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妖猫恋愛記  作者: 雨歌
猫と盲目の人間
2/6

私を本気で……

「全く、お父様にも困ったモノね!」


黒髪の娘が溜め息交じりに言った。

ここは屋敷の離れのようで、和風な作りで庭がある場所だった。

……が、盲目の青年にはその様子を見る事はできない。

時折聞こえる獅子脅しの音で、辛うじてそれと分かるだけだ。


「勝手に他人引きこんで『後はこの者次第じゃ』? アタシ達の意思はどうなのよ!?」

「お姉様、失礼ですよ!」

「……そんな事言って、一番この方を気に入ったの黒姉じゃないの」

「同意……」


白、茶虎、白黒の髪の娘がそれぞれ言う。

黒髪の娘はうっと詰まる。


「た、確かにそうだけどっ!!」

「ふふふ、皆様は仲が宜しいようですね」


盲目の青年は穏やかな笑みを浮かべながら言う。


「は、はぁっ!? こんなのが仲がイイ、なんてアンタ目が節穴なんじゃ……」

「お姉様!!」

「黒姉っ!!」


妹2人に窘められ、黒髪の娘はハッと口を押える。

だが、けなされた本人は穏やかな笑みを浮かべたままだ。


「確かに、私の目は光を通さないので、節穴かもしれませんね」

「……黒姉、謝る」

「……ご、御免なさい……」


黒、と呼ばれた娘は小さく言い、頭を下げる。

それに倣うかのように白髪の娘も頭を下げる。


「申し訳御座いません。姉が失礼な事を……」

「いえいえ、事実ですから。気にしていませんよ」

「ですが……」

「いえ、本当に大丈夫ですよ。……あぁ、申し遅れましたね。私は水無月。水無月蓮ミナヅキレンと申します」


蓮、と名乗った盲目の青年は深々と頭を下げる。

白髪の娘も、それに気付いたのか再び頭を下げる。


「あぁ、こちらもまだ自己紹介をしていませんでしたね。私はハクと申します。先程から強気な態度を取っているのは姉の黒。すぐ下の妹が三毛。その下の物静かな妹が玉と言います」

「……宜しく」

「宜しくお願いしま~す」

「……どうも」


紹介された3人はそれぞれ簡単な挨拶をする。

蓮は顎に手を当て、何かを考えているような素振りをし、


「貴女が黒さん」


と、黒髪の娘を指し、


「貴女が白さん」


白髪の娘を指し、


「貴女が三毛さん。そしてその傍に居る方が玉さんですね?」


茶虎の髪の娘と、その傍に座る白黒の髪の娘を指す。

言い当てられた4姉妹は驚きを隠せない。


「なっ、なんで分かったのよ!?」

「凄い……」

「目は見えずとも気配は分かりますので……。それに先程猫王様に謁見する時、私の手を引いていたのは白さんですよね?」

「……当たりです」

「凄い過ぎるよ、蓮さん!」

「目にばかり頼っていては見える物も見えない物です。が、見えている事で見える物もありますから、どちらが良いとは言えませんが」


蓮はふふふと笑う。


「それで……あの、さっきの話の事なんですケド……」


三毛がおずおずと尋ねる。

呆気に取られていた3人も我に返る。


「そうそう。あんな話聞かされて、アンタどうする訳?」

「私達は4姉妹。その全員が貴方様に心を傾けてしまったようなのですが……」

「もちろん蓮さんが迷惑なら、無かった事で良いんだよ?」

「……どうするの?」


そうですね、と連は再び考える素振りを見せる。

4人は不安そうな表情を浮かべていた。が、それが盲目の青年に伝わっているかは定かでない。


「先程申した通り、私には帰りを待つ妻子も家族もない天涯孤独の独り身です。なので、こうしましょう」


暫し考えた後、そう言った。

そして、4人がそれぞれいる場所に見えぬはずの目を向ける。

4人は相手には見えていないと分かっていながらも、彼を真っ直ぐ見つめ返す。


「私を……本気で貴女方に振り向かせて下さい」

「……は?」

「え……?」

「私は恋と言う物も愛情と言う物もあまり知りません。なので、私が貴女方のどなたかに愛情を感じ、添い遂げたいと思った方を人の世へお連れします」

「え、えっと……」

「……つまり、蓮に、恋をさせろ、と?」

「そういう事になりますかね……。人の世にはもっと無理難題を言った姫の話があります。それに比べたら、簡単かと……」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


動揺しながら黒が叫ぶ。

混乱している頭を整理させるかのように蓮に尋ねる。


「えっと、それまでここに居るって事?」

「ええ」

「それで……、アンタがアタシ達に愛情を感じなかったら?」

「その時は……残念ですが、このお話は無かった事に」

「い、いつまで居る気なの……?」

「人の寿命は貴女方に比べ短い物。それに恐らく、貴女方に比べ心変わりもし易い……」


にこやかな微笑を浮かべ、黒を見つめる蓮。

つまりは彼は気まぐれにこの世界から去ってしまうか、4姉妹の誰かに心動かされるまでこの世界で過ごす、という事を言ってるようだ。


「ど、どうしますの、お姉様……」

「んな事言ったって……」


白と黒がコソコソ小声で相談し始める。

そこに三毛と玉が加わる。


「蓮さんなら、私達を『見世物』として扱わなさそうだけど……」

「……あの人、良い人そう……」

「人間なんて外見じゃ判断できない。……って、言いたいとこだけど……」


暫く押し問答のようなやり取りが続いた後、黒が蓮に近寄り言った。


「いいわ、気の済むまでここに居ればいいわ」

「……宜しいのですか?」

「但し、アタシ達を含め他の猫達に危害を加えよう物なら、容赦無くここから追い出すからね」


冷酷に黒は言い放つ。

蓮は微笑みながら、


「そのような事は決してしないとは思いますが、不快に思われる行為をした場合は容赦無く追い出して結構ですよ」


そして、深々と頭を下げる。


「では、不束者ふつつかものですが宜しくお願いします」




お気づきの方がいらっしゃるかも知れません。

が、あえて言います。

逆かぐや姫です。

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