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71 ゆく年&くる年 1

 三ゲームが終了して、優勝はぶっちぎり、もちろんこの日の主役である藤田良彦に決定していた。


「見た? 俺の華麗なターキー! 今日という日にふさわしいよな! クリスマスにターキー!」

 祐午は意味がわからないようで、曖昧な微笑を浮かべている。


 並べられた七つのプレゼントの前でうーんと小さく唸って、良彦はやっぱり最初に気になると言っていた渋めの包装紙を手に取った。


「俺はこれー!」

 号田がわかりやすくガッカリしていて、用意したプレゼントが選ばれなかったことがわかる。

「次はレオさんね」


 スプリットだらけの副顧問よりも、投げていくうちにコツを掴んでスコアを上げていった大きな副部長が総合二位になっていた。


「じゃあ、これを」


 お次はスプリットキングに輝いた号田が一つプレゼントを取り、お次は華恋で、続いてよう子が選ぶ。


 残っている。自分のプレゼントが残っている。


 最後まで自分の物が選ばれなくて、華恋はなんとも言えない気分になっている。

 ブービー賞の祐午が選ばなければ、部長の手に渡る。

 不思議と桐絵にあげたいという気持ちになった、魔法の本のような高級ノート。

 あれで文学の神様との交換日記でもしたらいいんじゃないかと思いながら、行方を見守る。


「じゃあ僕はこっちを」


 まんまと。まんまと祐午がノートを選んだ。やはり彼の天然パワーはすごかった。

 眉間に皺が寄ってしまいそうになるのを必死でこらえていると、桐絵の表情が今日一番冴えないことに気がつく。


「あれ、部長どうしました?」

 イケメン少年も気がついたようで、声をかける。

 桐絵がなにか答えているが、声が小さくて聞こえない。

「え?」


 気の弱そうな口元に祐午が耳を寄せる。

 そんな真似をしたら、部長は死ぬかもしれないぞと思いながら見守っていると、美少年が離れてニッコリ笑った。


「なあんだ。そうですか。じゃあ僕のと交換しましょう」


 一番最後まで残ったのは、どうやら桐絵の用意したものだったらしい。

 優しい少年のおかげで、ノートは無事に部長の手に渡り、部長のプレゼントは祐午の手に渡った。

 とても幸せな現象に、場の空気がほんわかと暖かくなっていく。


「よし、それじゃあカラオケ行って、飲み会と行こう!」


 可愛い十三歳の肩に手を回す、調子に乗った二十五歳の腕が礼音によってひねり上げられる。


「あふっ、あの、ホントごめんなさい。冗談です。やめて」


 サンダーがよう子を迎えに現れて、桐絵も同乗している。

 果たしてサンダー家のパーティにあの部長も招かれるのか、それとも単なるついでの送迎なのかは謎に包まれたまま、二人は良いお年を、と去って行った。


 祐午はこのあと家族でパーティ、礼音も父のやっている空手道場のクリスマストーナメントで雑用係をしないといけないとかでもう帰宅するらしい。


「藤田君は?」

「俺はミメイん家でパーティだぜ」


 消極的に出された「私も誘ってくれませんかオーラ」は完全に無視される。

 しかたなく本日子供たちのために散財した心優しい先生は、四人の子供たちを乗せてそれぞれの家に送り届けた。


「あー、ちょう、ちょうちょうちょうちょう楽しかった! ボウリングはやっぱいいわ」

「私はちょっと腕が痛いよ」


 時刻は午後五時ちょっとすぎ。狙った通りの帰宅時間だった。

 ただいまーと廊下を抜けてリビングの扉を開けると、パーンと破裂音が連続で鳴り、少年は慌ててしゃがんでいる。


「なんだ! 狙撃か!?」

「よっしー誕生日おめでとー!」


 渾身のボケとお祝いのメッセージが重なって、部屋の中に響く。

 良彦はぴょんと飛び上がるように立って、クリスマスではなくて、誕生日パーティ仕様で飾り付けされた室内に目を輝かせている。


「わー! すっげー、なにこれ!」


 誰が作ったのか、よっしー13才おめでとう、と書かれた横断幕が掲げられ、折り紙のわっかを連ねたカラフルなチェーン状の飾りが壁に張り巡らされている。

 欧米かよ、と突っ込みたくなるカラフルな風船があっちこっちに浮かんで、クリスマスツリーは端っこで大人しく控え目にキラキラさせられていた。


「ゴージャス! ゴージャスじゃない、これ?」

「こんなに喜んでくれるなんて、頑張ったかいがあったわー」

「これ、マーサがやったんだよー!」


 どうやら部屋の装飾は正子が担当したらしい。確かになんだか、小学校のお楽しみ会的な雰囲気がある。


 しかし色が溢れたパーティ会場は楽しそうなムードに仕上がっていた。

 テーブルの上にはドーンとでっかいチキンの丸焼きが乗っていて、主役の少年はボウリング大会と同じくらいのハイテンションになっている。


「すーごーくーなあーい?」

「すごいね」

「もっと感動しろよ」

「あんたが感動してるんだからいいじゃんか」


