第七話
今日の陸上部の活動が終わったのは、午後六時半のことだった。
初夏である今の季節は日が長いので、比較的遅くまで活動をすることになっている。
「それじゃバイバイ!」
「じゃあねー」
顧問によって校庭の隅に収集されていた陸上部部員は、挨拶を交わして散り散りになる。
「――綾奈」
智也はすぐさま綾奈に声をかける。
「へ、何?」
さきと二人で談笑していた綾奈は、智也の姿に笑顔を浮かべたまま首を傾げる。
しかしその笑顔も、数秒後には徐々に消えていった。
思いつめたような真剣な表情の智也は、明らかに普段とは違う様子だった。
「話があるんだ」
きっぱりと言い放ち、智也は綾奈の細い手首をぐっと掴む。
そのまま早足で校庭を出ようとして――
「なになに、話って!? 愛の告白とかー?」
さきのやや高い声に憚られた。
「別に、そんなんじゃねえよ」
「えーっ、気になるなあ。あ、ってかあたしも二人についてく!」
「お前は来なくていいから」
智也は、笑顔で跳ねたさきをまっすぐに見つめる。
来なくていい、と――言葉上は柔らかい表現であるものの、険しい表情が「来るな」と語っている。
――有無を言わせない物言いだった。
「行こうぜ、綾奈」
呆然とするさきの返事を待たずして、智也は綾奈の手首を掴んだまま歩きだした。
「え、ちょ、ちょ、待ってよ智也!?」
強引に連れ去られるような形で、綾奈は智也の後を往く。
やがてふたつの影は、校門の向こうへと消えた。
「……」
校庭にひとり残されたさきは、黙したまま、己のぶら下がった拳をきつく握り締める。
その双眸は、智也と綾奈の背中を鋭く捉えていた。
「ちょっと、ちょっと! 智也ってば……っ、……智也!!!!」
校門を出て、すぐ目の前にある下り坂。
坂をすべて下り終わったところで、綾奈は力強い智也の手を思い切り振り切った。
「何、急に。ああもう、こんなに赤くなっちゃったよ」
ようやく力から解放された手首を、綾奈は残念そうに見つめる。
そこに残されたくっきりとした跡が、智也の手がいかに強かったかを物語っていた。
「ごめん。焦ってて、つい力が入りすぎたんだよ」
「焦ってたって……」
智也から珍しく素直に謝罪され、綾奈は言葉に詰まり俯いた。
驚いた。
こうして突然強引に連れられたことにもだが、それより――智也が素直に謝ってきたことに。
綾奈はどこか肩透かしをくらったような気分だった。
「それで、何。話って」
「……」
綾奈に煽られた智也は、少しの間を置いた後――ゆっくりと口を開いた。




