表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

第十一話

 ――綾奈ちゃん。


 小さく呟きながら、薫はゆらりと綾奈へと向かい歩き出す。

 その瞳はこれまで以上に暗く淀み、一切の光を受け入れない宝珠のようだ。

 華奢で細い身体の線と、透き通るような白い肌が、薫特有の不安定な儚さを象っている。


「……っ」

 綾奈は足をがたがたと震わせながらも、その場から動くことが出来なかった。

 逃げなくちゃ。

 逃げなくちゃ――

 必死にそう言い聞かせているのに。

 柵も壁もない癖に、辺りを囲われてしまったような。もう一生、逃れられないような――奇妙な錯覚に襲われしまう。


「綾奈ちゃん」

 薫がもう一度、綾奈の名を呼んだ。

 それは甘美なほどに優しく、そして――恐ろしい。

 綾奈は、薫がこちらへとゆっくりと近づいてくるのを、ただ見つめていることしかできず――


「綾奈!」

 そのとき。

 智也がただ突っ立っている綾奈の手を引いて、急いで駈け出した。

「あ……智也……」

「馬鹿、何やってんだよ! 今レジ行って全部金払ってきたから。さっさと逃げるぞ!」

「う、うん……」


 得も言われぬ恐怖に怯える綾奈は、ただ彼に任せて走ることで精一杯だった。



 +



「知らなかった。宮野くんが、あんな……。……あんな……」

「……」

 公園のベンチに肩を並べ、綾奈と智也は小さく会話を交わす。

 星もない夜空。頼りない外灯だけが灯されている、夜の公園。

 すこし奇妙な場所だが、先程よりはずっと良いところだと思えた。

 

「お前は、何も知らないままでいて欲しかったんだけど……まぁ、無理だよな。いつまでも何も知らないままでいるなんて」

「え? なにそれ、どういうこと?」

 綾奈は一呼吸置いてから、智也に問う。

「智也は――知ってたの? 宮野くんが、ああいうことをしてたって……。だから? だから、あたしと智也が付き合ってるだなんて嘘ついたの?」

「……ああ」

「……どうして! どうしてあたしに何も言ってくれなかったの? あたしの問題なのに、あたしには何も知らせないで、ひとりで解決しようとして――!」

「お前が!」


 智也は綾奈の言葉を大声で遮り、そのまま続けた。


「お前が傷つくと思ったから! だから、お前が宮野のしていることを知る前に……すべて解決すればいいって思った。俺が綾奈と付き合っているって言えば、宮野もあんなことはもうしないでくれると思ったんだよ。だけど――」

 はあ、と溜息を吐き、智也は額に手を当てる。


「甘かったんだな、俺。こんなんじゃお前のことを護れない」


続きは後ほど更新します^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