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妖猫恋愛記  作者: 雨歌
猫と盲目の人間
6/6

水無月観察張 side:三毛 其の二



「はぁっ!? な、なんだ!?」


驚く不良。

それも当然。自分は一切傷を負ってないのに、握っていた棒だけ粉々になってたんだから。

私達の目の前には、杖代わりだと思っていたレイピアを抜刀している蓮さんが立っていた。

スラリとした銀の刀身、歪みのない真っ直ぐな刃。……まるで持ち主みたいで、凄く綺麗。

レイピアの切っ先を不良に向けながら、蓮さんは言う。


「私も、こんな往来で白昼堂々流血騒ぎを起こしたくないので単刀直入に言います。今日の所は引き上げて下さい」


顔は微笑んでいるけど、声は笑っていない。

何かを言おうとした不良は、自分に向けられている敵意と切っ先を見て、状況を把握したようだ。

蓮さんは盲目。けれど、適当に剣を振ったのではなく、棒だけを狙って剣を振った。下手すれば不良もタダでは済まなかっただろうケド、彼はそうしなかった。

つまり、蓮さんは盲目でも剣を扱う事が出来る。しかも、かなりの腕前……。


「……チッ、覚えてろよっ!!」


周りの視線に耐えられなかったのか、蓮さんが向けていた敵意に耐えられなかったのか、不良はそう言い残し子分を引き連れ逃げて行った。


「逃げる時に『覚えていろ』と言うのは負けた者、と言いますが……」


そんな不良達の背中を見送りながら、レイピアを鞘にしまいつつ蓮さんが呟く。

そして後ろに立っていた黒姉に


「大丈夫でしたか?」


と、声を掛けた。


「だ、大丈夫に決まってるでしょ!?」


いつものようにつっけんどんに黒姉が答える。

……何で黒姉はこんな言い方しかできないのかな? もう少し柔らかく受け答えした方がイイ気がするんだけど……。

でも、そんな黒姉の物言いでも蓮さんはにこやかな笑顔を浮かべていた。


「すっごいねぇ、蓮さん!!」

「あの不良の方々を追い払ってしまわれるなんて……」

「迷惑、消える。良い事……」

「た、確かに凄いわね……」


私達がそんな感想を漏らすと同時に街の人達も彼に喝采を送った。


「凄いよ、ニンゲンの方!!」

「あの不良を追っ払っちまうなんてなぁ~!」

「これに懲りて、アイツらも暫くここへは来ねぇだろうな」

「目、見えないのに剣使えるってすっごいねぇ~~!!」


色んな人が色んな事を言ってる。

それら全てを聞き分けられない蓮さんは、また困った顔をして何にどう答えるべきか迷っていた。


「いやはや、あの不良どもを追い払ってしまわれるとは……。なんとお礼を申せば……」


居酒屋の主人も店内から出てきて言った。

蓮さんは、やっぱり微笑みながら返事を返す。


「いえいえ、美味しいお酒のお礼ですよ」


そう言うと、周囲の歓声が大きくなった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「ねぇねぇ、蓮さん」

「何でしょう、三毛さん」


居酒屋と大勢の猫達の群れから離れ、少し静かな通りを歩きながら私は訊いた。


「結構飲んでたみたいだけど……大丈夫?」


少なくとも1本は開けてた……ハズ。

なのに頬は赤くならないし、足元もふら付いていない。

2日酔いとか大丈夫なんだろうか……。


「あぁ、大丈夫ですよ。かつて友人と飲み比べをした事がありまして……。その時彼に『お前はザルなんかじゃない、枠だ』と言われた事があります」


暫し沈黙……。


「……枠?」

「うーんと、底なしって事カナ……」


疑問そうに尋ねてきた玉にそう返す。

と言う事はかなりの酒豪ってコト……!? 人は見かけに寄らないなァ……。

でも、それより何より気になるのは……。


「友人って……。アンタ、身寄りないって言ってなかった?」


黒姉が私の疑問を代弁してくれた。

白姉が「失礼ですよ」と黒姉を制止してるけど、蓮さんは答えてくれた。


「かつて故郷の軍に所属していた事がありまして……。その時に出来た友人ですよ」


そう言った後、「もう、交流はありませんけどね……」と寂しそうに言うのが聞こえたような気がしたけど、黒姉の驚いたような声に遮られてしまった。


「軍!? アンタ、軍人だったの!?」

「お姉様!!」

「いえいえ、驚かれるのも無理はありませんよ。私もこうなる前は多少物が見えていましたから。……まぁ、健常者とは言えませんでしたが」

「生まれつき悪い、言ってた……」

「ええ、生まれた時から目は悪かったんです。こうなったのは……まぁ、色々ありまして」


色々……が何なのかは教えてくれなかった。

でも、少し言うか言うまいか迷ったような……。そんな気がする。


「軍人時代に怪我でもしたの?」

「まぁ、そんなところです」


微笑みを浮かべてそう言ったケド、やっぱりほんの少し寂しそうな、悲しそうな顔だ……。


「蓮さん、もしかして……」

「あーあ! それにしても、さっきの騒動の所為でいい気分が台無しね! どこか他の所に行きましょ」


私の言葉を遮るように黒姉が言った。

白姉と玉もそれに同調して、繁華街から少し外れたところにある喫茶店とかがたくさんある閑静な通りに行く事になった。

……もしかして、私が野暮な事を言わないように黒姉はわざと遮ったのかもしれない。

真意を知る事は出来なかったけど、コーヒーを美味しそうに飲む蓮さんの顔を見ていたら、そんな事どうでも良くなってしまった。

この人の過去に何があったのかは、多分、今知るべきことではないんだろう。黒姉は言葉遣いは悪

いけれど、人の気持ちには敏感だ。蓮さんが過去の事を語りたがらないのを察したんだ。

……いつか何があったのか、知らなければいけない日が来るのかもしれない。でも、それでも、私達姉妹はきっと蓮さんの事を好きなままで居るだろう。

その時まで、彼の過去を詮索しないように……、またどんな過去を持っていても驚かないように心を強く持っていたい……。

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