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妖猫恋愛記  作者: 雨歌
猫と盲目の人間
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水無月観察張 side:三毛 其の一



私の名前は三毛。

この猫の……と言うより、『アカヤシノ世・猫ノ国』を治めてる猫王4姉妹の3女。


ある日の朝、私は小鳥の鳴き声と、今まで感じていた他の姉妹達の温もりがなくなって目を覚ました。

布団からもそもそと出て、大きく伸びをする……。

今日もいい天気だなぁ~。


「おはようございます」


そう男の人の声で言われて、少し驚く。

いつもの侍従の人の声じゃない……?

そう思って声のした方を見ると、目に包帯を巻いた人がこちらを見て微笑んでいた。

あ、そうか。私達の想い人……。


「おはよう、蓮さん」


そう言うと、蓮さんもにこやかに微笑む。


「……お早う、三毛姉」


ちゃっかりと彼の膝の上に収まってる妹の玉が言った。


「ちゃっかり膝の上を独占デスカ……。おはよう、玉」

「…………」


……何だろう、いつも無口なこの妹が今日はやけに機嫌が良さそうに見える。

気持ちの良さそうな喉の音がここまで聞こえてくる。


「……あれ、黒姉と白姉は?」

「私を街へ連れて行ってくれるようで……。着替えに行きましたよ」

「え、うっそ! わ、私も!! てか玉はいいの?」

「いつも、綺麗だし……」


うむむ、変わり者の妹の事は分からないケド本人が言うなら平気でしょ。

慌てて『私も』なんて言ったケド……、蓮さんには私達がどんなにオシャレしても見えないのよね……。

ダメダメ、こんな事考えちゃ! 見えないとこまで気を使うのが女のたしなみ!

それに……、蓮さんなら、見えなくても分かってくれる……そんな気がする。

……ふふふ、これが恋って奴デスカ~?

そんな事を考えながら、私は自室に戻った。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「待たせたわね!」

「お待たせしました」

「お待たせ~」


私達3人がそう言って蓮さんの部屋に戻ったのはほぼ同時。

黒姉は黒地に青い花が舞う着物。

白姉は白地に色取り取りの紫陽花が咲く着物。

私は……水色の生地に赤い金魚が泳ぐ着物。

少し子供っぽいけれど、コレは私の一番のお気に入り。

……初めてお母様に選んでもらった着物。

蓮さんは私達を見て、とても楽しそうに笑っている。


「おやおや、お綺麗なお嬢様方ですね。本来なら男である私が貴女方をエスコートしなければならないのでしょうが……、生憎あいにくとこの世界は不得手なので……。今日は宜しくお願いします」

