砂・風船・穏やかなヒロイン (王道ファンタジー)
一応最初なので説明を。
サブタイトルがお題、そのあとの()内がジャンルです。
「風船がね、飛んで行ってしまうの」
少女はそう言って僕を見上げた。
僕は答える。
「...飛ばない風船もあるよ」
だが少女は口を尖らせた。
「それではつまらないわ」
僕はため息。
「...君の言ってることは矛盾してる」
それに少女は穏やかな笑顔を浮かべた。
「人間なんて、矛盾で構成されているようなものでしょう?」
「じゃあ君は、僕に何を求めているの?」
すると少女は悲しげに目を伏せ、
「何も」
と小さく答えたあと、でも...と続けた。
「あるのなら、答えを」
そう言って僕を見る。
僕は必死に考える。
彼女が納得できるような、救われるような答えを。
「...紐でどこかに結びつけておけばいいんじゃないかな?」
「それは、なんだかかわいそうよ」
「...そうかな?」
「そうよ。飛び立ちたいと言っている風船を無理矢理地上にとどめているんだから」
「そうか」
そしてまた僕は考える。
彼女は僕を見つめている。
どれだけ時間が経っただろう。
やがて、僕は僕の思う答えをみつけた。
「それなら、風船に砂をいれればいいんだ」
「...砂?」
首を傾げる少女。
僕は頷く。
「いれても、風船が落ちないくらいに少量の砂を」
「それでは、やっぱり飛んで行ってしまうわ」
僕は首を降る。
「砂は、地上だ。その地上と触れている限り、風船は飛び立ったとは言わない。だからといって、地上にとどめているわけでもない。これで、矛盾は矛盾のままで、解決できる」
しばらく静寂だった。
足りなかっただろうか、何か間違えただろうか、不満だろうかと僕は不安になる。
長い思案の末、彼女はふっと笑った。
儚い、溶けて消えてしまいそうな笑顔だった。
「なるほど。それがあなたの見つけた答えなのね...。...ありがとう」
すると突然、彼女が透け始めた。
「え...?」
消え行く彼女は穏やかに笑う。
「ありがとう。その答えを持って、どうか私に、会いにきて」
「どういうこと...?」
「私をしっかり、救い出してね」
最後にまた笑って、そして少女は消えた。
「あ、れ...」
その途端、幼馴染のはずの、だが名前も知らない少女の姿が、だんだんと僕の記憶から薄れて行く。
僕はそれに抗う。必死に。
名前も知らない、記憶も存在も薄れゆく大切な少女の姿を心に刻んで、僕は旅に出た。
少女を救い出すために。
それが、物語の始まりだった。
僕と、あの穏やかな笑顔をうかべる少女の━━王子と姫の、永く切なく、儚い恋物語の━━始まり。
王道ファンタジーというのがどのようなものなのかわからなかったので自分的にそう思うものを書きました。