言葉が出る。
「夢の世界……つまり、俺たちは今、夢の中にいるのか? 3人一緒で?」
俺は床を触ってみたりするが、なるほど。たしかに床に触っている感触すらない。
亜里沙の言うとおり、この白い空間が夢の世界だとしたらパジャマ姿なのも納得がいく。
眠っている状態でこの夢の空間に来たのだ、服がパジャマであるのは当然のことだろう。
いつもは夢の中では「これは夢だ!」と思うことはなかったが、こういう感じなのか……と俺は不思議な感覚に捕らわれていた。
「私たち3人は現在ベッドの中でおねむのはずよ。その私たちがなぜこの夢の世界に3人揃っているかは少し考えればわかるでしょ?」
亜里沙は少し間を置くが、勘の優れていない俺から何の答えも返ってこないとわかると、しかたがなさそうに続ける。
「わかりやすく言うと、私たち3人が『同じ夢を見ている』って事よ。普通じゃ一つの夢を何人もの人間が同時に見るなんてありえないはずなんだけど……」
「同じ夢を……俺たちが一緒に見ているか……」
俺と奈香は交互に互いの顔を見る。
「何が原因かは知らないけど……たしか夢って言うのは人の脳みその一部にある、記憶を溜める「なんとか」っていう部位が寝ている間に記憶を再生させて、それが人の見る夢になる……とは聞いたことあるけどね」
亜里沙は自信なさげに説明をする。
「だとすると、俺たちがこの夢の世界に3人でいるのはおかしいんじゃないか? 脳の働きによって夢が出来るのなら、違う脳みそを持つ俺たちが夢の世界で一緒になるのは、ほぼ――というか絶対にありえないはずだぜ」
「へぇ、少しはマシな返答するじゃない」
と、亜里沙は感心したように手をたたく。
「当然だろ、俺自身、頭は悪くなんだからな」
腕を組むが、奈香は
「へ? そうなの?」
というような顔をしている。
――本当に成績はまぁまぁいいんだからな! 体育はいつも5だぞ! こんちくしょう!
俺は顔でそう語るが、亜里沙は目も向けずに考察を続ける。
「まぁ、そんな事正直どうでもいい事なんだけどね。でも、何で奈香ちゃんアンタにそんなデレデレなのよ?」
亜里沙が奈香を指差すと、肝心の本人も首をかしげる。
「さぁな、いつもは俺に冷たい態度とるのに今は完璧なるラブな妹に変貌したんだ。喜ばしいことだよ。きっと夢の世界で俺の願いが叶えられたんだよ」
俺は奈香の頭をポンポンとたたき、抱き寄せる。
「ふにゅー」
奈香は聞いたこともないかわいい声を出しながら、俺に抱き返す。
「ったく……奈香ちゃんが急にでれているのもアンタの言うとおり夢の世界のせいなのかしら? ま、いいか。もうすぐ私たちも目が覚めるころでしょうし、起きたら奈香ちゃんも元に戻るでしょう」
亜里沙が腕に巻いてある時計を見る。
俺が覗くと、時計は6時半を指していた。俺が朝に起きる時刻だ。
「さてと、ずっとここにいてもしょうがないわ、一旦起きましょう。何で私たち3人がおなじ夢を見ているかは登校のとき時にまた話し合いましょう」
「へ? マジで? 起きちゃうの? ずっとこっちにいようよ。そうすれば奈香もずっとラブラブな状態でいてくれるし、俺もうちょっとこの夢の世界にいたい」
俺は頬を膨らまし、奈香も俺から離れたくないようで、ぴったりとくっつく。
「バカ、それじゃあ学校に遅刻するわよ。さっさと起きなさい!」
亜里沙がそう叫び、俺の頭にさきほどのより倍近くの威力を持つ蹴りを振りかざした。
「えぇ!? お前冗談だろ! たしかお前空手有段者って……」
ヒョン! という音がしたかと思うと、俺が身構える前にその攻撃はクリティカルヒットしていた。
骨が折れるような音の後、俺の目の前に広がる白い世界、そして奈香と亜里沙の姿は少しずつ暗くなっていった……。
主人公かなりのシスコンです。
妹萌えってなんだかんだでいいですよね……と思う変態学生な俺です。