「ふんっ、望むところよ」

「蓮様のお気に召すような場所があると良いですが……」

「大丈夫、大丈夫~。ここはすっごく楽しいよ~」

「気に入る、間違いなし……」


私達はそれぞれ言った。

蓮さんの膝の上に収まっていた玉は、いつの間にやら『とっておき』にしか着ないと言う黒地に白の波紋模様が描かれている着物を着ていた。

……この妹、侮れない。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




街で1番の繁華街。

人間界の色んな場所・時代を反映させてるらしいから、色んな物がゴチャゴチャと所狭しと立ち並ぶ。

でも、そんな狭さが猫達には大うけしたようで、今では子供達の遊び場や大人達の交流の場となっている。

かく言う私も、子供の頃は姉妹達と街の子供達で『探検隊』を結成してあちこち回ったモノだ。


「凄い……ですね」


私達に手を引かれながら歩く蓮さんは、本当に驚いたように言った。

物珍しそうにあちこちに視線を向けている。

……見てる、のではなく、感じて、いるのだろう。

街に溢れる猫達の雑踏、建物の歴史、街の雰囲気を……。


「ふふん、当然でしょ。『この世界』で1番名高い繁華街なんだから!」

「『この世界』?」

「あ、まだ説明してなかったね。ここはね、色んな『アヤカシ』達の住む世界なんだよ」


そう、ここは様々な『アヤカシ』と呼ばれるモノが住む世界。

私達のように確固たる形を取る者は、同じモノ同士で『国』を作る。

そうでない物はただ『この世界』を彷徨うか、時には人の世で悪さをするモノになってしまうらしい。

……ただ、人の邪気に当てられてしまうと、私達のように形を取るモノでもバケモノになってしまうらしいけど。

それらを総称して人間は『妖怪』と言うらしいけど、まともな私達もその中に入れられてしまうのはちょっと不本意かな……。


「なるほど……。しかし、なぜ人の世に出て行こうとするのです?」

「猫又も含め『妖』は気まぐれなモノです。ここでも十分に幸せに暮らして行けるのですが、一所に居ると飽きが来るもの」

「別の空気、吸いたくなる……」

「そっ。だからこことは別の世界、人間の世界に出て行きたくなる」

「それに……、形を取れない『妖』はここでは差別的な扱いをされるの。居心地が悪くて、悪しき想いを溜め込んで……。やがて人の世で悪さをするようになっちゃうの」

「形、どうあれ……、人の世、荒れるの、そういう事」

「なるほど……」


蓮さんが何かを言おうとした時……。


「あっ、この前来たニンゲンさんだぁ!」


1人の子供が蓮さんを見てそう言った。

今まで何食わぬ顔をして通り過ぎてた人達が皆、一斉にこちらを見る。


「本当だ」

「ニンゲンだ」

「姫様方も一緒だぞ」


わらわらとあっという間に取り囲まれる。


「こんにちは、ニンゲンの方」

「ようこそ、この国へ」

「姫様方、お久しぶりです」

「この世は初めてかな?」

「ねーねー、ニンゲンの世の事聞かせてよぉー」

「うっわぁ、カッコいいヒトねぇ~。さすが猫王4姉妹、見る目があるわねぇ~」

「ねぇねぇ、姫さまたちの誰が1番好きなの~?」


……主に蓮さんが。

人混みにもまれながら、彼から離れないようにするのが精一杯。

困った顔をして、何にどう答えるべきか迷っているみたい。


「ちょっ、ちょっとみんなっ……! 落ち着いて……!!」

「そうですよ、そんなに一斉に聞かれたら答えられる物も答えられませんよ!!」


黒姉と白姉がみんなを落ち着かせて……、私達は1軒の居酒屋に落ち着く事になった。

それでも、店の外にはここ数百年ぶりの人間を一目見ようと、大勢の人達が居たんだけど。


「いや~! この世に人間の方がいらしたなんて、何百年ぶりでしょう!! 確か、今の猫王様が気に入られた方以来でしょうか……。それにしても、まさかこのような古ぼけた飲み屋に足を運んで頂けるとは!!」

「それは……どうも」


苦笑しながら蓮さんは答えた。

……店主の好意で出された酒をチビチビ飲みながら。さっきから見てるケド、結構進みが早いような。


美味おいしいお酒ですね」

「いやいや、もったいないお言葉です! あたしにゃ、これしかないもので……」


自家製の酒で造るのには何年もかかる、とか、家内が死んでから息子と2人でやっているが覚えが悪い、とか身の上話を語り出す店主。

そうだった、この人話し出すと長いんだった……。

……あれ、何だか表が騒がしい。

人混みをかき分けて、誰かが店内に入って来た。


「おやおやぁ~? 誰かと思えば、昨日来たニンゲン様じゃないですかぁ~?」


下品な声と物言い……。うっわぁ、1番会いたくないヤツらだぁ……。

黒姉も白姉、玉までもがゲッソリとした顔になる。

店主も少々迷惑そうになり、何も知らない蓮さんが小声で聞いてきた。


「この方達は?」

「街1番の不良達。普段は路地裏の、スラム街みたいなとこに居るんだけど……。時々こうして表で飲み屋の渡り歩きをしてるみたいで……」

「……なるほど」


そんな会話をしている内に、不良達が私達の前に立つ。

来なくていいのに……。私達4姉妹は、きっとそんな顔をしていたに違いない。

でも蓮さんだけは、愛想良く微笑みを浮かべ親しげに話しかける。


「こんにちは」

「はんっ、『こんにちは』、ね……」


不良の1人が鼻で笑う。

1人が笑うと、引き連れている他の不良も笑い出す。

……感じ悪っ! 

それでも蓮さんは穏やかに微笑んでいる。……この人は何を考えてるんだろう。


「女引き連れて昼間っから酒か! 良いご身分だなぁ?」

「そう仰るそちらも、昼間から飲みに来たのでしょう? 人様に迷惑を掛けながら。そちらの方が余程『良いご身分』なのではないでしょうか?」


微笑みながら毒を吐いた。

出された酒を、美味しそうに飲みながら。

不良が怒りでわなわな震え出しているのに、蓮さんは私達を促し店主に


御馳走様ごちそうさまでした。とても美味しかったですよ」


と、にこやかに言って店を出ようとした。


「おい、待てやコラァ!!」


……まぁ、当然と言えば当然か。

不良がそう怒鳴り、蓮さんは足を止め彼に視線を向ける。


「何でしょう? まだ何か?」

「テメェ、誰に向かって口聞いてんだ、アァ!?」

「……さぁ、私には怯えた猫が人間相手に毛を逆立て威嚇しているようにしか視えませんが?」

「クッ、こンのぉっ……!!」


不良は持ってた棒きれを蓮さん目がけて振り下ろす。


「ちょっ! アンタら、盲目相手にっ……!!」


黒姉が蓮さんの前に躍り出る。

一瞬、蓮さんが驚いたような顔をするのが分かって……。

それからは私の動体視力で分かる範囲では、黒姉の前に蓮さんが庇う様に立ち、不良が振り下ろした棒が蓮さんの頭に当たると思ったら……。

その棒が粉々になっていた。

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