 良彦はブンっと勢いよく振り返って、華恋に向けてサイコーの笑顔を浮かべた。


「そうだな!」


 あまりの喜びように、華恋もふっと笑った。

 今日のこの日を一体どうしてくれようかと、悩んだかいがあったというものだ。


 近所の優しいおばさまと姉が作ったケーキが運ばれてきて、少年はますますテンションをあげていく。


「でっけえー!」


 確かに。こんなに大きな皿が家にあったか、記憶を探ってみても見つからない。

 でっかいケーキの上には、円周に沿って苺がこれでもかというくらいギッシリ並んで、まんなかのあいたスペースに、デコペンで良彦の似顔絵が描かれていた。

 ホワイトチョコのプレートには、よっしー★13 Happy Birthdayと二段に分けて書かれていて、とにかく可愛く仕上がっている。


「これ、姉ちゃんが作ったの?」

「ほとんど私じゃないけどね」


 優季は、苺をのせたくらいだよ、と笑う。

 そこに父も帰宅してきて、コートを脱ぎながらリビングへ入ってきた。


「お、間に合ったかな?」

「今からろうそくに火をつけるところ」

「良かった良かった」


 カバンとコートを抱え、ちょっと待って、と着替えに走る。

 そんな家主が戻るのを待って、並んだろうそくに火がともされた。


「十三って、なんか不吉だよな!」


 自分の誕生日になに言ってんだい、とみんなが笑う。言った張本人もケラケラ笑う。

 誕生日の定番ソングを歌って、最後に可愛い顔がフーッとろうそくの火を消した。

 拍手が起きると、良彦と優季が本当に可愛らしい顔で笑った。


「よしくん、これ、私から」

「わーお。なに?」

「これは私たちから」

「うわー、嬉しい! すいません。ありがとうございまーす!」


 姉と美女井家両親からプレゼントを渡されて、良彦はニッコニコだ。


「よっしー、これは私から」

「マーサちゃんも?」


 正子のプレゼントは包みよりもカードの方がデカい。

 カラフルなカードを開くと、少年の似顔絵とお祝いのメッセージが書かれていた。


「似てねえー!」

「ひどいよ、よっしー!」


 ゲラゲラしている隣の席の少年に、華恋も一歩踏み出す。


「これは私から」


 先日見つけた雑貨店にあったもう一つの素敵アイテムを差し出すと、良彦はゲラゲラをピタっと止めて華恋に笑顔を向けた。


「サンキュー、ミメイ!」

「あと、これも」


 ずっとこっそりと隠していた更なる贈り物を、ずいっと差し出す。


「なにこれ?」

「みんながくれたの。藤田あてに」


 部活の最中にこっそりと渡された、仲間たちからのプレゼントだ。

 桐絵とよう子の二人から、礼音から、祐午から、そして号田から。

 それぞれのプレゼント詰め合わせになっている。


「マージーでー?」

「うん」


 お食事そっちのけで、プレゼントの公開が始まった。

 優季からは新しいTシャツ、美女井夫妻からはカバン、正子からは小さな可愛いクマのぬいぐるみ。


「なんだよマーサちゃんは。俺のことなんだと思ってるの?」

「えー、だって、よっしーに似合うと思って」

「中学生の男だよ? こんなの彼氏にあげたらビックリされるぜ?」


 容赦ないダメ出しに、女子小学生も少し慣れてきたようだ。


「彼氏なら、彼女からもらったもの、大事にするんじゃない?」

「彼氏じゃねーし!」


 良彦はケラケラ笑う。


「でもサンキュー。せっかくだから飾っとくよ」

「うん」


 プレゼントの開封は続いた。華恋からは深いグリーンが上品なボールペンだ。


「お、なんだこれ。なんかお前らしくないな」

「どういう意味かな」

「いや、嬉しいぜ。サンキュー!」


 一言多いわ、と思いつつ、めでたい日なので余計なツッコミは飲み込んでおく。

 桐絵とよう子からは「ダイアン・ジョー特集」が組まれたメイク専門誌のバックナンバーが入っていた。


「これ……っ、買い損ねたやつだ!」


 良彦はきゃっほーと喜びつつ、次の包みを開ける。

 副部長からは、黒と銀のラインストーンでデコられたメイク用ブラシセットが入っていた。

 使いにくいぜー! と感想を述べながら、祐午から贈られた袋をあけて中身を取り出しかけて、慌てて戻す。


「どしたの?」

「いやっ」


 このセリフに続きはなかった。良彦は丁寧に袋をとじて、もらった紙袋の奥へ突っ込んでいる。


「ユーゴの奴、半端ねーわ」


 どうやらこの場に出せるようなものではなかったようだ。

 なんとなくみんなが黙る中、最後は今日一番張り切っていた優しい先生から。


「うわー」


 中に入っていたのは、ヘアサロンGOD・Aの永久無料優待券だ。

 それをゲラゲラ笑って袋の中に戻すと、良彦が明るい声で宣言した。


「よし、じゃー、食べようか!」


 こうして藤田良彦十三歳の誕生日会は、夜まで楽しく続いた。

 

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